第三話 嫉妬の罪
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部屋をノックする音が聞こえた。
デウスは起き上がる。
『フローレか?』
デウスはドアの元に歩いた。
鍵を開け、ドアを開く。
そこに居たのは見知らぬ女だった。
「えっと、君は?」
かなり小さく、小柄な少女。
デアよりも小柄だ。見た目的には七歳程度。
「………………」
少女は何も話さない。言葉を発することを拒んでいるようにも見える。
「デウス?誰が来たの?」
デアがこちらに歩いてくる。
デアは少女を見て驚く。
やはり小柄の体に驚いているのだろうか。
「取り敢えず中に入るか?」
デウスの問いかけに少女は小さく頷く。
俯き、前さえ見ようともしない仕草。何か嫌なことがあったのだろうか。
「俺の問いに答えれる?」
少女は小さく頷いた。
「君の名前は?」
「…………シャティス。」
シャティス。それが少女の名前だ。
髪もボサボサで、服もボロボロだ。
「家族は?」
その問いに少女はさらに鬱となる。
『死んだのか?』
そんなことも聞けず、デウスは少女を見つめていた。
すると、少女が口を開いた。
「……お父さんは死んじゃって、お母さんは壊れちゃった。」
その言葉を聞いて、デウスとデアは胸が苦しくなった。
「悪いこと聞いたね。済まない。」
謝るデウスに少女は少し顔を上にあげた。
そこであることに気づいた。それのせいでさらに胸が苦しくなる。
「君、左眼が。」
少女の左眼は酷く色を失い、光を見失っていた。
左眼だけが悪い状態だ。
右眼は何故か閉じていた。
「君は、一体何者?」
デアはデウスの訳の分からない問いかけに疑問を抱く。
「急に何言い出すの?」
「デア。この少女から感じられるのは常人の気配じゃない。凶悪の気配だ。」
デアは気づいていないが、デウスは気づいていた。
少女から放たれるオーラは人間では放つことが難しい邪天のオーラ。
それが常に出ている状況だ。考えられない程である。
「お兄ちゃん達は怖くないの?」
「ん?何がだ?」
「このモワモワしてるの。」
シャティスはデウスとデアがオーラに恐怖を抱くと思っているらしい。
デアは中腰になり、手を膝の上に置く。
「怖くないよ。」
デアの言葉にシャティスは疑問を投げかけた。
「どうして?どうして怖くないの?」
「それくらい誰だって出せるし、言っても濃い青程度。そこまで怖くない。」
デウスはフローレに話しかけるように応答した。
「一つ、聞いてもいいかい?」
「何?」
全くとして顔を上げようともしない。
ずっと俯いたまま。
「どうして右眼を閉じているんだい?」
その言葉を聞いたシャティスは服の裾を握りしめた。
「何か、嫌なことでも聞いたかい?」
「……」
シャティスは小さく首を横に振った。
「……今から右眼開くね。お願いだから、怖がないで。」
まるで右眼にコンプレックスを持っているかのようだ。
シャティスはゆっくりと顔を上げた。
デウスとデアはシャティスの顔を見た瞬間、驚きを隠せず体を少し起こした。
先程まで閉じていた右眼を開いた。
血腫くのような紅い瞳孔と虹彩に暗黒に染まっている結膜。
「あたしね。この目のせいで今までいろんな人から殴られたりしてきたの。」
シャティスの過去は壮絶で、残酷だった。
「どうしてそんな目を持っているんだい?」
デウスは恐る恐る聞いてみた。
シャティスは躊躇い無く答えた。
「ある日ね。あたしの前に大きなドラゴンが現れたの。そのドラゴンはあたしに喋りかけてきたの。」
その時点でデウスとデアは分かった。
七つの罪龍だということに。
「そのドラゴンはね。あたしにこう言ってきたの。汝、妾と結託すれば強くなれるって。」
完全に七つの罪龍だ。
「それであたしはドラゴンの手を握ったの。したら、これが。」
シャティスは右の掌をデウス達に出した。
今にも動きそうな炎がシャティスの掌に刻まれていた。
「これは、」
その時、ドアがノックされた。
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デウスは体を起こし、ドアの前に立った。
そして、鍵を捻り、ゆっくりとドアを開けた。
すると、そこには女性が立っていた。
「何方ですか?」
「シャティスの母親です。」
『嘘だな。』
デウスは速攻気づいた。
シャティスは自らの口で母は壊れたと話した。こう冷静に自分の子供を受け取りに来るわけがない。
「取り敢えず、中に入れてちょうだい。」
中に入ろうとする女性をデウスは腕と脚を使って止めた。
「通す訳には行かねぇなぁ。」
「どうしてよ!私のシャティスを奪うつもり!?」
「奪うつもりもないし、元々シャティスはお前の物じゃない。七つの罪龍。嫉妬の罪。インビディア。」
その言葉を聞き、女性はデウスを睨みつけた。
「どうして分かったの?」
「簡単さ。シャティスは母は壊れたと言った。それに、古書に書いてあった。嫉妬の罪。インビディアの紋章は炎を思わせるかのような模様だとね。」
デウスは解説を挟んだ。
インビディアはクスッと一笑いした。
「凄いわ。見事妾のことを暴いたわ。お礼にこれをプレゼントするわ。」
インビディアは指をパチンと鳴らした。
途端、デアの前にいたシャティスの様子が変わった。
「ぁ、ぁぁぁ、ァァアアアアア!」
突如、シャティスが呻き声を上げた。
苦しんでいるような、悲しんでいるような声だ。
「てめぇ、シャティスに何をした!」
「ちょっと狂乱させたのよ。汝に主が倒せるかしら。」
「ちっ。偽善者が。」
「偽善者じゃないわ。悪魔よ。」
笑いながらふざけたことを抜かすインビディア。
善が一切として感じられない。
「ぶっ殺す。」
デウスは武器を右手で強く掴んだ。
「あら、相手が違うわよ。」
インビディアが後ろを指さした。
デウスは振り向いた。
シャティスの背中からブチブチと翼が生えた。ただの翼ではない。刃物のように先が尖り、薄く物を切り裂くようになっている。
爪も長くなり、切ったり刺したりするのに適した長さ、形状になっている。
先程の右目からは青い炎のような物がゆらゆらと揺れている。
「どう、なってるんだ。」
シャティスは怪物そのものになった。
「呀或或或或或!」
シャティスは床を殴った。
床には無数のヒビが入り、抜けた。
「うわっ!」
「きゃ!」
デウスとデアは落下した。
埃が立ち、咳払いをする。
「なんて力だ。」
デウスは上を向いた。
上からはシャティスが物凄い勢いで突撃してきた。
デウスは咄嗟に大剣で防いだ。
「くそっ。目を覚ませ!シャティス!」
「無駄よ。」
高みの見物とでも言うようにこちらを見下ろすインビディア。
デウスは防ぎながらインビディアに叫んだ。
「こんなことして何が面白いんだ!こんなことしてなにになるってんだ!」
「はっ!何にもならないわよ。ただ私は主が人を殺すところを見て楽しみたいだけ。」
悪魔と言うよりもはや生き物の考えることじゃない。
「お前は、生き物じゃない。」
「妾は生き物よ。」
「抜かせ!」
デウスが反論した途端、シャティスの力がさらに上がった。
「或或!」
シャティスは左の拳でデウスを嬲った。
「かはっ」
息を殺され、耐えられぬ激痛がデウスを握り込めた。
今のシャティスは化物をも超越している。
「目を、覚ますんだ。」
デウスは息もできない位の激痛を耐え、声を出す。
シャティスは追い討ちをかけるように顎を蹴飛ばした。
デウスは蹴られた拍子に宙を舞い、壁に激突した。
コンクリートに突撃し、滅痛が全身を潰し、壊し、殺す。
『あの時の痛みと一緒だ。』
デウスはこの滅痛に覚えがあった。
祖父母に背を裂かれた時の痛みとほとんど一緒だった。
「主!」
その時、フローレとイリビードが帰ってきた。
「フロー、レ。逃げ、ろ。」
デウスは今出せる力を振り絞り、フローレに忠告した。
その言葉も虚しくシャティスによって打ち破られた。
「繰呀或或或或或或!」
シャティスは雄叫びを放ち、フローレを殴り飛ばした。
フローレは吹き飛び、地面を転がる。
「フローレ!」
イリビードがフローレを見た途端、イリビードはシャティスの拳によって地面に叩きつけられた。
「まぁ。主は七つの罪龍までも殺せるのね。」
インビディアは微笑ましく笑みを浮かべ、シャティスを見た。
「はあぁぁぁ!」
デアが刀をシャティスに振った。
刀はシャティスの体に弾かれ、折れた。
「嘘っ!」
デアに気づいたシャティスがデアの方へ振り向き、腹を殴り、そのまま地面に叩きつけた。
「!!!」
デアは口から血を吐いた。
そのままデアは気を失った。
「これで全滅ね。それじゃあ次は、」
そう告げたインビディアは言葉を止めた。
デウスが壁から体を出し、立ち上がった。
「好き勝手、やりやがって。」
デウスは大剣右手に血を頭から流しながらインビディアを睨みつけた。
「怖いわ。それと、汝の敵はシャティスよ。」
シャティスは牙を剥き出しにするライオンのようだ。
「フローレ。立てるな。」
「あぁ。主。インビディアは我に任せろ。」
「最初からそのつもりだ。イリビードも立てるな。立てるならデアを安全なところに避難させてくれ。」
「分かったわ。」
イリビードはデアを抱き、逃げた。
「逃がさない。」
そう言ってイリビードを追いかけようとしたインビディアの前にフローレが現れた。
「お前の敵は我だ。嫉妬の罪。」
デウスはシャティスの前に立つ。
「元に戻してやるよ。少女!」
「呀或或或或或或!」
デウスとシャティスは同時に動いた。
シャティスの拳とデウスの大剣が激突しあった。




