第十二話 チグリクト鉱石の存在
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森林地帯に足を踏み入れるデウス達。
ヒラナリ国までは五キロメートルぐらいはある。
歩いていって約一時間中ってところだ。
デウスは足がかなり速いため走れば四十七、八ぐらいだろう。
他の皆は一時間を切るぐらいだ。
その事も踏まえてデウスは少し早歩きで進む。
それでも少しデウスが早く前方へ進む。
そのスピードに一応だが皆はついてくる。
「ねぇ、少し速いんじゃない?」
デアがデウスに言ってくる。
「俺は早歩きで歩いてるだけなんだが、速いか?」
デウスは皆の返答次第で歩く速度を変えるつもりだ。
しかし、デアやフローレは負けず嫌いであった。
「「大丈夫!」」
少し強めにデウスにそう言い放ったデアとフローレ。
勢いで押されたデウスは気を使うように言った。
「お、おう。そうか。」
二人の気力は凄まじい。
デウスも押さえつけるほどの気力である。
そのまま森林の奥地へと歩いていく。
等々光が見え始めた。
「出口だ。」
デウスはそう言ってスピードを少しあげる。
そのスピードはまるで走ったようだ。
デアとフローレもそのスピードについて行く。
ほとんど歩いているとはいえない。走っているの方が正しい。
デウス達は森林を抜けた。
吹き荒れる風。靡く草。自然の、大地の香り。
デウスは等々普通に走り出した。
デアやフローレ達も走り出した。
デウスの足はやはり速い。
皆は追いつくのがやっとである。
どんどんとヒラナリ国に近づいていく。
その道中に面白いものを見つけた。
「これは、」
デウスはそれを拾い上げる。
キラキラと光を放ち、歪な形をしている石。
赤色に青色の牙線がなぞられているようだ。
「どうしたの?」
少し息を切らしているデアがデウスに聞く。
デウスは冷静に答える。
「道にこれが落ちてたんだ。」
その石をデア達に見せる。
「珍しい鉱石ね。」
赤色の鉱石は死の象徴と言われている。逆に白みがかった青色の鉱石は生の象徴と言われている。
この鉱石はその両方を掛け持つ鉱石だ。
珍しくない訳が無い。
「これはチグリクト鉱石だな。」
「チグリクト鉱石?」
フローレの回答にまた疑問投げかけるデウス。
「世界でも有力な力を持つ鉱石だ。今人間が持っているのが世界の約一割程度にしか満たない程の量。かなり値が高いはずだ。」
フローレは一人で手を口に当てて語る。
デウスとデアは訳が分からないまま話を進められて少し混乱している。
「確かそれ一グラムに純金貨五百枚はいるわね。」
イリビードがそう言葉にする。
純金貨とは金貨を百枚集めれば一枚と交換出来るとてつもなく高価な金貨のこと。
その純金貨を五百枚となると金貨を五万枚必要とする。
フローレの持っている金貨の量でも到底辿り着かない量だ。
一グラムだけに純金貨を五百枚。馬鹿げている。
「じゅ、純金貨五百枚。一グラム。なんて高価な鉱石なんだ。」
「でもこのチグリクト鉱石大きいよね。何グラムあるんだろ。」
デアが疑問に思っている。それにもイリビードは応答する。
「この大きさならざっと一キログラムはあるんじゃないかしら。」
「一キログラム!?」
デウスは驚きを隠せずに大声を出す。
「一キログラムだと純金貨が五十万枚ね。」
もう訳が分からなくなったデウス。
「でもどうしてチグリクト鉱石がこんな所に。」
「選択肢としては二つほどある。一つはかなり金持ちが買ったか。それともモンスターが持ち出してたまたま落としてしまったかの二択だ。」
流石に一の選択肢を選ぶものはいない。かと言って二つ目も考えられない。
しかし、鉱石を食べるモンスターなら千種類はいる。
チグリクト鉱石はマグマで構成されて自然的に創られる完全純正鉱石。
鉱石を食べるモンスターの中でマグマに入れるモンスターは二十種類ぐらいいるはずだ。
モンスターが持ち出したという説もあながち間違ってない。
「二の選択肢が妥当だろうな。」
アブァリティアがそう言う。
デウスは手に持っているチグリクト鉱石をどうしようか悩んでいた。
すると、フローレがデウスに言った。
「チグリクト鉱石は武器に使用されることもある。一万分の一グラムくらいでな。」
その言葉を聞いてデウスは行動に移した。
大剣を背から取り出す。
そして、大剣に鉱石を重ねた。
勿論刃の方に。
「デア。爆炎魔法って使えるか?」
「えぇ。でもここ一帯が吹き飛ぶわよ。」
おぞましいことを表情一つ変えずに言い放つデア。
デウスは少し考える。
「よし。」
そう言ってデウスは大剣と鉱石を離す。
そして大剣の剣先に鉱石を突き刺した。
かなり硬い鉱石だが何とか刺さった。
デウスはその大剣を右手に投擲フォームになる。
「何する気?」
デアが聞いてくる。
デウスはデアを見て答えた。
「空中爆炎の魔法って持ってるか?」
「えぇ。半径一キロぐらい範囲があるわ。」
「了解。」
そう言ってデウスは大剣を握る右手を後ろに伸ばす。肘を伸ばし、体を後ろに倒す。
左手を前に出し、左足を曲げて右足後ろに伸ばす。
そして、勢いよく右足を前に出して右手をほとんど垂直に上部に投擲した。
速さが異常すぎて一瞬で見えなくなった。
「今飛んでった大剣に爆炎魔法を掛けてくれ。」
「出来るかわからないけどやってみるわ。」
デアは上を見た。
大剣が飛んだであろう方向を見て呪文を唱えた。
「終爆炎獄覊!」
上の方で爆破音が聞こえ、円状に炎が蠢く。
風圧がかかる。
太陽よりも強い光を放つ。
そしてデウスの目の前に大剣が落ちてきた。
爆発の影響で少し落ちる場所がズレたのだろう。
煙を放つ大剣。マグマのような熱を帯びている。
デウスはその大剣を握る。
普通なら手が溶ける。
しかし、デウスは手が焼けるような音がしているのにも関わらず微動打にせず大地に突き刺さった大剣を引き抜いた。
そして大剣を思いっきり斜め下に振った。
大剣が突き刺さっていた地面は溶けていた。
ドロドロと液体のように蠢く地面。
大剣は赤い光を失った。
そして顕にした大剣の見た目は変わっていた。
柄には金線が鍍金のように入っていて輝いている。
樋には青く燃え盛るような線が気がまれており、刃は赤が強めの紫色になっていた。
「出来た。」
誰もが見蕩れるほどの美しさ。
綺麗に太陽の光を反射させる。
「綺麗。」
デアが少し間抜けな顔でそう言う。
新たに生まれ変わった龍鱗。
当の本人、いや、当の本剣も喜んでいるご様子だ。
「斬れ味は流石に悪くないだろ。」
そう言って大剣を地面スレスレに振る。
すると、地面に横に切られたような切れ目が入る。
それも深い。
「これなら流石に負けるってことは無さそうだな。」
そう言ってデウスは大剣を背に収めてヒラナリ国へ走り出した。
デア達も少し呆気に取られていたがデウスの走る姿を見て走り出した。
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門の前まで来たデウス達。
門番はデウス達のことを覚えていたらしく、あっさりと中に入れてもらえた。
中に入ると、工事はすっかり終わったようだ。
仕事が速い国だ。
「やっと来たな。」
横から声が聞こえた。
デウスとデアは見知っている声だった。
特にデウスの耳には残っていた声だった。
「遅かったじゃねぇか。」
デウス達は声の方向を見る。
デウスは言葉を返した。
「済まねぇな。道草食っててよ。お前こそ急に手紙寄こしてきたじゃねぇかよ。ビングル。」
「へぇ、俺の名前を知ってるのか。」
「お前を負かしたあの日にこの街の奴らから聞いてな。」
負かしたという言葉に少し不機嫌になるビングル。
根に持っているようだ。
「まぁいい。前回と同じ場所で戦おうぜ。決着だ。」
ビングルは少し顎を上にして言う。
デウスは笑みを浮かべる。
「いいぜ。ビングル・ビルグルル。」
そう言って移動をし始めた。
フローレやイリビードは場所を知らないためデウスとデアとビングルについて行くのみ。
前回の戦闘場に着いた。
「さ、直ぐに始めようぜ。」
「少し待ってくれ。」
そう言ってデウスは後ろを向く。
「お前らは下がっててくれ。怪我されたら困る。」
そう言ってデウスはデア達を下がらせる。
そしてビングルの方を見る。
「始める前に一言言おう。」
「なんだ?」
デウスはビングルでは無い者に声を出した。
「隠れてても見えてんだぜ。」
そう言った方向から女性の姿が出てきた。
「ば、バレて、ましたか。」
かなり辿々しい。
しかも敬語。謙虚というより怯えだろうか。
声が震えている。
「流石に分かる。そのビングルの右胸の紋章を見ればな。」
デウスはビングルの胸元の紋章に気づいていた。
聖杯に闇が舞踊っているような紋章だ。
「バレちまったらしょうがねぇ。こいつは俺と契約した憂鬱の罪龍だ。」
憂鬱。虚飾と死んだと思われていた九つの罪龍の一体。
こちらも虚飾と同じ理由で死んでいないのだろう。
「ま、そんなことはどうでもいい。」
「かなり強気だな。憂鬱の力を持っている俺の前で。」
デウスは笑みを浮かべた。
「俺も同じ契約者だ。そこまで怖くねぇよ。」
「そうか。なら始めるぜ。」
デウスは大剣に手を翳す。
ビングルは二丁拳銃に手を翳す。
両者とも睨み合う。
どちらが先攻を取るのかまだ分からない。
デア達は観戦するのみ。
手出しは無用だ。
しかし、デウスはまだ知らなかった。
憂鬱の力の恐ろしさに。




