第21話 決戦前夜
イゴンコウに戻ってきた私たちは、再びボルタラさんの部屋に居た。
ダイヤさんとチャコさんは先に戻ってきていた。
見知らぬ2人を連れている。
「まずは我々の自己紹介からしておこう。」
「そうだな!俺がルシオ、そしてこっちがリアン。ミアレスから助太刀に来た。まずはゼフ殿、女王様からの書状をお渡しする。」
そう言って受け取った書状にマスターが目を通す。
「・・・なるほどの。」
「なんて書いてあるんですか?」
前のめりにリサが尋ねる。
「これか?ん~まあよいか。そのまま読み上げるぞ。「我が友ゼフ、我が一族が排他的だと知っていて援軍を出してくれとは、なんとも豪胆な奴よ。だが、そなたらしいとも言える。我も友人からの頼みを断るほど愚かではない。それに魔族は脅威、共通の敵だと思っておる。準備が整い次第兵を送る。先鋒として我が国一の戦士をいかせる故、好きに使え。追伸、たまには顔をみせい。 アリエラ」」
「私たちも女王様から直接聞いてます。追って軍を派遣してくれると。」
チャコさんの説明に、マスターが頷く。
「心強いわい。」
「王国一の戦士・・・」
「私だ。」
「俺だ!」
「「むっ!?」」
私の何気ないつぶやきにルシオさんとリアンさんが自分自身を指さす。
揃った動作に、お互いを見合ってる。
「ルシオよ、君は強い剣士だ。君が相棒で心から嬉しい。だけど、見栄を張るのは良くないな。」
「リアンよ、その言葉、そっくりお前に返そう。」
2人がにらみ合いを始めたのを見て、マスターがため息をつく。
「はぁ~あやつが推薦しとるとはいえ、先が思いやられるわい。」
「道中で実力は見たけど、問題ねーよ。悔しいけど俺たちより強い。」
そうダイヤさんがつぶやくのにチャコさんが相槌を打つ。
「それで、そっちはどうだったんだ?1人知らない爺さんもいるみたいだけど。」
バルドさんを指さしながら聞くダイヤさんにマスターがドラゴンに会ってからの話をした。
皆驚いていたが、リサが無事に覚醒できたことに安堵したようだ。
エルフの2人は聖剣の輝きに興奮しっぱなしだった。
具体的になっていく魔王討伐の話しに、不安がどんどん膨らんでいく。
「本当に魔王は来るんでしょうか?」
思わず口から洩れてしまい、皆の視線を集めてしまった。
「来ない方がおかしいよ。無限の魔力なんて、彼らにとってみたら喉から手が出るほど欲しい存在だからね。」
「そこを詳しく教えていただけませぬかな?あいにく人類の書物には魔王の脅威は残っておりますが、理由までは書かれておりません。何かご存じなのでしょう?」
マスターの問いにボルタラさんが顎をさする。
「な~に、簡単なことだ。魔族にとって魔力とは命そのもの、君たち人間にとっての空気に近い。命の根源みたいなものさ。それが手元で無限に生み出せるならどうする?」
「魔力ってそんなに貴重なんですか?」
思わずリサが質問する。
「自然界にも魔力はあるけど、決して潤沢にあふれてるわけじゃない。だから魔物は生き物を狩ってるのさ。彼らが生きる限り、それは続く。」
「う~む。」
ボルタラさんの説明に思わずマスターが唸る。
「向こうにライラのことがバレとる以上、衝突は避けられんな。」ルドさんの一言に皆が頷く。
「なら作戦が必要じゃな。」
皆の決意とは裏腹に、避けようのない事実として突き付けられたそれは、あまりにも重くのしかかっていた。
私はただ、聞いているだけだった。
議論が白熱しているさなか、部屋に顔見知りの助祭が飛び込んできた。
「お話し中失礼します。緊急の用件があって入らせていただきました。」
顔色が悪く、息を切らせてる姿から、ただ事ではないことがわかった。
ボルタラさんがいつもの調子で問いかける。
「かまわないさ。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「・・・カルディア平原に魔王軍を確認。ものすごい数で押し寄せてきてます。」
私はカルディア平原の丘の上にいた。
眼前には魔族を筆頭に魔物たちがうごめいている。
平原に広がる草木が見えず、赤黒い絨毯でおおわれているかのようだった。
異様な雰囲気に圧倒され、足が震えている。
そんな私をそっとマーサさんが支えてくれる。
「大丈夫よ。みんながいるわ。」
魔王軍襲来の報と時を同じくして、援軍の知らせも届いた。
今魔王軍と相対する位置に人間とエルフの混合軍が構えている。
ボルタラさんの一声でイゴンコウの軍隊が、マスターの呼び掛けでミアレスの援軍に加え、ブルーサンシャインのメンバー、道中のギルドから多くの冒険者が派遣された。
名前も知らない人たちが、私のために集まってくれていた。
その申し訳なさがマーサさんの慰めすらも曇らせていた。
「皆のもの、伝説の一部となろうぞ!」
「「「おおぉぉ!!」」」
マスターの掛け声に、一同が叫ぶ。
「「「ぐうぉぉぉ!!!」」」
それに呼応するかのように、魔王軍からも叫び声が上がる。
ぎりぎりとこちらに迫ってくるのが、地響きから伝わってくる。
「いよいよ始まるね。ではオルディン、最初は頼んだよ。」
ボルタラさんがニコニコしながら後ろに控えてるオルディンを見た。
「我に協力させるなど、ずうずうしいにもほどがある!だが此度の勇者誕生に立ち会ったよしみよ。最初だけだ!」
そう言って豪快に飛び上がると、魔王軍向けて特大のブレスを吐いた。
一瞬にして魔王軍は炎で見えなくなった。
「「「がああぁぁ!!!」」」
という叫び声が響く中、オルディンの声が響く。
「さあ見せて見よ!運命を切り開く力を!」
そして遠くへ飛び去って行った。
オルディンが飛び去ったころ、魔王軍から大きな魔力の波が起きる。
皆が一気に構えた瞬間、戦場を嵐のような風が吹く。
瞬く間に炎がかき消された。
魔王軍の数は目に見えて減っていたが、無傷に見える魔族も見受けられた。
そして減ったからこそよく見えるようになった。
奥に置かれた豪勢な椅子に、悠々と座る魔族、その魔力の大きさは私でも十分に感じ取れた。
だれが見ても魔王とわかる存在だった。
はるか遠くにいるのに、目が合った気がした。
背筋が凍り、動悸が激しくなる。
恐怖を感じても動けない、あまりにも大きな力の差を感じ、ただただその場で震えていた。
そんなとき視界の端でやさしい光が見える。
すると、震えがとまり、体が動くようになっていた。
「大丈夫よ。」
そう言ってほほ笑むマーサさんの胸に思わず飛び込みそうになった。
ぐっとこらえ、声を絞り出した。
「ありがとうございます。」
マーサさんがやさしく抱きしめてくれた。
笑顔のままマーサさんがゆっくりと歩みだす。
私はただただ見送ることしかできなかった。




