第24話 ガルヴァス
ーーー魔王からは何も感じられなかった。
ただただ無、私たちの攻撃を受けながらも意に介した様子すら見せない。
そもそも防御すらしていなかった。
バルドさんの私の目では剣筋の追えない連撃も、マスターのあたり一面を覆いつくす雷撃も、リアンさんとルシオさんのコンビネーションも、魔王をピクリとも動かすことはできなかった。
視線はずっと、聖剣をとらえて離さない。
そんな状況で、私の剣が当たるはずもない。
絶対に当てられないと私の直感が言っており、踏み込めなかった。
それは皆もわかっており、魔王の注意をそらそうと攻撃を続けている。
「ぬうう!埒が明かんぞゼフ!」
「わかっておる!じゃがこれは・・・オルディンの方がましじゃったな。」
マスターの額に汗がにじむのが見える。
「弱いな。」
発する言葉すら重い。
魔王のつぶやきが、体にずんとのしかかってくる。
その時初めて、魔王が腕を振るう。
「いかん!」
その瞬間、バルドさんが私の前に割って入るのが見えた。
すさまじい衝撃と共に、私は吹き飛ばされる。
お腹を殴られたような衝撃に、思わずえづく。
視界がぼやけながらも顔を上げると、目の前でバルドさんが血を流して倒れている。
剣が折れてしまっていた。
「・・・バルドさん!」
よろめきながら駆け寄る。
「・・・リサか・・・お主は、無事か。」
息も絶え絶えになりながらも、真っ先に私の心配をしてくれたことに涙がにじむ。
力強く頷いた。
「・・・わしでは、受け流せなんだ。」
「違います!バルドさんがいなかったら私もっと!」
そう言って言葉をつなごうとすると、先ほどのような衝撃音が聞こえる。
ぱっと顔を上げると、マスターやリアンさん、ルシオさんが吹き飛ばされて、地面に這いつくばっていた。
「・・・逃げるんじゃリサ。わしらでは・・・勝てん。」
バルドさんが声を振り絞っている。
(みんなを置いていけない。)
自分が何とかしないと、そう思って視線を上げると、目の前に魔王が立っていた。
防御しないと、そう頭では考えたが、私が動き出すよりも早く魔王の腕が私の脇腹をとらえていた。
頭の中でバキバキと何本も骨の折れる音が聞こえる。
「あ・・・」
そう思った瞬間には、吹き飛ばされ、何度も地面に打ち付けられていた。
止まったと同時に口から血があふれる。
(動け!動け!)
何度も頭で念じるけど、思ったように動かない。
何とかしないといけないという焦りで、痛みを感じる余裕もなかった。
がくがくになりながら、立ち上がったそこにはまた魔王が立っていた。
「立つか。」
そう言って僅かに口角が上がる。
「では。」
そういうと魔王が片手を天に掲げる。
その手にどんどん魔力が集まっていく。
大地から、草木から吸い上げているのか、地面が揺れている。
目の前に集まる強大な魔力の塊、魔王が手のひらを閉じると見る見るうちに小さく、鋭くなっていく。
そこにできたのは、槍というにはあまりにも禍々しい形のものだった。
「褒美だ。我はガルヴァス、我が槍を受けて死ぬがよい勇者よ。」
そう言って魔王は槍を掴んだ。
振りかぶられたとき、いろんなことを思い出した。
トレバーの町にきてからのこと、本当に楽しかった。
そこにはいつもライラさんがいた。
町での暮らし、ダンジョンでの冒険、どれもキラキラしている。
魔族から助けられなかったことに、涙があふれてくる。
それと同時に、怖くて、助けてほしくて祈っていた。
頭に広がるライラへの思い、それを自覚したそのとき、自分からまばゆい紫色の光が広がる。
その瞬間に見えたのは、世界で一番大好きな背中だった。




