第十三話 ビングルのリベンジマッチ
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デウスとビングルの間には小さな風と砂埃が舞う。
二人共動こうとしない。
警戒し合い、睨み合う。
「行くぜ!」
デウスはビングルに言い放ったのではなく、手を翳す龍鱗に言った。
それに反応して龍鱗が熱を放った。
それは距離のあるビングルやデア達にも伝わった。
デウスは地面を蹴った。
それと同時にビングルは拳銃を両方取り出した。
デウスは銃持ちには近距離戦は向いていないと考え、急接近した。
だが、それは間違いであった。
デウスは銃のことを知らない。
弓と同じだと思っている。遠距離タイプは同じだが、威力や速度、貫通力。全てが弓とは違って優れている。
デウスの横腹を銃弾が掠る。
デウスは反面驚いていたが、そんなことは気にせずに大剣を斜め下から振り上げる。
大剣ともなるとリーチが長い。
だが、ビングルは大剣の軌道を読み、回避する。
デウスは追撃をせず、左右に動きながら距離を取った。
「銃だと近距離戦は無理だと思ったか?」
ビングルは誇らしげに言う。
「まぁいい。次はその銃をぶった斬ってやる。」
デウスは構えを変える。腰を落とし、左掌を敵に見せる形にする。虎口の上に翳すように大剣の刃先を近づける。右手を上に上げ、左手を下に下ろす。
相手の支柱を突き抜く体勢だ。
この構えは大抵の剣士が使う体勢だ。しかし、PvPで使用されるのはほとんどない。
刺される場所や斬られる場所がバレてしまうからだ。
しかし、デウスはその構えを取る。
デアはこの構えを使ったことがない。
この世界ではこの構えを″虎ノ威″と呼ばれている。
「目付きが変わったな。」
ビングルはそれに気づいて拳銃を剣を持つ右手に向ける。
その直後、ビングルは銃を発砲した。
銃弾は真っ直ぐデウスの右手に飛ぶ。
しかし、その拳銃は火花を散らして弾かれた。
「なにっ!」
拳銃はデウスの右手ではなく刃区に当たった。
このことを人呼んで変則ガード(超人防御)という。
常人には出来ない芸当だ。
先ず剣の使い手でさえも難しいレベルのガード方法だ。
それを刃区で防ぐ。
もはや人間ではない。
「龍の炎紋よ。俺に力を貸せ。蒼焔!」
デウスの右手の紋章が蒼く燃え始めた。
龍鱗は紅く燃焼する。
それに蒼い炎が交わる。
蒼と紅の混合色。そう、紫だ。
邪悪な炎は大剣を包み、デウスの右半身を灯す。
「おいおいマジかよ。」
フローレはそう言って驚いていた。
「なに?」
デアがどうしたのかと思い、問いかけた。
フローレは少し苦笑いしながら答えた。
「絃紋だ。」
「絃紋?」
「あぁ。普通なら十四年から十六年。早くても十年も修行を積まないと習得できない技だ。あれは紋章の絵柄によって効果が変わる。我の紋章はドラゴンが火を噴く絵柄だ。だから全色の炎を出せる。その中でも出すのが至難の技を問われる色の炎が紅黒と蒼彗だ。」
デウスの今出している炎は蒼色。
蒼彗だ。
蒼彗は九年。紅黒は十二年かかる秘伝の焔だ。
それをあっさりと習得して使っているデウスはもうただの人間では無い。
「紫の、炎。」
ビングルは愕然としている。
「おいおいまだまだ本気じゃねぇぞ?さっきまでの気力は何処に行った?」
嘲笑うかのように言葉を放つデウス。
ビングルは舌打ちをする。
「いつまでもムカつくクソッタレだ。いいぜ。その気力も俺が射抜いてやるよ。」
ビングルは右手の拳銃をデウスの脳天に向ける。
デウスは重心軸である右足を後ろに伸ばす。
地面を蹴りやすくしているのだろう。
ビングルは左の拳銃を構えない。
デウスはなにか引っかかっていたが、勝つ自信が無くなったのだと思い込んだ。
デウスとビングルが睨みつけ合い、両者とも武器を強く握った途端、デウスは地面を蹴った。
ビングルは一発発砲。デウスは右手を頭の上に置き、剣を顔に被せるように持つ。
銃弾は弾かれ、どこかへ飛んで行った。
「はあああああ!」
デウスは掛け声と共に大剣をビングルの溝に突き立てた。
その瞬間だった。デウスの右眼に亀裂が走る。
「ぐっ!」
デウスは歯を噛み締め、右瞼を閉じる。
右眼からは血が溢れ出る。
デウスの大剣はビングルの服を少し溶かしたが、刺さりはしていない。
デウスは追撃をギリギリ躱して距離を取った。
「どうだ?効くだろ。俺の新スキルだ。」
どうやらデウスの右眼を切りつけたのは拳銃のようだ。
「もう右眼は開かねぇ。」
デウスは右眼を抑える。
「近接斬撃銃。銃を剣と同様に切り刻めるようにするスキルだ。」
近接斬撃銃は銃使いのかが会得出来るスキル。
デウスの頬を伝う赤黒い血液。
だが、デウスは全くとして痛がっていない。
目が見えないから目を塞いでいるだけで痛がっているという事ではない。
「この目どうしてくれんだよ。もう使い物になりゃしねぇ。」
デウスの少し微笑む顔を見てビングルは驚愕する。
「右眼を斬られてなんで笑ってんだ、」
「戦いは好きだ。この自分の一部を失う高揚感。たんまんねぇだろ?」
「狂ってやがる。」
デウスは大剣をビングルに向ける。
「右眼をやられたから、俺は心臓の機能を止めてやろうかな。」
脳内が殺すのみになっているデウス。
ビングルは勝つ自信よりも恐怖の方が上回っている。
ビングルはもう一度拳銃を突きつける。
「撃ってみろよ。」
デウスの左眼からは光がなく、兇悪と苦境がビングルに襲いかかった。
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ビングルは手を震わせ、トリガーを引く力を失う。
「目を、覚まして、ください、!」
ビングルの後ろから大きくてそれでいて慌ただしい声が聞こえた。
その言葉を放ったのは憂鬱の罪龍だった。
「イラデゥエトス。」
ビングルは振り返る。
デウスは面白そうだから少し話を聞くことにした。
「あなたは、リベンジを、したいのでは、ないんですか、!?」
「あぁ。リベンジが俺の夢だ。」
「だったら、たった一つの、笑みに、負けないで、ください、!」
ビングルはその言葉に目が覚めた。
「そうだな。こんなことで挫けてたらリベンジなんて百年かかったって出来やしねぇ。」
ビングルは拳銃を強く握り、デウスに笑い返した。
「やろうぜ。」
デウスは大剣を肩にかけた。
「いい顔だ。」
デウスは陽の構えをとる。
ビングルは右拳銃の発射口を相手に向け、左拳銃は右腕の上に乗せ、二連追撃の構えをとる。
「叩き斬る!」
「蜂の巣だ!」
デウスは地面が抉れる力で蹴飛ばし、抉れた地面から一気に距離を取る。
ビングルは右拳銃を一度発砲してから左拳銃を発砲した。
それを何度も続けた。
デウスは体の至る部分に撃たれ傷を作りながらビングルに飛びかかる。
デウスはビングルの右拳銃を壊した。と同時に、デウスの右手の甲を銃弾が通り、抉られたようになった。
そのままデウスは追撃に出たが、瞬間的に視界が暗くなっていた。
デウスは驚いて後ろに飛び退く。
しかし、視界は戻らぬまま。
「こいつは貰うぜ。」
そう言ってもデウスは何を盗まれたか全くわからない。
しかし、デア達には盗んだものは見えていた。
煌びやかに光り輝く真珠のような輝き。大きさは小さいがとてもしっかりとしている見た目。
「目が見えねぇ。」
デウスのその言葉にデア達は即座にそれがなんなのか理解した。
″視力″だ。
視力を真珠に変えられて奪われたのだ。
「これで俺が少し有利だな。」
これはビングルのスキルではない。
これは
「憂鬱の力。」
フローレは呟いた。
憂鬱の力。それは相手の能力を一つ奪い取ることが出来る。それは返すことが出来る。
「憂鬱の、力。」
デアが少し絶望帯びた声で繰り返した。
九つの罪龍には一体一体に力が備わっている。それを人間は″証″と呼ぶ。
フローレは憂鬱の恐ろしさを知っている。
唯一傲慢と対等に戦える迓仂の持ち主。
七体で傲慢に勝てない程傲慢は強い。しかし、傲慢は憂鬱とはタイマンで一度敗れている。
「これは主もやばい。」
そう言ってデウスのことを見守るフローレ。
デウスも今回は敗れてしまうかもしれないという恐れがフローレに見られた。
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デウスは視力を失った。
いつもより鮮明に音を感じる。いつもより鮮明に空気を味わえる。
そして、鼻を潰す程の匂いを放つ血。
「くそ。」
デウスはそう言って大剣を振る。
『何も見えやしねぇ。』
デウスは暗黒の中で一人たっていた。
突如、爆発音とともにデウスの右頬を何かが掠る。
そして右頬から爛れる血液。
間違いなく発砲された。
「目が見えないって嫌なもんだよな。」
前方からビングルの声が聞こえる。
しかも、かなりの近くで。
「お前を殺す手段はいくらでもあるが、これは一度使ってみたかった。」
ただの好奇心での略奪だった。
デウスはため息をついた。
「もういい。とりあえずやろうぜ。」
デウスは何かを刃で威圧するように大剣を持つ。
ビングルは驚いていた。
視力はないはずなのに、ビングルの場所を正確に感知して首元に大剣の刃を切れない程度で押し付けてくる。
ビングルの気だけで場所を察知しているのだ。
「飛んだバケモンだな。」
ビングルは鼻で笑う。
「そうだな。」
デウスはそう言って何かを切った。
ビングルの左手の甲だった。
傷は浅いが、血が出ている。
目の見えないものがこれ程までの正確さで敵の手を切る。
これはフローレの力ではない。純粋な自らの力だ。
デウスは小さい頃から死角からの攻撃をよく受けていたため、目が見えなくても大抵場所や距離は気迫で分かる。
通常の人間は一万年修行してもこの技術は習得が不可能だ。
デウスに視力はほとんど不要だった。
「続きだ。目が見えないからって舐められたら困るな。」
デウスはビングルを睨みつける。
本当に目が見えているかのように。




