第22話 奇襲
戦いはしばらくこっちが押しているように見えた。
魔王軍は個の力はとてつもない。
まがまがしい魔力を放つもの、そもそも量が多いもの、見た目のいびつさも相まって、見ているだけで震えあがりそうになる。
対してこっちは連携が美しかった。
人は人、エルフはエルフでだけど、支えあい、カバーしあって確実に倒していた。
勢いに乗っていくその姿に、どこか安心し始めていた。
そんな時、空から声が聞こえた。
「やれやれ、やはり戦争というのは面倒ですね。」
「えっ?」
見上げると、そこには魔族がいた。
放たれる魔力の異様さに、思わずしりもちをついてしまう。
(森であったやつよりも・・・やばい。)
周りの人たちがさっと前に入ってくれる。
「初めまして、といった方がいいのでしょうね。何せ直接お会いするのは初めてですから。」
不気味な笑顔が顔に張り付いている。
「余裕かましてんな!」
「おらぁ!」
ゆるりと動く魔族に、数人が一気にとびかかる。
しかし羽虫を払うかの如く、軽く手を払っただけで全員吹き飛ばされてしまう。
「私の名はヴォルドと言います。邪魔立てする場合、皆殺しにさせていただきますね。」
そう言ってゆったりと降りてくる。
怖さと焦りで立ち上がれていない。
助けての声も出せない。
見せつけられた力の差に、だれも動き出せなかった。
魔族が目の前に迫ろうとしたその時、暖かい風が駆け抜けた。
その刹那、ダイヤさんの剣が喉元をかすめた。
「ちっ!」
「これはこれは、疾風とは噂通り。」
造作もなかったといわんばかりに余裕の笑みを浮かべていた。
反撃を試みようとした瞬間「こっちだ!」その叫び声に体がぐるりと声の方向を向く。
視線の先にはスタインさんがいた。
「これは!?」
途中だった攻撃はそのままスタインさんの方に向く。
振り下ろされた腕からの衝撃波で弾き飛ばされる。
「うお!?」
「はい、キャッチ。」
それを後ろでマーサさんがふわりと受け止めた。
その隙にダイヤさんが手を引いて、魔族から距離を離してくれた。
代わりに魔族の足元にチャコさんが現れる。
「敵の頭を狙うのは戦いの基本。ライラを直接奪いに来ることぐらい予想してる。」
そう言いながらチャコさんの全身が青い炎に包まれ始める。
「なるほどなるほど・・・あなたたちもでしたか。」
そういって一層深まった不気味な笑みはその場を一層凍り付かせた。
ーーー聖剣の温度を感じながら、出発前のことを思い出していた。
マスターから作戦が伝えられた時のライラさんの表情が忘れられない。
少数精鋭で直接魔王をたたく、わかりやすいけどリスクも大きい。
こちらの戦力を分断しなくちゃいけないからだ。
一応オルディンが少し力を貸してくれるらしいから、安心材料は出来てるんだけど・・・
ルシオさんとリアンさんがエルフ族の強さを何度も説明して安心するように言ってたけど、私は違うと思う。
あのライラさんの顔は不安だからじゃない、心配の表情だった。
この状況でもなお、自分以外の心配をしてる。
あの人はいつだってそうだ。
だからこそ、私が目の前のこいつを倒す!
バルドさんが強そうな魔族を切って捨てる。
周囲にいた魔族は皆によってあらかた片付けられてた。
今私たちの目の前には、魔王その人だけ。
その魔王が、ゆっくり椅子から立ち上がってきた。
魔王はゆったりとこちらを向いた。
まじまじとその姿を見ることになり、その異様な見た目に思わずたじろぐ。
両腕は肩口からぱんぱんに膨れ上がっており、胴体が3つあるのかと思うほどだった。
頭部を覆う程の太さを持つ2本の角は天に突き刺さらんばかりに鋭い。
何より、長い蛇のような尻尾が奇妙さを際立てていた。
そして、対峙しただけでわかる、魔力の濃さ。
空間がゆがんでるんじゃないかと思うほど、禍々しい濃度を肌に感じてた。
ごくりと誰かの唾をのむ音が聞こえる。
「勇者、か。」
「・・・あなたが魔王ね。」
声を絞り出すのもやっとだった。
お互いにしばらく見つめ合う。
誰も動けないほど、空気が張り詰めている。
「どうした?こないのか?」
その言葉に全身の毛が逆立つのがわかる。
その瞬間、リアンさんの放った矢が魔王に迫る。
しかし、魔王はそれをよけなかった。
いや、避ける必要すらなかった。
矢は確かに当たったが、傷はおろか相手に痛みすら感じさせてないように、力なく地面に落ちた。
「なっ!?」
「なんの!」
矢が落ちたとき、ルシオさんは既に背後にいた。
渾身の力で振り下ろされた双剣が肩口を切り裂く、かに見えた。
しかし、刃は皮膚の表面すら傷つけずに止まっていた。
剣が当たったことに気づいてすらいないように、魔王はただただ私を見つめ続けてる。
ヒュンという音と共に、鞭のように尻尾がルシオさんを襲う。
吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直して着地した。
「・・・平気だ!」
こちらから何か声をかける前に、ルシオさんが手で静止しながら叫ぶ。
「やはり聖剣でなくてはならんか・・・」
マスターの小さいつぶやきに、聖剣を握る手が一段と強くなる。
「終わりか?」
そういった魔王の視線はこちらの心臓を突き刺すほど鋭かった。




