第六話 アバリブ国にて
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デウスは血のついた大剣を背に収める。
「残りはっと。」
デウスは振り返る。
ブラックゴブリンは全滅していた。
「急に戦闘に巻き込むな。」
フローレが頭を掻きながら言う。
「悪ぃな。」
デウスは振り返り、女性の元に向かった。
デウスは女性の首元に人差し指と中指を当てる。
『脈はあるようだな。』
デウスは女性が生きていることを確認し、女性を抱き抱えた。
「主。その女性は?」
「多分ゴブリンに襲われたんだろう。脈はある。」
女性の額からは白く骨が突き出たように角が高々と伸びていた。
「この女性、鬼神族よ。」
インビディアが言う。
「そうだろうな。と考えるとアバリブ国まではあと少しって所か。」
デウスは女性を抱いたまま、突き進んだ。
草や木で前が少し見ずらい。
夜なら迷いそうだ。
歩いていくと、奥の方に開けた場所が見えた。
そこには人工的に作られた壁もあった。
「ここか。」
森林から少々離れた場所に石壁があった。
頑丈ではあるがフローレくらいなら壊せそうだ。
「取り敢えず入口を探そ。」
デアが皆に言う。皆は頷いたりして行動に移した。
壁をなぞるように歩く。
歩き始めて一分ぐらいだろうか。警備班らしき人物が見えてきた。
武器を手に持ち、いつでも対応出来るようにしている。
デウスは警備班に話しかけた。
「少し良いか?」
「ん?なんだね君達。」
「この女性の手当を頼む。」
女性の足の擦り傷は傷口が少し深く、血が爛れている。
それを見た警備犯は直ぐに対応した。
「分かった。君達はここで少し待っていてもらう。」
警備班が一人女性を連れて柱の中に入って行った。
デウス達はその場で待つことになった。
その間、もう一人の警備班が事情聴取のようなことをしてきた。
「聞こう。あの女性はどこに居たのかね?」
「ゴブリンに連れ去られそうになっていた。」
「ではそのゴブリンをどうしたのかね?」
「敵対心があったようだったから戦った。」
「ゴブリンは殺したのかい?」
「あぁ。」
デウスは冷静かつ頓着に対応する。
「君達は何者なんだい?」
「俺達はちょっとした旅人さ。ここで数日過ごそうと考えている。」
「因みに滞在日は決めているのかね?」
「そうだな。二〜三日の滞在日を考えている。」
「ふむ。では冒険者カードを提示してもらおうか。」
デウス達は冒険者カードを取り出し、警備班に渡した。
警備班は確認し、デウス達に返した。
「ここで少し待っていてもらう。」
警備班はそう言ってまた警備の仕事に戻った。
デウス達は待つことになった。
デウスは座り込み、デアはデウスの隣に座り込む。フローレは周囲を見渡したりしている。イリビードは壁にもたれ掛かる。インビディアはシャティスを抱き抱えている。座ろうとしない。
デウスは大剣を出した。
赤い線を描く血が光を反射して輝いている。
デウスは血液を拭き取り、背に収めた。
それからデウスは腕を組み、目を瞑った。
デアはデウスを見つめながら耳を済ましている。警戒しているのだろう。
フローレが欠伸をした時、話しかけられた。
「君達。待たせてしまって済まないね。」
そう言って先程女性を連れていった警備班が息を少し切らしてデウス達に言い放った。
「いや、気にしなくていい。」
デウスは目を開き、立ち上がる。
「では、国の中に入りたいんだな?」
デウスは頷く。
「なら入国を許可する。ここで注意してもらいたいことがある。この中はスリや決闘が度々ある。そこだけ気をつけてもらう。」
「了解した。」
「では、アバリブ国へようこそ。旅人さん達。」
門を開き、そう口から告げる警備班。
デウス達は入国した。
中は普通の街とは何ら変わらない。訳では無い。やたらと決闘場が多い。
やはり決闘を申し込まれることが多いってことだろう。
デウスはそんなことも気にかけず、宿を探し始めた。
「宿が見つからなかったら最悪空き地で寝泊まりする。」
流石にそんな失礼はないと思うデウスであった。
しかし、一向に宿が見つからない。
『中央部に行くか。』
デウスは一人で歩き始めた。
「あ、おい。主。待てよ。」
デウスを追いかけるようにあとを付けるフローレ達。
デウスはアバリブ国中央部に向かった。
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中央部は人が多い場所。でも、身動きは取りやすい。
皆角が生えている。一角から四角までいる。
角の数の意味はよく分からないが鬼神族からすれば角は生きる上での重要なものだ。
度々大剣の持ち手が角に当たる時がある。
それはどうしようも出来ない。
周りに注意しながらデウス達は進んでいると、大きな建物に出くわした。
村役場的な場所だろうか。
それにしては偉く大きい。
『この大きさなら泊まるところ位はあるだろう。』
そう思い、デウス達は入り込んだ。
色々な鬼神族から話を聞き、ここには泊まれる場所があるらしい。
「広い。」
とても広いが、人が多いため少し身動きが取りずらい。
どうにか動いて役場の受付のような場所に着いた。
「どうなさいました?」
デウス達に気づいて直ぐに問をかける。
「ここで泊まりたいのだが、何部屋空いてる?」
「そうですね。二部屋空いてますよ。」
『二部屋か。』
デウスは考える。
そしてデウスは言い放った。
「一部屋でいいか?」
「一部屋ですか?」
フローレ達にも問いたが、皆了承する。
「一部屋で頼む。」
「滞在はどれくらいでしょうか。」
「二泊三日で。」
「分かりました。では銀貨一枚になります。」
デウスは銀貨を一枚取り出し、渡した。
「ではそこの階段を上がってください。奥から二番目の部屋でお願いします。」
デウス達は礼を言い、階段を登った。
奥から二番目の部屋の前に立ち、ドアを開いた。
内装はホテル的な感じだが、ベッドは一つだけだった。
「ベッドひとつか。ならシャティスとインビディアはベッドで寝てもらおう。」
デウスはそう言って椅子に座る。
「分かったわ。」
インビディアはそう受け答えし、シャティスをベッドの上に置く。
「俺は少し出かけてくる。」
そう言ってデウスは部屋を出た。
「私も出かけよ。」
デウスのあとに続いてデアも部屋を出た。
「元気だな。」
フローレは椅子に腰を下ろして言っている。
「ねぇ、お母ちゃん。」
「ん?」
「お腹空いた。」
シャティスがインビディアに言う。
インビディアは答える。
「そうねぇ。じゃあ食べに行こっか。」
「うん。」
そうしてインビディアとシャティスは部屋を出た。
「部屋我らの二人だけになったな。」
「そうね。」
イリビードはもう一つの椅子に腰を下ろす。
フローレは足を組んで腕を組む。
「眠そうね。」
「少し疲れたからな。」
「膝かそうか?」
「大丈夫だ。」
そう言ってフローレは目を瞑った。
イリビードは部屋を見つめた。
『私も寝よ。』
イリビードも目を瞑った。
一方デウスは一人歩いていた。
「やっぱり人が多いな。」
「デーウス。」
後方からかなり近距離で名前を呼ばれたデウス。後ろを振り返る。
「デアか。」
「私じゃ悪いみたいな言い方やめて。」
「そういうつもりじゃないんだが。」
デウスは頭を搔く。
デアは少し怒ったような顔をしたが、直ぐに元の顔に戻す。
「まぁいいわ。何処に行くの?」
「どこって訳でもねぇが。適当にぶらぶらと。」
デウスは周囲を見渡す。
人集りが多い。皆角がついている。
「鬼神族か。」
デウスは周囲の鬼神族を見ながら言った。
「……」
デウスは何かに気づいたように斜め上を見上げる。
「どうしたの?」
デアの言葉にデウスは我に返ったようになる。
「いや、気のせいみたいだ。」
デウスは手をポケットに入れ、歩き出した。
「あ、待ってよ。」
デアはデウスを追いかけた。
デウスが見た方向には影があった。
「へぇー。あいつが。」
黒い影は悍ましいぐらい低い声で言葉を放った。
デウスとデアはそれに気づくことも無く、淡々と歩いている。
ただ、デウスの武器は反応していた。
少し熱を放っている。
武器が恐れているようだ。
デウスは熱さになれているため、全く気づかない。
「ねぇ、デウス。なんか武器熱くなってるよ。」
デアが気づき、デウスに言う。
「なんでだ?」
デウスは武器を取り、見てみる。
緊張に見せる人の暑さに似ている。
「怯えてるのか?」
デウスは武器を確認する。
デウスの大剣は何かに怯えていた。
黒く影が付きまとう怪物に。
ただデウス達は知る由もなかった。
「そのうち治まるだろ。」
デウスはそう言って大剣を背に収めた。
そしてまた歩き始めた。
何も気にせずに。
街は広く、地図がないと迷いそうだ。
デウスは周囲を記憶しながら進んでいく。
デアはその後ろをついて歩く。
そこでデウスは足を止めた。
「いたっ。どうかしたの?」
デウスにぶつかったデアが言った。
デウスはただ一言言った。
「気をつけた方がいい。」
デアはデウスの前方を見た。
そこには一人の男が立っていた。
「よう。憤怒の契約者。」
おどろおどろしい声で放つ言葉には挨拶がてらという気持ちが込められていた。
デアは警戒をする。
「そんなに警戒しなくても。」
そう言う男は手に斧を持っている。
「それで色んな人を殺してきたんだな。」
デウスは侮辱するように言う。
「そうさ。でも最近は殺してねぇ。だからよ。疼いてんだよ。この斧が。」
男は不気味な笑みを浮かべてデウスに言った。
「今からお前を殺すんだよ。」
殺意に溢れていた。言葉も、表情も。
デウスはニヤリと笑い言った。
「いいぜ。殺される前に殺してやるよ。」
殺意と殺意がぶつかりあった。




