第十一話 ビングルからの手紙
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「終わったー。」
デウスはそう言って地面に転ぶように座った。
「そこまで長くなかったね。」
デアはデウスの隣に立つ。
「あぁ。」
デウスはそう言って立ち上がる。
座った意味もないように。
「少し腹減ったな。」
時間も時間ということでデウスはお腹が空いていた。
「私もお腹すいたな。」
そう言ってデアはお腹を抑える。
すると、疲れた様子のフローレが何かを袋に入れて持ってきた。
「おーい!お前ら、飯いるか!」
デウスはフローレを見て
「いる!」
と嬉しそうに答えた。
デアは小さく頷く。
「よし来た!」
フローレはこちらに近づいてくる。
デウスは両手を組み、頭に当てる。
「フローレは気が利くな。」
一度死んだ者が吐く言葉とは到底思えないが、何だかんだ生き返ったデウスだ。
デアはデウスの死を思い出すことも無く微笑んだ。
「そうね。」
まるで本物のカップルみたいだ。
距離感も近い。デウスの死のおかげだろうか。
これだけ聞けばヘルトとアブァリティアは正義に聞こえるが全くとして正義ではない。数時間前は。
フローレは袋の中からギリキクというプラスチックによく似たものから作られた長方形の入れ物に食べ物が入っていた。
「これ何で食うんだ?」
デウスがそう聞くとフローレは胸を張って言う。
「この割り箸で食べるんだよ。」
割り箸。この世界では滅多に見かけない代物だろう。
基本の食事はフォークを使う。
「割り箸?」
「知らねぇか?箸を木で作ったものだ。」
「あれ?箸って元々木で作られてなかったか?」
「普通の箸はコーティングが施されてる。でもこの割り箸はコーティングなしの箸だ。」
「へー。そうなのか。」
そう言ってデウスは割り箸を手に取る。
しかし、またそこで問題が発生する。
「これどう使うんだ?」
「右の箸と左の箸を片手ずつで掴んで横に引っ張る。すると?」
パキッという音と同時に先程まで一本の箸が一膳の箸に変わった。
「すげぇ。」
「これを開発したのはコクホウ国だってさ。」
「コクホウ国?」
「あぁ。別名で倭国とも言われているな。」
「どこか知らんがいつか行ってみるか。」
「そうね。」
デウスとデアは飯を食べた。
まるで残業終わりの会社人のように。
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飯を食べ終わったデウスとデアとフローレ。
「これからどうする?」
フローレが不意にこれからの事を聞いてきた。
「そうだな。ここから近い国を探すか。」
そう言ってデウスは立ち上がる。
すると、何やら紙を持っているアブァリティアがこちらに向かってくる。
近くに来るやらアブァリティアは手紙をデウスに渡す。
「ヒラナリ国からの手紙だってさ。送り主はビングル。」
その名前を聞いてデウスは少しとぼけたように言う。
「えーっと。誰だ?」
それにデアはツッコむように言った。
「あのデウスに喧嘩をふっかけた二丁拳銃よ。」
デウスはデアの言葉にはっと気がつく。
「そうだったな。」
デウスはアブァリティアから手紙を受け取り、内容を見た。
手紙に書かれていたのはこうだ。
【お前にもう一度決闘を申し込む。拒否権はない。直ぐに来るんだ。成長した俺を見せてやるよ。今度は勝つ!】
そこまで長文でもない文をあたかも長文に見せるように紙いっぱいに書かれている。
デウスは少し湿気た顔をする。
嫌な顔という意味だ。
「どうするの?」
デアの問いにデウスは少し苦笑いを浮かべ
「めんどくせぇ。またボコボコにするよ。」
と言った。
大剣が少し暖かくなるのを感じ取ったデウス。
大剣は決闘に燃えているような感じだった。
等々使用者の感情無しに感情を顕にする大剣。
一種の魔術現象のようだ。
「主。そう言えば武器に名前ってつけたか?」
「名前?」
フローレの言葉が少し分からないデウス。
それに気づいたフローレは説明を含めた。
「武器ってのはそれ相応の固有性能っていうのがある。例えば我の武器である終焉叛逆の固有性能は怨爆炎。敵の骨まで焼き溶かすという固有性能だ。こんな感じで武器には固有性能ってものがある。でもそれを発揮するには武器に主人の命名した名が必要になる。」
説明は長いが意外と難しくない。
「要は武器に名前をつければいいってことだな。」
「あぁ。」
デウスは大剣を取り出す。
「命名するにはまず武器の部位。どこでもいい。それより少し離して指を翳す。そして、つけたい名前を空中に書く。書いたら直ぐに手でその部位に向かって押す。そしたら命名完了だ。でも少し注意点がある。」
その言葉にデウスは手を止めた。
「なんだ?」
「中断や場所が少し悪かったら固有性能が少し弱まる。それと、呉々も武器の不機嫌な名前をつけるな。」
武器の機嫌不機嫌を取りながら命名しなければならない。一番の難所だろう。
デウスは大剣の樋に指を翳す。
そして名前をよく考える。
命名する側となると使命感が生まれる。
慎重に慎重に考えた挙句生み出した名前は
「龍鱗。」
デウスはそう口にする。
すると大剣の重みが強くなった。
大剣の機嫌の表し方は多い。
何かに燃えている時は少し熱を帯びる。怒っている時はマグマのような熱さを誇る。悲しい時は熱をあっさずに軽くなる。喜んでいる時は重みが強くなる。こういう風に表現に違いが見られる。
今の大剣は喜んでいるようだ。
「よし。」
デウスはそう言い、漢字を書き始めた。
漢字を名前に使用するのはあまりないが、何かの命名。例えば使い魔への命名などは漢字を使う。
そのため、デウスやデアは漢字を習っていた。
デウスは漢字を書き終わり、掌で文字と大剣を押した。
大剣は光り輝き、やがて光は失せた。
デウスは手をのけた。
そこには″龍鱗″と黒く彫られたように書かれていた。
「これで命名完了だ。今日から主の大剣は龍鱗だ。」
そう言うフローレを後ろにデウスは大剣を背に収める。
「よし。それじゃあ行くか。目的地はヒラナリ国だ。アブァリティアは皆を呼んできてくれ。あとバグラとソルディブも忘れるなよ。」
「へーい。」
返事は適当だが何かと真面目にやるアブァリティアだ。
デウスは空を見上げる。
『二丁拳銃。二つ名持ち同士決着を付けようぜ。』
そんなことを思いながらデウスは笑みを浮かべていた。
「なんだか嬉しそうね。」
「そうか?」
「うん。いつにもなく嬉しそう。」
「そうか。俺は多分戦いを求めているんだろうな。」
デウスはそう言ってデアを見る。
澄み切った目はデアを見つめ、口角を上げる口は喜びを表している。
「呼んできたぞー。」
デウスの後ろの方からアブァリティアの声が聞こえた。
ヘルト、インビディア、イリビード、シャティス、ソルディブスルクトーリス、バグラそしてアブァリティアがこちらに向かってくる。
「来たな。」
デウスはポケットに手を突っ込む。
『貴方が生きててくれて嬉しいわ。憤怒の英雄さん。』
心に想うデア。
喜びと嬉しさが混じりあった想いはデアの中のみにあった。
想っているうちにアブァリティア達はデウス達と合流していた。
「これからヒラナリに向かう。」
「どうしてまた?」
イリビードの問いにデウスが答える。
「ビングルから手紙が来た。」
「ビングル?」
イリビードはビングルに会っていないため誰か分からず首を少し傾げる。
「俺とデアが飯を食べに行ったら喧嘩をふっかけた二丁拳銃の男だ。」
説明不足だと思ったがめんどくさくなって短めに説明したデウス。
「そう。」
イリビードは興味無さそうに流した。
「で、手紙の内容は?」
ヘルトにデウスは答える。
「決闘だ。」
「要するに?」
振りのように振ってくるヘルト。デウスは乗ることにした。
「喧嘩をまたふっかけられたってことだ。」
ヘルトは自分もしたいという顔をしていたがデウスが無理と言った。
「とりあえず、そいつに会いに行くためにヒラナリに行く。」
全員一致で了解。
デウス達は出発の準備を済ませる。
「全員準備出来たな。」
「えぇ。」
「あぁ。」
「出来たわよ。」
「シャティス。準備出来たの?」
「うん。」
「俺は問題ない。」
「織も準備完了だ。」
「いつでも出発出来ます。」
「刳も大丈夫だ。」
全員が順番に言葉を発する。
デウスは体ごと後ろをむく。
「それじゃあ行くぞ。ヒラナリへ。」
全員の掛け声が聞こえる。
重なり合う掛け声は賑やかであった。
デウスを先頭に門まで進む。
警備班は門を開いた。
そしてデウスにこう言った。
「また来てくれ。いつでも歓迎するぜ。大剣の兄ちゃん。」
変な覚えられ方だがデウスは何も違和感なく返事を返した。
「おう。その時までひとまずサヨナラだ。」
笑ってそう言った。
そして全員門の外に出た。
「世話になったぜ!」
「また世話に来い!」
そう言って警備班は門を閉めた。
重々しい音が響いた。
デウスは森林を見た。
「この道を抜ければすぐだ。行こう。」
そう言ってデウスは歩き出した。
それに続いて皆が歩き始めた。
「あの、ヒラナリ国ってどんな所なんですか?」
「刳も気になる。」
バグラとソルディブが聞いてきた。
デウスは手短に答えた。
「戦闘をふっかけられることがある国だ。」
かなり短めだが説明できてない訳では無い。
「とりあえず先を急ごう。あいつを怒らせると面倒だ。」
そう言ってデウスは少し早く歩いた。
デア達はそのスピードについて行く。




