表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごぉすと・ばすたぁ  作者: ほねのあるくらげ
sequence1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/14

scene2

「あー、お前らこんなところに……って、なんだよあれ!?」

「うわぁ、気持ちわるぅい」


 恐怖のあまり硬直してしまった四人の前に姿を現したのは、宗田(ソウダ)洋祐(ヨウスケ)水野(ミズノ)侑奈(ユウナ)だった。二人も地元から離れたものの地方に就職したらしく、上京組の千尋達とは合流していなかったのだ。

 姿を現したのが旧友であると知り、千尋達は脱力しつつも安堵感を覚える。侑奈の鼻にかかったようなわざとらしい甘い声も、この時ばかりは心地よく聞こえた。遅れてきた洋祐と侑奈はそんな四人の様子を見て怪訝そうにしながらも、前方の血痕に気を取られている。


「あれが委員長達の言ってた『準備』か?」


 自分の身体にしがみつく侑奈の背中をあやすようにぽんぽんと叩きながら、洋祐は千尋達のほうに歩み寄ってくる。漂う血の香りに顔をしかめた彼は、「随分凝ってるな」と呟いた。


「どうだろうな? 作り物にしてはよくできてる気がするけど」


 尚忠は洋祐から露骨に視線をそらす。二人は千尋とは別の高校に進学したのだが、彼らの因縁は耳に届いていた。洋祐は高校時代、他人の彼女を何人も寝取っていたらしい。もちろんそれは噂の域を出ない話なのだが、尚忠もその被害に遭ったと聞いている。数年前の話とはいえ、彼の心境は複雑だろう。

 侑奈はそんな尚忠に一瞥もくれず、ただべたべたと洋祐に甘えている。洋祐は洋祐で、空気の読まない彼女を咎めるでもなくでれでれとそれに応えていた。よく修羅場の一歩手前、それも血痕のある場所で堂々と二人の空気に浸れるものだ。千尋にはその神経の図太さが少しだけ羨ましかったが、真似したいとは微塵も思わなかった。


「よくわかんないけどぉ、京香ちゃん達を探せば解決じゃなぁい?」

「絶対帰ったほうがいいって! もうここにはいたくないし! だって血痕があるんだよ!? このままここにいたら絶対ヤバいって!」


 侑奈は緊張感の欠片もない声でそう提案するが、雫がヒステリックにそれを否定した。この時ばかりは千尋も雫の言葉に同意したいが、そういうわけにはいかない。


「でもここが本当に危険な場所だったら、京香達を放っておくわけには……」


 そう、まだこの校舎内には京香と正輝がいる。彼らを置いて帰るわけにはいかない。


「雫ちゃんったら、何マジになっちゃってんのぉ? どうせ京香ちゃん達のイタズラでしょぉ?」

「お前ら、落ち着けよ。確かに片桐の言う通りここはヤバそうだけど、英の言ってる事にも一理ある」


 侑奈はけらけらと笑う。すかさず雫は噛みつこうとしたが、それを止めたのは以外にも昴だった。不用意に血痕に触れた事で放心状態に陥っていたはずだが、持ち前のリーダーシップを発揮する事でなんとか我に返ったらしい。


「だから、二人を見つけてさっさと校舎から出よう。お前らはここ……そうだな、そこの教室の中で待ってろって。俺が二人を探してくるから」

「……一人じゃ危ないだろ。俺もついていく」


 血痕があるのは廊下の奥、つまり千尋達が通ってきた道とは反対側の道だ。京香達に会うためにはもっと先に行かなければならず、先に進むためには血痕の残る道を通らなければいけない。しかし先に進んだら、血の持ち主や血だまりから何かを引きずった者に遭遇する危険性が高まる。昴一人で進むのはあまりにも危険だ。尚忠の発言はそんな意図あっての事だろう。

 昴もそれを汲み取ったのか、無言のまま頷いて足を前に進めた。尚忠はちらりとこちらを見るが、何も言わずに昴の後をついていく。千尋はそんな二人の姿に、集団を引っ張るやんちゃなガキ大将と彼のストッパーになりつつ彼をサポートする参謀係の面影を見た。卒業して五年経った今でも、二人の関係性はいまだ健在のようだ。


「ははっ、委員長達もはた迷惑な事するよな」


 洋祐は笑いながら引き戸に手をかける。濃厚な血の香りや赤黒い血痕に疑問を覚えつつも、すべては京香達の仕込みだと信じているようだ。

 確かに廃校で同窓会をやっている以上、幹事側がなんらかのいたずらを仕掛ける可能性はゼロとは言えない。そのほうが雰囲気が出るからとか、趣向を凝らしたほうが楽しいからだとか、そういった理由で幹事の二人が前もって準備していた可能性は否定できなかった。そもそも、同窓会というより肝試しのためにこの場を設けた可能性だって十分にある。

 だが、これはそんなちゃちなものではないと――――あれは本物なのだと本能が訴えていた。無性に嫌な予感がする。雫も同じ事を考えていたのか、彼女も可哀相なほどに震えていた。平気そうなのは、能天気に笑いあっている洋祐と侑奈だけだ。彼らにはこの異質な空気が感じ取れないのだろうか。


「ちょっとぉ、千尋ちゃんと雫ちゃんもしっかりしてよぉ。懐中電灯持ってるんだからぁ、照らしてくれないと暗くて見えないでしょぉ?」


 引き戸は難なく開いたが、教室の中も廊下同様に暗い。ある程度闇に目が慣れてきたとはいえ、懐中電灯がないと危ないだろう。しかし今教室を照らしているのは洋祐の懐中電灯だけだ。

 どうやら侑奈は懐中電灯を持っていないらしい。大方、二人で一緒に来る約束でもしていたのだろう。侑奈の物言いにムッとしながらも、千尋は懐中電灯で教室を照らした。雫の懐中電灯は壊れてしまっているため、光源は洋祐と千尋の懐中電灯だけだ。


「……あれ? 廃校なのに、席もそのまま残ってるんだ」


 三人の懐中電灯で照らされた教室を見渡し、洋祐は不思議そうに呟いた。確かに彼の言葉通り、教室には十数人分の机が並べられている。引き戸のところにあったプレートには『一年一組』とあったから、この中学校が廃校になる前にこのクラスに在籍していた人数分の机なのだろう。

 しかし、ここはすでに廃校であって中学校ではない。机や椅子、教卓などはとうに撤去されて然るべきではないのだろうか。習字の時間に書いたであろう半紙や学級新聞、学年便りなどがそのまま壁に残されているのも奇妙だった。田舎の中学校の光景としてはひどく牧歌的でありふれたものではあるのだろうが、ここが廃校であるというその一点だけで見慣れた光景も不気味なものに様変わりするのだ。

 しかし教室には、他に変わったところはない。洋祐と侑奈はずかずかと教室に入っていった。千尋と雫はためらったものの、いつまでも廊下にいるわけにはいかないと二人の後に続く。少し空気がひんやりしているような気がした。


「……まだ来てないのは、大和田(オオワダ)君と今野(コンノ)君の二人だね。入れ違いにならないといいんだけど……」


 圏外を示し続けるスマートフォンを開き、千尋は小さくため息をつく。これでは彼らに連絡を取る事もできない。

 この同窓会に参加を予定していた十人のうち、すでに来ているはずの京香と正輝を除けばまだ会っていないのは大和田(オオワダ)悟朗(ゴロウ)今野(コンノ)瑛士(エイジ)の二人だけだ。どちらも地元に残っているらしいが、来るなら早く来てほしい。 

 内村(ウチムラ)(スバル)大和田(オオワダ)悟朗(ゴロウ)片桐(カタギリ)(シズク)紀井(キイ)尚忠(ナオタダ)今野(コンノ)瑛士(エイジ)(サカイ)正輝(マサキ)薄野(ススキノ)京香(キョウカ)宗田(ソウダ)洋祐(ヨウスケ)(ハナブサ)千尋(チヒロ)水野(ミズノ)侑奈(ユウナ)。全員、五年前に卒業した元三年一組の生徒達だった。

 京香の呼びかけにより、無事十人全員が集まる事になった。よほどの事がない限り、悟朗と瑛士ももうすぐ来るだろう。胸をよぎった一抹の不安を掻き消すように、千尋は机の上に腰かけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ