第七話 本来の戦闘
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デアは武器に手を置く。
「怖いねぇ。」
男は斧を肩に持っていく。
「先に宣戦布告してきたのはあんたでしょ?」
「ま、そうだがな。」
男には角がない。旅人だろうか。
「お前。角がないようだな。へし折られでもしたか?」
「織はここの住民じゃない。旅人だけどもう数十年住み続けてる。」
「へぇ。ならお前に勝つのは難しそうだ。」
デウスはこの時、男の正体を決定づける証拠を見つけた。
「お前、人じゃねぇだろ。」
「何故そう思う?」
「もう数十年はここに住んでいると言った。しかし、旅人ではない。何故なら警備班に滞在日を聞かれるからだ。」
「それが一つ目の証拠か?」
「あぁ。それとあともう一つある。」
「なんだ?言ってみろ。」
デウスはいつでも反撃できるように大剣の柄を握り締める。
「自分のことを″俺″や″僕″、あるいは″名前″で呼んでいないからだ。」
「それの何処が証拠だ?」
「普通の男性は俺や僕と一人称を使う。でも七つの罪龍は一人称が人間に対して個性が出る。イリビードの一人称はほとんどの女性の一人称と同じだが、フローレとインビディアは一人称に個性が出ている。フローレは″我″。インビディアは″妾″。そしてお前が今自分に対して使った一人称は″織″だ。」
男は大声で笑いだした。
「いい推理だが、残念ながらハズレだ。」
男は首元を指した。
デウスはそこで目を疑いそうになった。
クロスに爪で裂かれたような紋章。
「まさか。」
「そうさ。織は強欲の契約者だ。」
そして、男は斧を床に落とした。
鉄と木の音を同時に鳴らし、落下した斧は光り、形を変えた。
「もう少し優しく落として欲しかったよ。主。」
「強欲の罪。アブァリティア。」
デウスは武器を取った。
「敵対心凄いね。フローレに言っておくよ。デウスという男は死んだってね。」
アブァリティアが微笑んだ。
「死ぬかよ。」
「織が殺す。」
男がデウスに武器を向けた。
先程とは違う武器を手に持っていた。
大鎌だ。本来は黒かったのだろうか。血がついたように紅く光沢を放つ。
大鎌は剣士の持てる最高級クラスの武器だ。
「ここでやろう。迷惑かもしれないが、構ってる暇はない!」
デウスは速攻しかけた。
上部の薙ぎ払いを速さ重視に打ち込んだ。
しかし、デウスの攻撃は止められた。
「何!?」
「驚いたか?」
デウスは距離を取る。
「切れなかっただろ。」
デウスの攻撃は大鎌の柄で止められた。
「なんて硬さだよ。」
デウスは構え直す。
「ひとつ言っておこう。君に勝ち目はない。」
瞬間、男の姿が消えた。デウスは周囲を見渡す。
『上か!』
デウスは上を見上げた。
男が大鎌を振り下ろした。
デウスはギリギリのところを躱した。いや、髪の毛を数ミリ持っていかれた。
「今のよけんのかよ。」
男は大鎌を地面に突き刺し、バランスを取って降り、大鎌を抜き出した。
「生憎こちとら傲慢と絶望と戦ってんだ。簡単に負ける気は無い。」
デウスは畳み掛ける。
「そんな遅い攻撃当たるとでも、」
男の腕に切り傷が生じた。
「な、」
「見えなかったろ。」
デウスは続けて畳み掛ける。
「どうしてだ。」
「それは俺の姿を見たら分かることだ。」
デウスは男を大鎌ごと蹴飛ばした。
男はデウスの姿を見た。
「なんだその姿。」
「へぇ。」
男は驚き、アブァリティアは関心の笑みを浮かべる。
「龍化を習得しているのか。厄介だぞ主。」
「龍化?なんだそれ。」
「契約者がなれる限られた者の限界の姿だ。あれを習得しているってことは何か奴の心を動かしたものがある。」
デウスは大剣の剣先を男に向ける。
「お前はなれないのか。」
「そうだな。でもならなくても勝てる。」
男は大鎌を両手で持った。
「ふっ!」
デウスは急速に接近し、大剣を振った。
『速い!』
男は柄で防ぐ。
「得意なようだな。変則ガード。」
「剣士の最高級クラスの武器を操るんだ。当然だろ。」
男はデウスの大剣を弾いた。
デウスは地面に足をついたと直後、突き刺すように大剣を振った。
男は大鎌で防ぎ、流した。
デウスの大剣は地面を抉る。
男はすきを見逃さず、大鎌を振り下ろした。
デウスは躱しきれず、左肩を切られる。
「お?当たった。」
デウスは距離をもう一度取る。
「距離を取ったって同じことだ。」
男は大鎌を片手に持ち直し、地面とスレスレになるくらいまで下げる。
「独特な構え方だな。」
「馬鹿にしてると足元救うぞ。」
男の気力が増していく。
デウスと男は同時に地面を蹴飛ばし、衝突しあった。
ギリギリと軋む音が耳にダメージを与える。
「金晶月欠!」
男はデウスの大剣を弾き、円を描くように鎌を振り、デウスの腹部に突き立てた。
デウスは刃のついてない場所を掴み、ギリギリ直撃を免れた。
デウスは手を離し、大鎌を利用して大鎌の上に乗る。
「オラ!」
デウスは大鎌を地面に蹴り、男に大剣を振り下ろす。
しかし、攻撃は男には当たらず、大鎌に直撃した。
「どうやってあの体勢から武器で防げんだよ。」
「ぺちゃくちゃ喋ってないで、対策考えたらどうだ?」
男はデウスを弾き飛ばす。
デウスは足を引きずりながら後方に軽く吹き飛ばされた。
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『なんて反射速度だ。』
デウスは武器を構え直す。
対策する余地もない。そんな余裕を与えてくれるほど相手は甘くない。それはデウスも承知だった。
「そろそろ終わらせよう。」
男は大鎌を両手で持ち、腰に構えた。
デウスは大剣を相手に向ける形で構えた。
デウスと男は睨み合い、同時に足に力を入れた。
地面は抉れ、石の欠片を弾けさせる。
デウスは大剣を振り下ろし、男は斜め下から大鎌を振る。
大剣と大鎌は同時に弾き会い、跳ね返る。
それを無理やり動かすように力を入れる両者。デウスは突き刺すように大剣を突き立てる。男は心臓を突き刺すように大鎌を突き立てる。
両者の剣先が当たり、弾かれる。
「はああああ!」
デウスは下から上に切り上げるように大剣を振る。
「!」
男は上から下に切り下げるように大鎌を振る。
大剣と大鎌は又もやぶつかる。
「粘り強いな。」
「そんな簡単に負けるのはもってのほかだからな。どうせなら粘って負けるさ。」
「粘って負けるか。いい心がけだな!」
男は大剣ごとデウスを鎌で押す。
デウスは耐えるが、男の力が強い。
「ぐっ!」
デウスは尻尾を地面に叩きつけ、地面を抉る。尻尾も使って耐える。
「一気に重くなったな。」
男はデウスを推し進めることが出来なくなった。
このまま耐えて欲しいと願うデア。
デウスは口から少量の炎を出す。
「龍化ってのは、火も、吐けるんだな。」
力を入れているため、言葉が詰まり詰まりになる男。
デウスは汗をかいている顔で笑みを作った。
「このままお前を焼き尽くしてもいいが、そんな卑怯な真似はしたくねぇからな。」
「口はまだ達者じゃないか。」
男はさらに足に力を入れた。
「まだこんな力、」
デウスは少しずつ後ろに押される。
「このまま壁にぶつけてやるぜ。」
男の力は増すばかり。
デウスはどんどん後方に動かされる。
「うぉりゃぁぁぁぁ!」
男の足元の地面が抉り散り、穴を開ける。
先程よりも速度が上がり、デウスは耐えるのが無理なほどまでの力だ。
「くっ、ぐうぅぅぅぅ。」
どれだけデウスが耐えようが、止まる気配は一向に見せない。
一方で男はどんどん歩く速度が速まっていく。
今にも走り出しそうだ。
「はあぁぁぁぁ!」
『クソ!耐えきれない!』
等々男の足は走りへと移転した。
かなりのスピードが出る。
その勢いで壁にぶつかった。
「がっ!」
デウスは背中から激突し、言葉が重くなった。
デウスは膝をついた。
「終わりだな。強かったよ。お前は。」
男は大鎌を上に高々と上げ、振り下ろした。
しかし、その刃はデウスを貫くことは無かった。
「まだ、負けちゃいねぇ。」
「どうして動けるんだ。あの速度で背中から石壁に激突した。普通なら息さえ出来ないはずだ。なのに何故、」
「お前には分かるまい。」
デウスは大剣で大鎌を防いでいた。そのままゆっくりと立ち上がり、大鎌を弾いた。
「は!」
デウスは男の腹部を蹴飛ばした。
男は後方に吹き飛び、地面をなぞるように転がる。
「がはっ、がはっ、」
男はお腹を抑えて咳き込む。
「確かにあれは痛かった。でもあれだけでやられるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ。」
デウスは少しよろけながらもしっかりと男に歩み寄って行った。
「まだ負けない。織は、まだ、」
辿々しい言葉で足掻き続ける男。
「そこで寝てろ。」
デウスは拳を振ろうとした。その時だった。
「動くな!」
デウスはその言葉に手を止めた。
デウスは声の方向を見た。
「この女が死ぬぞ。」
デアがアブァリティアに捕まっていた。
「デ、デア。」
デウスは捕まったデアを見た。
怯えているような表情をしている。
「ごめん。デウス。捕まっちゃった。」
「不注意が過ぎる女だから簡単に捕まえられた。」
そう言ってアブァリティアは爪をデアの首元に突き立てた。
「やめろ!」
「動くなと言っただろ!自の言葉が分からないのか!」
デウスは全くとして動けない。
「ちっ。」
「卑怯だとは思うなよ。これは″戦闘″だ。遊びとは違う。」
デウスは歯を食いしばる。
「デア、待ってろ。すぐ助ける。」
「うん。」
「いや、それは叶わない。」
直後男の声がしてデウスは前を向いた。
鈍い音が体から聞こえた。
「終わりだ。」
男の大鎌はデウスの心臓を突き刺していた。
「ぐはっ!」
デウスは口から血を吐き出す。
男はデウスの心臓から大鎌を抜き出す。
デウスの心臓部からは大量の血が爛れ、溢れ出し、地面に広がる。
デウスは倒れ込んだ。
「デ、デウス……デウスーーー!」
デウスは力尽きた。




