第九話 反撃の鱗
✣ ✣ ✣
「さぁ、続きをしようぜ。二対一でな。」
右手に大剣。背には翼。尻には尾。左からは彎曲したように見せる二本の邪鬼を放つ角。両手両足は龍の形状。
デウスだ。
「確かにあの時心臓を貫いた。」
ヘルトはデウスの姿を見て言う。
「どれだけ治癒能力が発達しようが心臓は治せない。」
強欲はデウスに対して言った。
デウスはため息をついた。
「おいおい。さっきまでの威勢はどこいったんだ?」
暗く、狂気に溢れる笑顔がヘルトと強欲を睨む。
「来ねぇなら。俺から行くぞ。」
デウスは歩き出した。
ヘルトは大鎌を構える。
そこでヘルトは驚いた。先程まで目で捉えていたデウスの姿がない。
「どこいったんだ。」
その言葉を放った瞬間、ヘルトの背筋は凍りつき、震え始めた。
「後ろだ。鈍くなったもんだな。」
ヘルトは急いで後ろを振り返る。
しかし、行動速度が遅く、デウスに殴り飛ばされた。
地面を転がり、仰向けで倒れ込むヘルト。
デウスは大剣を落とす。
「お前らに武器を使うことは無い。」
カラカラと鉄の音を鳴らし、大剣が落ちた。
アブァリティアは隙をつき、デウスに肘を直撃させる。
しかし、その攻撃でもデウスは怯まない。ビクとも動かない。
「なん、だと、」
「それがお前の攻撃力か?弱いもんだな。」
デウスは左手でアブァリティアの顔を掴み、地面に叩きつける。
「!!!」
頭から地面に激突した。
口と目を大きく開き、口から血を吐き出す。
「やあぁぁぁ!」
ヘルトは大鎌をデウスに振り下ろした。
「もう少し静かにしたらどうだ。」
デウスは大鎌を蹴った。
大鎌の刃は吹き飛び、棒だけとなった。
「な!」
「前見ろよ。」
デウスの言葉にヘルトは前を向いた。
そのに拳を一発目入れられ、頭から後方に飛ぶ。
地面に血のついた歯が落ちた。
「歯折れたみたいだな。」
そう言ってデウスは歯を踏み砕いた。
ヘルトはゆっくりと起き上がる。
「まだ立てんのか。」
デウスはそう言ってヘルトに歩み寄る。
「も、もう、やめてくれ。」
「何言ってんだよ。」
「へ?」
デウスの言葉にヘルトはデウスを見た。
デウスはヘルトの目の前には顔を近づけ、狂気そのもののように言った。
「やめるわけねぇだろ。」
その時、ヘルトは初めて絶望を目の当たりにした。
『こいつは、人間じゃない。ただの、殺戮兵器だ。』
ヘルトの前にいるのはもはや人間や龍では無い。ただの兵器そのものだ。
「ぁ、ああああああ!」
ヘルトは逃げ出した。
後方へ振り向き、走り出した。
だが、デウスから逃げることは出来ない。
「逃げんじゃねぇよ。」
ヘルトは腹部を殴られ、膝をつく。
「オラ!」
デウスはヘルトの首を蹴り、声帯を壊した。
残酷だ。まるで殺人現場を目の当たりにしているようだ。
ヘルトは首を抑える。
どうやら息もできないらしい。
「息が出来なくなったのか。」
デウスは笑みを浮かべる。
「お笑い癖だな。」
ヘルトの助かる道はもはやなくなった。
勝てるはずがない。どう考えても。
『この、殺戮兵器には、』
✣ ✣ ✣
今のデウスには慈悲などという甘い言葉はなく、無慈悲という残酷さしかない。
ヘルトの顔を足でふみつける。
「このまま顔を潰してもいいが、もっと痛めつけてやるよ。デアを泣かしたお前が悪ぃんだぜ。」
デウスはヘルトの顎を蹴り上げる。
ヘルトはボロボロだった。
手術を必要とする程だろう。
フローレ達はそれを見ることしか出来なかった。
『自業自得だな。』
フローレはそう思いながら見ていた。
アブァリティアが立ち上がり、デウスを止めに入る。
しかし、一撃で鎮められた。
「二対一でこれか。」
デウスは呆れていた。
ヘルトは頭や額から血を流し、歯が一本折れている。
アブァリティアは体がボロボロだった。
ヘルトはフローレの方向を見て手を伸ばす。
「俺を一度殺しといて助けを求めるか。」
デウスはヘルトの頭を踏む。
ヘルトは顔を地面についた。
「みっともねぇなぁ。」
デウスは足を上げ、振り下ろした。
その時、
「デウス。もうやめにしたら。」
デアが歩いてきた。
デウスは足をヘルトの真上で止める。
「殺さなくていいのか?」
「いいのよ。デスペランドーマを倒すには強欲の力も必要だしね。」
「そうだな。なら生かすか。」
その時ヘルトとアブァリティアは気絶していた。
「やり過ぎよ。気絶してるじゃない。」
イリビードがこちらに言葉を掛けた。
「すぐ起きるだろ。それに、俺はこいつらのこと殺そうとしてたしな。こうなるのも無理ないさ。」
デウスは龍化を解除した。
「このポーション使っとくか。」
デウスは腰にかけている小さなポシェットからポーションを取り出してヘルトの喉に通した。
ほとんどの傷は治る純度九十パーセントの回復ポーション。
「これで声帯も治るだろ。」
デウスは一気に脱力状態になり、尻から勢い良く地面に座り込んだ。
「はぁ、疲れた。」
「お疲れ様。」
デアが隣に座る。
「ねぇ、なんで私にフローレさんの紋章を渡したの?」
「あの状態は一応死んだと見なされるからな。フローレまで死んだら元も子もねぇから。」
デウスはそう言って空を見た。
「また国に迷惑かけたな。」
デウスは思う。何故か絡まれやすく、そして相手は強くて良く宿を壊す。
面倒くさい連鎖だ。
「別にいいじゃない。迷惑ぐらい。誰だって迷惑ぐらいかけるわよ。」
デアが励ましの言葉をかける。
「そうだな。」
デウスは少し体勢を整える。
「あと三か。」
「なにが?」
「七つの罪龍だよ。」
「そう考えるともう四人集まったのね。」
「俺達が行く場所は大体一人はいるからな。」
デウスは人と言うべきか迷ったが人と呼んだ。
「待て。」
フローレが声をかけてきた。
「なんだ?」
「主はデアに紋章を渡したんだったな。」
「あぁ。それがどうかしたか?」
「なんで、龍化出来た?」
そう言えばそうだと思い出すデウス。
デウスはフローレとの絆を一度破棄している。
なのに何故龍化出来たのか。
「それは簡単な話だ。」
四人の声ではない声が聞こえた。
デウス達は大きな影に包まれた。
全員が一斉に後ろを振り返る。そこに居たのは龍だった。
「お前、まさか、」
フローレは目を疑うように言う。
「そのまさかさ。」
デウスとデアは何が何だか分からない表情をしていて、イリビードは驚きを隠せずにいた。
「虚飾!」
「「虚飾!?」」
デウスとデアは息ぴったりで言い放った。
フローレは以前に語っていた。虚飾は死んだと。
「どうして、」
「あの時はほんとに死んだよ。でも主が頑張って最後の力を振り絞って全部の生命力を刳に渡してくれた。それと同時に契約も解除してくれた。だから刳だけ助かったんだ。」
「でも紙には死んだとはっきり書かれていたが、」
「あぁ。あれは刳の姿が消えたから死んだと思われたんだろう。」
ソルディブスルクトーリスは呆気なく話す。
「と、本題に入ろうか。」
ソルディブスルクトーリスが改まったように口にした。
「そうだった。」
フローレは思い出したように言う。
「刳達からすれば人間は愚劣で卑怯で残酷で生きている意味が分からなくて最低で弱い劣等種だ。」
デウスは思う。
『ものすげぇ悪いように言われてんな。』
「でも刳達が思うより人間は強い。その気になれば龍族を滅ぼすことだって可能だろう。そんな人間が一度覚えた突然変異だ。我がものに出来ないはずがない。」
『急に褒められ始めたな。』
蔑みと褒めが混ざり合い、よく分からない。
「とにかく人間は怖いってことだ。」
『全くわからん!』
デウスは頭の中で言う。言葉にするのはあれなので。
「……ぅ、ぅぅ、」
ヘルトが目を覚ました。
「起きたか。」
「生き、てる。」
「運良くデアに助けられたな。」
デウスはヘルトを見ながらそう言う。
「織に、何を求める。」
「なぁに。ただ仲間になって欲しいだけさ。」
軽いノリで言い放つデウス。
ヘルトに取っては屈辱だろう。殺したはずの男にボコボコにされて挙句の果てには仲間になれと。
「殺せ。」
「殺さねぇ。」
「何故だ!織は貴様を一度殺したんだぞ!」
「だから?」
「ぅ。」
ヘルトは勢いで止められる。
「俺はこうして生きてる。そりゃあ最初は殺そうとしたさ。でも俺達には別の目的がある。」
「それは、なんだ。」
ヘルトの問いにデウス。
「デスペランドーマを倒すこと。」
ヘルトはその名前に驚きを表に出した。
「デ、デスペランドーマを、」
「あぁ。仲間の仇でな。」
デウスは躊躇い無く話す。これから仲間になる男に隠す事でもないと思ってのことだ。
「そうか。分かった。お前の話に乗ろう。」
ヘルトはそう言って動かない体を無理矢理動かして座る。
「これからよろしく頼む。織の名前はヘルト・ベルト。」
「俺の名前はデウス・ペンドラゴン。知ってるか。こちらこそよろしく。」
二人は笑みを浮かべて見合っていた。
その隣で強欲が起き上がる。
「本当に、デスペランドーマを殺るのか?」
問いかけにデウスは答える。
「あぁ。」
「なら、傲慢を仲間にするのが一番手っ取り早い。」
「それはどういうことだ?」
「傲慢の奴、一度そいつの部下とやり合ってる。」
「勝ったのは?」
「傲慢だ。圧勝だったそうだ。圧倒的な力で敵をねじふせたと聞いた。」
「いいことを聞いたぜ。」
デウスは笑みをもう一度浮かべ、立ち上がる。
「とりあえず傲慢をどう仲間にするかからだな。」
デウスは軽々と口にする。
だが、皆はそれに何の否定もなく、
「そうだな。」
「そうね。」
「デウスなら出来るよ。」
「やるか。」
「全員でやれば勝てるだろ。」
と、やる気満々だ。
そこにインビディアとシャティスが帰ってきた。
「どういう状況?」
インビディアの姿を見てアブァリティアが手を上げる。
「久しぶりだな!嫉妬!」
「あれ?なんでアブァリティアが?」
その疑問に悩む姿を見て全員が笑った。
✣ ✣ ✣
その頃、デスペランドーマの所は。
「あれ程あいつには手を出すなと言ったはずだぞ!」
何者かにデスペランドーマが怒られていた。
「し、しかし、向こうから襲ってきたので、」
「逃げればいいもの!」
おぞましい声で発する大音量の声は鼓膜を貫くほどだ。
「も、申し訳ありません!」
「もういい。今後は気をつけろ。傲慢の罪にはお前では勝てない。」
どこかも分からない場所でデスペランドーマは怒られていた。
洞窟では傲慢が笑みを見せていた。
「どうやって俺を仲間にするか見ものだな。未来の英雄。デウス・ペンドラゴン。」
そう言いながら目をゆっくりと閉じた。




