第十四話 憤怒の力
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悲惨な過去のおかげでこの力が備わったデウス。
過去を乗り越えられた者にのみ備わる人間を超越する力。
デウスは大剣を構え直した。
ビングルは予備用に取っておいた銃を取り出す。
ビングルは危機を感じ、距離を取る。しかし、デウスはそのことを察知して即座に突撃を測った。
デウスの大剣は真っ直ぐビングルを貫くように突き立てられている。
ビングルは銃を発砲。デウスはそれを躱し、再び突撃に移行した。
ビングルは後退を諦め、前に突き進んだ。
大剣と拳銃がぶつかり合い、軋み合う。
デウスは蹴りを入れ込む。
ビングルに直撃し、後ろに吹き飛ばされる。地面を転がった後、再び立ちあがって連射。
デウスは進みながら全て大剣で弾く。
デウスの大剣はビングルのすぐ側まで迫っていた。
ビングルは体勢を崩した。
『まずい!』
体勢を崩したことでデウスの攻撃をギリギリで避けることが出来た。
ビングルは至近距離で発砲。
デウスは大剣で受け流し、後方へ退避。
ビングルは片手で地面を押し、上部へ飛び上がり、着地する。
「危なかった。」
「仕留め損なったか。」
デウスは体勢を低く取る。
ビングルはデウスの左脇腹に銃口を向ける。
横腹は人間にとってかなりの弱点になる。そこを撃ち抜かれたらかなりの激痛が走るだろう。
それを承知で脇腹に銃口を向けている。
デウスは進むことなく、相手の出方を伺っている。とは言っても、目が見えない状態だ。咄嗟の判断力は少し落ちている。
先程のビングルの至近距離発砲も受け流すのがやっとだった。
ビングルは警戒をしていると確信し、銃を発砲した。
デウスは受け流さず、躱すことにした。
しかし、一発目は囮だったようだ。
デウスの左肩に銃弾が命中し、血が垂れる。
細く赤い一本の血の流れがキラキラと太陽に照らされている。
「やっと弱点を見つけたぜ。」
デウスは目が見えないため、銃弾の軌道や発砲数を即座に判断できない。
そこが今のデウスの弱点だ。
「チッ。」
デウスは舌打ちをする。
見せてはいけない弱点を見せてしまった。
銃の同時発砲には弱い。
『弱点を知られた。即実行してくるはずだ。対策法をーーー』
思っている間に銃弾が撃たれ、デウスの左脇腹に的中する。
「くそっ。ヤバい。」
「やっと弱音吐いたな。」
思わず出た言葉がビングルの心に安心感を与える。
デウスは一歩後ろに下がる。
しかし、銃弾は止まることなく、デウスに傷をつける。
デウスには対策法が無かった。
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ビングルの攻撃は増すばかり。デウスの体には傷が増えるばかり。
ビングルには得。デウスには不得でしかない。
デウスは何発か弾くが、弾き切れなかった銃弾はデウスに命中する。
デウスには勝つ術がない。今現時点。
それを見ているフローレ達は負けるなという気持ちを持っている。
しかし、その思いも消え去る。
デウスの体はボロボロで立ち上がっていることが奇跡な程だ。
ビングルのリベンジマッチはここで終わろうとしていた。
デウスは体から血を流し続けている。
ビングルの攻撃から逃れられてもいづれ大量出血で命を落とす。
デウスは何故か龍化しない。
龍の姿になれば今の状態でも勝てるはず。なのに、デウスは龍化をしない。
デアはデウスを助けようとデウスに近づいた。
しかし、
「来るな。これは俺の戦いだ。」
そう言って助けを拒んだ。
デウスにもいじってものがある。俗に言うプライドってやつだ。
デアはデウスの気力に負けて下がる。
デウスの目は何かをしっかりを捉えているような眼差しだった。
濁ったように薄汚い眼球に変わり果てていたが、それでも生きているようだった。
ビングルは笑みを浮かべて拳銃を二つ構える。
「そろそろ終わりにしてやるよ。サヨナラだ。」
そう言ってビングルは銃を同時に発砲した。
銃弾は二発とも別々に飛び、一方は脳天へ、一方は腹部へと飛んで行った。
絶体絶命のピンチに追いやられていた。
デウスは下を向いていた。
顔は髪で影を作り良く見えなかったが、薄く笑みを浮かべていた。
直後、銃弾は二つとも弾き返された。
金属の弾ける音が響き渡る。
「な、何が、」
デウスは顔を上げた。
影で隠れた顔は次第に光によって見えてきた。
ビングルとイラデゥエトスは愕然とし、デア達は少し笑みを浮かべていた。
デウスの右眼が開眼している。
縦に傷の入った瞼の中央に綺麗に輝く目があった。
瞳は炎のように紅く、白の部分は少しだけ赤い。
「これで見えるぜ。」
デウスはそう言って大剣を肩にかけた。
「何故だ。右眼は切ったはず。それに視力は奪って、」
そこでビングルはあることに気づき、絶望を抱いた。
「まさか、憤怒の力。」
憤怒の力。限界突破。自らの限界を超えることが出来る。
要するは通常でも異常でも考えられないほどの力や回復力を発揮することが出来る。
デウスは開眼した右眼を少し抑え、手を構えに向ける。
「これなら殺されねぇ。」
デウスの今の気力を感じてビングルは銃を向け直す。
しかし、もう遅い。
デウスとビングルの距離は一メートルもなく、拳銃は両方先端から切り裂かれていた。
「なんちゅう速さだよ!」
ビングルはそう言って距離を取ろうとした。
その行為さえも今のデウスにはチャンスでしかなかった。
ビングルはデウスに蹴飛ばされ、後方へと吹き飛ぶ。
「今から宣言する。」
デウスはそう言い、大剣を地面に突き刺した。
「今からお前に武器を使うことは無い。暴力で倒してやるよ。」
完全に煽られているビングル。
ビングルは立ち上がり、声を上げてデウスに突撃した。
「あああああああ!」
ビングルの右拳はデウスに直撃。だが、デウスは怯むことなく立ち尽くしていた。
「そんなもんか?」
そう言ってビングルの横腹を蹴飛ばした。
ビングルは体を横に反る。
もう反対側の横腹からは波動のようなものが生じ、地面が抉れる。
「!!!」
ビングルは口を大きく開け、言葉にならない叫び声を上げた。
デウスはそのまま押し出すようにビングルの体を脚のみで飛ばした。
ビングルは吹き飛ばされ、壁に激突する。
壁は凹み、人の形が刻まれた。
ビングルは両腕を大きく伸ばし、顔は下を向いていた。
「そろそろ終わらせよう。」
ゆっくりと歩み寄ってくる狂気に溢れたデウスが言葉をかける。
デウスの右手の甲からは炎がゆらゆら揺れていた。
「デウス!殺しちゃダメよ!」
イリビードがデウスに言葉を投げかけた。
「分かってるよ!」
デウスはそう返し、気絶目当てでビングルの腹を殴ろうとした途端だった。
ビングルがナイフを腰から取り出して振り始めた。
剣士武器と言っても小さなナイフぐらいならどのジョブでも扱える。
ナイフはデウスに当たることなく振られていた。
デウスは遊ぶことにした。
躱しならがらナイフをちょっとづつ折っていく。
ビングルはそれを分かりながらもナイフを振るのをやめない。
何か作があるのだろうか。
そんなことも思わずデウスは遊び続ける。
等々ナイフは鉄を亡くした。
ただの柄のみとなった。
「もう終わりか。」
デウスはそう言って頭を掻く。
「これで終わりだな。」
デウスは最後の抵抗を虚しくぶち壊し、ビングルを殴った。
ビングルは後方へ飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
デウスが気絶したか確認しようと一歩を踏み出した途端、足元に痛みが走った。
小さな爆発がデウスの足を襲う。
『地雷?』
デウスはもう一歩を踏み出そうとして足を止めた。
「そうだ。地雷だ。」
ビングルはゆっくりと立ち上がる。
まだ倒れていなかった。
「図太いな。」
デウスはそう言って体勢を変えた。今にも走り出しそうな体勢だ。
ビングルはそれを予測していたかのう用に言う。
「この地雷は風でも反応するぜ。振動だけでもな。」
万能地雷。まさにこの事である。
デウスは少し悩んだ。
地雷は食らっても別に痛くはないが今の体の状態はかなり満身創痍だ。下手に攻撃を喰らえばすぐに倒れてしまうかもしれない。
そこでデウスは閃いた。
地雷の爆発よりも速く進めばいいのだと。
しかし、さすがにデウスも出来ない。
地雷の爆破速度は測りきしれない。
それに振動だけでも起爆するとなると光の速さか瞬間移動でもない限り無理な話だ。
悩ましい問題だ。
ビングルも近づくことが出来ない。
デウスは後ろに下がろうとしたが、後ろにも地雷が設置されていることに気づいた。
四方八方地雷だらけ。逃げ道がない。
唯一の脱出方法は自分が喰らわないように地雷を一つ一つ起爆させなければならない。
しかし触れるだけでも地雷は反応する。
対策法がない。
「そこから動けねぇだろ。」
何故か自慢げに告げるビングル。
デウスはそこまで危機とは感じていないが進めないという面倒くささが這い寄っている。
「お前も動けないだろ。」
デウスは対抗するように言い放った。
「俺には別の方法がある。」
そう言って小さなポケットから何かを取り出した。
緑色と銀色の長円形のものだ。
迷彩用の緑色が目立つ。
そこでデウスは即座に察知した。
それがグレネードだということに。
ピンを抜いて上部の銀色の鉄を外せば起爆できる。
デウスは動くことが出来ない。かと言ってグレネードは地雷よりも厄介だ。
デウスには対策法が本当に無かった。




