第四話 インビディアの心
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デウスの大剣とシャティスの攻撃が激突し合い、火花が散る。
「呀或!」
シャティスのもう片方の拳はデウスを直撃した。
「ぐっ!」
痛みがデウスを襲う。
シャティスは怯む間も与えず、デウスを上部に蹴りあげた。
「呀或或或或或!」
シャティスは跳び、デウスの上に現れる。
シャティスは右手の拳を振り絞り、デウスの腹部を殴った。
デウスは勢いのまま地面に激突した。
「呀或或或或或或或或!」
シャティスの攻撃はモンスターの攻撃力とほとんど同じだ。ただの人間は立てなくなるほどだ。
だが、デウスは立ち上がった。
「いい拳だ。」
デウスの口からは血が垂れている。
デウスはシャティスを救いたいという気持ちのおかげで立てている。
「呀或或或或或或或或或或或!」
さらに狂撃する。
地面が揺らぎ、地震のように揺れる。木々が軋み、鉄は弾かれたような音を放つ。
「やってやるぜ!」
デウスは大剣を構えた。
デウスは目を瞑り、精神統一し始めた。敵を目の前にして。
シャティスは気にせずデウスに近ずき、拳を振るった。
しかし、その拳は弾き返された。
デウスが大剣でシャティスの拳を弾いたのだ。
「次は俺のターンだな。」
大剣が煙を放ち始めた。
沸騰である。デウスの武器は火属性。しかも持ち主の気持ちに反応する。やる気や怒りなどが熱に変り、大剣自らを熱し、沸騰し始めた。
「オラ!」
デウスの大剣はシャティスを攻撃し、勢いのまま吹き飛ばした。
シャティスは地面を滑る。両足と右手で地面を壊し握り、勢いを殺す。
「呀或或或或或!?」
シャティスは前を向いた途端、デウスが目の前にいた事に驚く。シャティスは手で防ぐ。
しかし、シャティスの行動速度がデウスを下回り、デウスの大剣が直撃した。
シャティスは地面に叩きつけられ、倒れ込んだ。
「元に戻るんだ!」
デウスはシャティスに声をかけた。
しかし、シャティスは戻ることはなく、デウスに反撃した。
デウスはギリギリで躱した。
蹴りあげられたシャティスの足はそのまま下に叩きつけられた。
その足の踵にデウスの肩が当たり、デウスも地面に倒れ込んだ。
シャティスは立ち上がる。
そして、デウスの頭に足を置いた。
「播或或或或。」
息を整えるように息を吐いた。
シャティスは足を上げた。
そのまま勢いよく真下に足を落とした。
シャティスの足は直撃した。地面に。
シャティスは上部を見た。
そこには大剣を振り下ろしているデウスの姿があった。
シャティスは前方に飛ばされた。
「硬すぎだろ。」
デウスの大剣はシャティスに切り傷一つつけられない。
デウスはもう一度構え直す。
シャティスはこちらを睨みつける。
「殛。」
言葉を放つシャティスの声は低く、それでいて女性っぽい声だ。しかし、言葉に込められていたのは殺意のみだ。
「やってみろ!」
デウスとシャティスは同時に地面を蹴飛ばした。
シャティスは拳を振った。
デウスは右手で受け流し、大剣を刺すようにシャティスの腹に突き立てた。
シャティスはもう片方の手で大剣の刃を掴む。
「播!」
シャティスの蹴りがデウスの横腹を打撃する。
「いっ!」
デウスは痛みを感じ、力を弱めた。
シャティスはデウスに防がれていた拳を前に突きだし、押し飛ばした。
デウスは壁に激突した。
国は大騒ぎ。
国の長も手を出せないほどの争いになっている。
「壁に激突するのは当分結構だな。」
デウスは壁から体を出す。
シャティスはデウスの顔目がけて拳を振るった。
その拳はデウスの手によってとめられた。
「本気出すか。」
デウスはシャティスを蹴った。
シャティスは吹き飛ぶ。
デウスは大剣を肩に置く。
そしてデウスは力を振り絞った。
「ぐっ、はぁぁぁぁぁああああ!」
デウスは大きく体を前に倒し、腰を剃る。
デウスからはオーラが吹き出て来た。
そして、デウスの背から翼が生えた。
龍尾も生え、脚も腕も龍化する。そして、彎曲して見える黒い邪鬼を放つ角がシャティスに向く。
「これで相手してやるよ。」
デウスはシャティスに大剣の刃先を向ける。
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龍化したシャティスの体の特徴は刃のような翼に鋭く伸びて鋭利になった爪、青く燃え上がるように火を纏う右眼。
デウスの特徴は尻尾まで生え、彎曲して見える邪鬼を放つ角。
今、契約者同士が龍の姿に化け、争いを始める。
シャティスが地面を蹴り、物凄いスピードでデウスの前に現れる。
シャティスは右拳と左脚を同時に動かした。
しかし、シャティスの右拳はデウスの左手で、シャティスの左脚はデウスの右手に持つ大剣で軽々防がれた。
「ほい。」
デウスは右手と左手を同時に上に上げた。
シャティスの胴はがら空きになった。
「すまない。」
デウスはそう言い、シャティスの腹を殴った。
シャティスは気を失い、倒れ込んだ。同時に、龍化が解除された。
「ここで寝ててくれ。」
デウスはシャティスを安全な場所に移動させ、横たわせる。
そして、デウスはインビディアを見た。
フローレと話し合っている。
デウスは歩いてその場に向かう。
フローレはインビディアに事情を聞き、インビディアはフローレに事情を話す。
デウスはフローレの隣にたった。
「お?主。終わったのか。」
フローレがデウスに気づき、話しかける。
「あぁ。少し苦戦したがな。」
デウスは龍化を解除し、大剣を背に収める。
「嘘。妾の主がやられるなんて。」
「俺もまだ龍化は未完成だが、シャティスは無理矢理龍化させられたからな。俺より不完全だったんだろう。」
本来なら龍化した人に殴られても龍化していれば気絶などしない。
しかし、シャティスは気絶した。これは不完全を意味する。
「取り敢えず、インビディア。もうこんなことやめるんだ。シャティスはまだ子供だぞ?器が壊れる。」
「ふん。知ったことじゃないわそんなこと。妾はただ主が人を殺すところを見たいだけなの。」
言っても聞かない馬鹿はこういうタイプのことである。
デウスはインビディアの頬をしばいた。
「お前は本当にそれがしたいのか?」
「何するのよ!したいからしてるんじゃない!」
インビディアは怒って反論する。
デウスはインビディアを見た。
「本当にそうなのか?」
「しつこいわよ!」
デウスは聞き直すが、インビディアは怒って言い返すだけ。
「インビディア。お前の目には写ってるぞ。みずみずしく。」
「え?」
デウスは気づいていた。インビディアが涙を流していることに。
頬を伝う涙は次々と流れる。
「な、なんなのよこれ。拭いても拭いても。どうして。」
「お前の本当の気持ちはこんなことしたくないんだ。お前は憂鬱と虚飾を殺された人間への恨みと人間を恨みたくない心が別れているんだ。今お前が出しているのは恨む心。それを止めようとして悲しんでいる恨まない心が涙を流している。」
インビディアは涙を拭いもせず、泣き崩れた。
デウスはインビディアに言った。
「お前は主を幸せにさせるんだ。それがお前の役目だ。」
そう言ってデウスは振り返り、デアの元に向かった。
フローレはインビディアの前に立ち尽くす。
「妾は、ただ、ただ人間が、憎くて。」
「インビディア。我だって人間が憎い。でもな、見てみろよ。人間は個性がある。優しい奴。ウザイ奴。最低な奴。人間は美しい。お前も分かっているんだろ?お前の恨むべき人間は、こんな優しそうな人間達か?」
フローレの質問にインビディアは顔を横に振る。
「お前の恨むべきものは、なんだ。」
「妾の、恨むべきものは、妾自身。」
インビディアは答えを導き出した。
フローレは笑顔を浮かべ、その場を立ち去った。
インビディアは涙を流しながら立ち上がり、シャティスの元に歩く。
そして、シャティスを抱き抱えた。
「ごめんなさい。」
声が殺されたみたいになっている。涙を抑えているのだろう。
デアは目を覚ましていた。
デウスはデアを見て安心した。
「どうなったの?」
「終わったよ。」
デアは安心したように息を漏らす。
「デウス。やったのね。」
「あぁ。」
デアは体を起こす。それを手助けするように手を差し伸べるデウス。
「おんぶしてやるよ。」
「自分で歩けるよ。」
「体起こすのにもあれだけよろけてれば歩くのは無理だ。」
デアは少し考えた。
「じゃあ、お言葉に甘えるわ。」
そう言ってデウスの首元に腕を回すデア。
デウスはデアの足を持ち、立ち上がる。
「重くない?」
「重くないよ。」
デウスはデアをおんぶし、周囲を見渡した。
多くの人がこちらを見ていた。
『迷惑すぎたな。』
少し反省するデウス。しかし、今回デウスは悪くない。
そこにシャティスを抱き抱えたインビディアが歩いてきた。
デアは警戒する。
しかし、デウスは全くの警戒しない。
「汝達にシャティスを任せてもいい?」
「どうして?」
デアはインビディアに聞き返した。
「きっと妾と居るより汝達と一緒にいた方がシャティスは幸せだからよ。」
「そうか?」
デウスは疑問をなげかけた。
「どうしてそう感じる?」
「だって妾はシャティスのことをこき使っていた。この子が嫌がることも散々無理矢理させていたわ。」
「だから自分はシャティスは一緒にいちゃいけないと?」
「えぇ。」
「それは違うよ。インビディア。」
デウスはインビディアに言った。
「確かにインビディアはシャティスに嫌なこともさせてきたのかもしれない。でもシャティスはインビディアと契約する前に家族を無くしてる。シャティスからすればインビディアは嫌なことをしてきたドラゴンでも無くした家族の変りだった。俺はそう思う。だからインビディアはシャティスと別れることはしなくていい。今までのことはこれから埋めていけばいい。」
その言葉にインビディアはまた心が浄化された。
その時、シャティスが目を覚ました。
「目を覚ましたか。」
「お兄ちゃん。それに、お母ちゃん。」
シャティスはインビディアのことを母親と呼んだ。
「ごめんね。今まで。」
「んん。いいの。」
まるで本当の家族のようだ。
「俺達と一緒に来るのか来ないのかどっちだ?」
「どういうこと?」
「インビディアはシャティスを俺達に預けようとしたな。でもシャティスはインビディアと別れたくない感じだ。俺達と一緒に来るのか?」
インビディアは迷いなく答えた。
「一緒に行くわ。シャティスもそれがいいんだわ。」
「決まりだな。」
新たな仲間が出来た。
これで三体目の七つの罪龍。
残り傲慢合わせて四体。




