第2話 水と油
「今日からこのギルドにお世話になります!リサです!」
ある日ギルドにつくといきなりあいさつされた。
ここ最近決まった範囲の人間としか話してなかった私は面食らう。
「ライラちゃんちょうどよかった。リサちゃん今日から入団するんだけど、慣れるまでしばらくペアを組んであげてほしいの。」
受付のマーサさんに微笑みかけられる。
マーサさんは妙齢のやさしい雰囲気の女性だ。
ギルドの看板娘、町中の男性が言い寄るタイミングを探してる。
でも物腰の柔らかさとは裏腹に、軽口を叩ける隙を見たことはなかった。
それにギルドでもめ事があっても、マーサさんが一言いえば静まり返るすごみも持ち合わせていた。
現にこれは決定事項だと顔に書かれている、ように見える。
入団当初から本当によくしてもらっており、マスター同様大恩がある。
引き受けるしかなかった。
「ライラ先輩、よろしくお願いします!」
「リサちゃん”は”元気だね~」
酔っぱらったスタインがあてつけがましく言ってくる。
(この人いつも飲んでるな・・・)
「昼間から飲んでる人に言われたくありません。」
私はそっけなく返事した。
リサは絵に描いたような元気娘だった。
同い年だが純朴で冒険者に夢を抱いてた。
将来に抱く希望、前向きで快活な様子は私とは正反対だった。
水と油な2人、しんどい未来が浮かんでくる。
「待てー!!」
そう叫びながらリサが盗人を追いかけていく。
その背中はもう豆粒みたいに小さくなってる。
「ちょっとリサ!・・・早すぎるよ!」
私は肩で息をしながらその場にうなだれた。
リサと組んで数か月、予想通り前途多難な毎日だった。
彼女は手当たり次第に依頼をこなしていった。
最初こそ私が依頼の選定を行っていたが、積極性の塊である彼女が動くのに時間はかからなかった。
リサが選ぶ依頼中には私が普段受けないような、戦闘の可能性があるものもあった。
今回の盗人の捕縛なんてまさにそう。
リサはあの年でどこかの拳闘術の師範代にまで上り詰めた実力者らしく、戦うことに戸惑いがない。
息を切らせながら追いついたときには、盗人はリサに縛り上げられていた。
「捕まえましたよ!」
満面の笑みにVサイン、素直な子である。
ちょっと突っ走りすぎてドジを踏むことも多いが、愛嬌のあるキャラクターで瞬く間に町の人気者になっていた。
私からするとあまりにも自分と正反対なので、嫉妬の気持ちはなかった。
ただあまりにも強く光っているので、惨めな気持ちが湧いていた。
「お疲れ様。良く捕まえてくれたわね。」
「捕まえたのはリサです。この子が頑張って追いかけてくれたから。」
マーサさんからのねぎらいも素直に受け止められない。
だが事実だった。
私の体力では犯人を捕まえることはできなかった。
「”2人で”捕まえたんですよ!ライラ先輩がいなかったら、そもそも犯人を見つけられてません。さっと魔法で痕跡を調べて、すごかったんですよ!」
ただの探し物を見つけるための魔法。
別に難しい魔法じゃない。
リサの性格からきっと素直に褒めてくれているのだが、自分の魔法が特別じゃないことを私は痛いほどわかっていた。
興奮気味に報告するリサを横目に、私の気持ちは既に自宅に向かっていた。
素直に受け取れない、その理由はよくわかっている。
ーーー私は地方でそこそこ名の知れた貴族に生まれた。
この世は生まれたときにみな天恵を授かり、私の家は小規模ながら貴族ではあったのでその啓示も受けている。
「魔蔵」
それが私の受けた天恵だった。
大量の魔力が貯めこまれている体、偉大な魔法使いになるのではと両親は歓喜した。
まじめな性格だった。
勤勉で努力も惜しまなかった。
無尽蔵に魔法を使えるため、練習量は人の比ではない。
故に私は多種多様な魔法を使うことができた。
「この子は神童だ!」
両親だけにとどまらず、周りがみなはやし立てた。
そして私は決して調子に乗らなかった。
2つ下に双子の弟と妹が出来、2人の天恵も輝かしいものであったが、私の多彩さには及ばなかった。
よき姉として、まさに模範的な存在であり続けた。
しかし、絶頂期はここまでだった。
異変を感じたのは10歳を超えたころ、初級魔法には手を出し尽くしたため、同年代よりも早く中級魔法を学ぶときに起きた。
どれだけ魔力を込めても、どれだけ呪文を唱えても、私は中級魔法を放つことができなかった。
最初こそさすがに難しかったかと思われていたが、姉の様子をずっと観察していた弟が見様見真似で放ててしまってからすべてが変わってしまう。
「この子は神童だ!」
中級魔法の最年少記録だった。
弟が担ぎ上げられるのを双子の妹が黙ってみているはずもなく、彼女も躍起になって中級に手を出し始めた。
10倍は練習しているであろう姉を横目に、妹は5回目で成功して見せた。
「双子の神童」
世間の目は一気に双子の弟と妹に向いた。
それでも私は腐らずに、練習を続けた。
しかしその後2年、中級は一度も放てなかった。
周囲の目は私が勤勉だったこともあり、嘲笑ではなく哀れみの視線が多かった。
「あんなに頑張っているのに。」
「兄弟に抜かされちゃって可哀そうに。」
自分が感じるよりも先に気持ちを言葉にされ、自身の焦りと絡み合って精神はどんどん蝕まれていった。
心は確実に疲弊し、限界に追い込まれていく。
「どうしてあの子は中級魔法が使えないのかしら?」
夜中に立ち聞きしてしまった両親の会話、その母の一言は想像以上に鋭く、深く突き刺さった。
母に悪気があったわけではないのだろう。
きっと両親や兄弟から見放されていたわけではなく、私を案じるが故の一言だったと思う。
しかし限界だった心が壊れてしまうには十分だった。
「もうこれ以上頑張れない・・・」
私は何もかも諦めてしまった。




