第5話 赤いコボルト
ーーー出口を出て、大きく伸びをした。
「広いとはいえやっぱり洞窟は息苦しいね。」
「ですね。気分まで下がっちゃいます。」
そういう割にはリサは元気そうだった。
ギルドに帰ろうと来た道を戻り始めたとき、森全体が騒がしくなった。
嫌な予感がし、探知魔法をかけてみた。
近づいてくる反応が1つ、不気味な反応だった。
「こっちに何か来る。リサ!」
いうよりも早く、リサが前方にでて構える。
目の前に出てきたのは真っ赤な毛色のコボルトだった。
大きな体、唸る声の威圧感に顔が引きつる。
「これは・・・逃げましょう。」リサが小さくこぼす。
緊張で声が出せない。
脚も地面に埋め込まれたみたいに動かない。
恐怖で思考が止まっていると、大声が耳に刺さる。
「危ない!」
リサに押し飛ばされた。
その直後、強烈な蹴りでリサの体が宙に舞い、木にたたきつけられた。
「がはっ!」
「リサ!」
リサは返事をしない。
地面に落ちたまま、力なく倒れている。
思わず立ち上がって構える。
気づけば涙で視界がぼやけている。
「このぉ!」
がむしゃらに石を投げつけるが、軽く手ではじかれる。
実力差に絶望した刹那、お腹に衝撃が走った。
「うぐぅ」
背中の痛みで自分が吹き飛ばされたことに気づく。
顔を上げると、奴の爪が赤く濡れていた。
・・・それが自分の血だと分かった瞬間、お腹が焼けるようにズキズキと痛みだした。
死ぬかもしれない、怖くて溢れる涙にぐちゃぐちゃになりながら、声を絞り出す。
「誰か・・・助けて・・・」
聞こえたのかはわからないが、呼応するように人影が間に割って入ってきた。
「急いできて正解だったな。もう大丈夫だ嬢ちゃん。」
聞き覚えのある声、しかし見慣れない姿のスタインにただただ驚くことしかできなかった。
ここからの記憶は正直朧気だった。
スタインがやってきたと思ったら、コボルトの首が地面に転がったのが見えた。
彼が駆け寄ってきて何かを話している。
でもうまく声が出なかった。
涙でぐちゃぐちゃで言葉になっていない。
あっちにリサがいるんだと必死に指を伸ばした。
スタインが視界から消えて、一人になった。
ちょっとしたら、彼と一緒にリサが心配そうに顔を覗き込んできた。
良かった、無事だったんだ、そう思うと血を流したせいか疲れのせいか、気を失った。
気づいたときはベットにいた。
最初に目に入ったのはリサの寝顔だった。
起きたことに気づいて、彼女も目を覚ます。
「リサ・・・無事・・・だったんだね。」
言い終わるよりも先に抱き着かれる。
「良かった~ライラさん目が覚めたんですね!」
力を込めすぎていて正直痛い。
でも、その痛みも、少しうれしく感じた。
「うん、2人とも無事だったね。」
気絶した後のことリサが説明してくれた。
助けられた私たちはギルドですぐ治療を受けた。
こういうときマーサさんの治癒魔法は本当にありがたい。
自分の体を見たが、傷跡は全くなかった。
リサも自力で歩けたらしく、回復されたらぴんぴんしていたそう。
あの時対峙した魔物はグレートコボルトという名前らしく、コボルトが進化した個体だそう。
魔物の進化・・・私は初めて聞く現象だった。
助けてくれたスタインさんについても知った。
ギルドに所属してから働いているのを見たことなかった。
いっつも飲んでいて、娼館を渡り歩く女好き。
苦手だった。
でも、それは私がスタインさんを知らないだけだった。
彼はギルドに所属していながら、街から仕事を依頼されてる。
街の自警団をやっており、娼館では用心棒もやってるようだ。
お酒を飲むのは溶け込むため、遊んではいないらしい。
(でも、半分好きで飲んではいると思う)
この街が平和なのは、夜な夜な警備してくれているスタインさんたちのおかげだった。
だから復帰して最初に顔を合わせたとき、素直になれた。
「おっ!寝坊助さんの登場だな。」
にやにやとお酒を飲みながらだけど、前よりも嫌じゃなかった。
「助けてくれて、ありがとうございました。」
下げた頭を手でくしゃくしゃと少し雑に撫でられた。
「気にすんな。守るのは大人の務めよ。」
その瞬間だけふざけてない、まじめな顔のスタインさんがいた。
またすぐに飲み始めたけど。




