第23話 死なせたくない
ーーーヴォルドと名乗った魔族の強さは相当なものだった。
ブルーサンシャインの中でも実力者である3人を相手に、互角以上に立ちまわっていた。
私では目で追えない、ダイヤさんの自慢の高速剣技も軽くあしらっているように見える。
だからその間を縫うように放たれる蒼炎にうろたえる様子はなかった。
「やれやれ、こんなものですか?」
そうしてお返しとばかりに腕から繰り出される魔力の波、それは鋭く飛んで相手を切り裂いている。
2人は避けるものの完全には難しいようで血を流している。
「大丈夫よ2人とも。」
それをすかさずマーサさんが回復する。
「「ありがとうございます。」」
「う~む、やはり治癒士は面倒ですね。先に殺しましょう!」
そう言ってマーサさんに狙いを定めるも、すぐさま邪魔が入る。
「こっちだ!」スタインさんが叫ぶと必ずそちらに攻撃がそれる。
一瞬なので少しずれるだけだが、マーサさんにはそれで十分の様だった。
「狙われやすい仕事なのは自覚してるのよ。」
「面倒ですね。」
勝ってはいないが負けてもいない、そう感じていた。
「では、こんなのどうでしょう?」
「同じだ!」
ヴォルドの連撃がスタインさんによって、またズレた、はずだった。
「これは!?」
「しまった!マーサ!」
気づいたときには遅かった。
ヴォルドの攻撃はズレることを計算して、最初からズレた攻撃が混ぜられていた。
スタインさんの力でズレた攻撃がマーサさんに直撃する。
鮮血が飛び散り、マーサさんがその場に倒れる。
一瞬、時間が止まったように感じた。
起きた現実を受け入れられず、思考が止まっていた。
「き、貴様ああぁあ!」
スタインさんの叫び声に、意識が戻る。
スタインさんががむしゃらに走り出して飛びかかる。
しかしヴォルドはそれを軽く避けると、スタインさんの頭を掴む。
「そんなに大事なら一緒に寝てなさい。」
ヴォルドは高笑いしながら、マーサさんの倒れるところへたたきつけた。
衝撃音と共に地面が割れ、土ぼこりが舞う。
「そこだ!」
ダイヤさんの突きが飛んでくるが、すんでのところで躱される。
その刹那、ダイヤさんごと包み込むような蒼炎が襲い掛かった。
「・・・」
手ごたえを感じ、2人は無言で炎を見つめてる。
しかし、中から出てきたヴォルドは無傷だった。
「なかなかいい連携です。面白い!」
今度はヴォルドが攻める番になり、2人で必死に猛攻をしのいでいる。
マーサさんが倒れた今、2人の体には徐々にダメージが蓄積していってた。
戦い、血を流し、倒れる仲間たちを見て、心の中の違和感が膨れ上がっていた。
私なんて何もできない、価値なんてないお荷物なのに、どうしてそこまで頑張るのか。
命を懸けてくれるのか。
わからなかった。
情けなさが悲しみに蓋をして、辛さが負の感情を広げていた。
その場にへたり込み、うなだれた。
倒れ往く姿に、喉元までもう止めてと出かかっていた。
それでもその言葉は口から出ない、よくわからない力で、せき止められている気がした。
どうしていいのかわからない、その気持ちに力が入り、土を握っていた。
その手に突き刺さる石の痛みに、ぐちゃぐちゃになりそうだった心がしゃんとする。
失うことの悲しみが、情けなさを押し戻す。
(みんなを死なせたくない。なんとかしなくちゃ!)
私はその手にありったけの魔力を込めて、投げ捨てた。
「うわあああ!」
魔力を帯びた岩たちが、鋭くあたりに襲い掛かる。
吸い込まれるようにヴォルドに集まり、肉をえぐり、血を流させていた。
「こんの、雑魚の分際で鬱陶しいですね!しばらく寝てなさい!」
怒りに顔色を変えたヴォルドが襲い掛かってくる。
怖くても目をそらさないで唇を噛む。
奴の意識がすべて自分に向いていた。
「・・・こっちを見ろ!」
スタインさんの叫び声に、またも体が引っ張られる。
ヴォルドもぐるりと体が反転する。
怒りのボルテージが上がるのを魔力から感じた。
その隙をつくように、ダイヤさんの剣とチャコさんの炎が襲い掛かる。
「・・・鬱陶しいですね!」
2人の攻撃を避けずに腕で弾き飛ばす。
「邪魔なんですよ!」
そう叫ぶヴォルドの元に意外な人影がすっと現れた。
杖をおおきく振りかぶっている。
「治癒士ごときが・・・」言いかけてる所に杖が振り下ろされる。
すさまじい衝撃音と共に、ヴォルドの頭が地面にたたきつけられる。
奴の角が、折れて宙に舞っていた。
「・・・何もできないと思った?」
マーサさんがやさしげに笑っている。
「おのれ~」
そう言いながらよろよろと立ち上がろうとしたヴォルドの胸をダイヤさんの剣が貫いた。
「く、くそども」
「チャコ!」
ダイヤさんがそう叫んだ瞬間、ヴォルドの足元から青い火柱が昇る。
火が渦になり、捉えたものを焼き尽くしていた。
「くそどもがああぁぁぁ!」
そんな断末魔が徐々に消えていき、最後にはヴォルドは跡形もなくなっていた。「・・・倒したか?」
「さすがにそうじゃないと困る。」
ダイヤさんの問いかけに、チャコさんが疲労をにじませて笑う。
「3人とも、すぐ回復するわよ。」
そう言ってマーサさんが回復を始める。
「マ、マーサさん大丈夫だったんですか?」
私の質問にマーサさんが微笑む。
「治癒士を狙うなんて基本でしょ?対策ぐらいしてるわよ。」
そういって胸を張ろうとしたマーサさんがよろけるが、スタインさんが支える。
「そうはいってもダメージは受けたんだ。お前もあんまり無理するな。」
「そうね。さすがに厳しい戦いだったわ。」
そう言ってマーサさんもその場に座り込む。
ふっと体の力が抜けたその時、とてつもない魔力を感じて思わず視線を送る。
魔王のいる場所から、すさまじい魔力が放たれている。
目を凝らすと、リサが倒れているのが見えた。
「リサ!」
私は思わず叫んでいた。




