第19話 灰色の龍
奥に進むにつれ、押しつぶされそうな気配が強くなってくる。
ただ、先頭を行くマスターとバルドさんの背中が頼もしく、恐怖に足が止まることはなかった。
じりじりと進んでいくと、一気に開けた場所にでた。
もともと広い洞窟だったが、そこは空さえ見えれば原っぱと見間違うほど開けていた。
太陽を必要としない草木がまばらに生えており、うっすらと発光していた。
そのため部屋の様子がよくわかる。
中央に灰色のそれが眠っていた。
ダンジョンの入り口から感じていたプレッシャーの正体にがくぜんとした。
「これは・・・ドラゴンじゃな。」
バルドさんが興奮気味につぶやく。
その声が聞こえたのか、灰色のドラゴンがゆっくり体を起こす。
(だからこの洞窟はこんなに大きいのか・・・)
見上げるほどの巨体、その目から注がれるプレッシャーに後ずさる。
「我が名はオルディン。ドラゴンの王である。洞窟内をドタバタとしておったのはお前たちだな。人間が我に何の用だ?」
そう言いながら私たちをじろっと見定めるように見回したと思ったら、突如目を見開いて叫び出した。
「な、な、なんで貴様がここにいるんだ!」
あまりのボリュームに体がすくみ上る。
オルディンと名乗ったドラゴンの視線の先には・・・ボルタラさんがいた。
「・・・まさか君が今の長だとはね。驚いたよ。」
そう言ってボルタラさんは肩をすくめる。
「お、お知り合いなんですか?」
「まあ腐れ縁ってやつだよ。」
そう言っていつも通りの笑顔でリサにこたえる。
「なにが腐れ縁だ!我が一族が貴様にどれほどの恨みを抱いているかわかっているのか!それも飽きもせずまた人間などと一緒に・・・またなのか!」
出会ったときの尊大な雰囲気は跡形もなくなり、驚き慌てふためいてる龍にみんな困惑していた。
マスターが一歩踏み出し頭を下げる。
「オルディンといわれましたかなドラゴンの王よ。わしはゼフと申します。そこのボルタラの弟子でございます。師が何かご無礼をなさったのでしょう。わしからも謝罪いたします。申し訳ない。」
オルディンはぎろりとマスターをにらみつけた。
「・・・やつは既に罰を受けておる。人間に謝罪されるほど、落ちてはおらん。」
そう言って居住まいをただした。
「もしや、師が戦いに参加できないのはそれが理由ですかな?」
マスターの言葉に、不思議そうに目を向ける。
「貴様、弟子といったのに何も知らんのか。」
そういってジトっとボルタラさんを見た。
ボルタラさんは無言で肩をすくめた。
「謝らせた詫びだ、教えてやろう。」
そう言ってオルディンはボルタラさんとの出会いを話し出した。
ーーー今から数千年前、まだわしが若いドラゴンだったころ。
我が一族は強く気高い種族だ、地上を支配していたといっても過言ではない。
当時の王はその状況をさらに強固にしようとした、そのため武力をちらつかせ他国に従属を求め始めたのだ。
それに異を唱えたのが人族よ。
奴らは団結し、ドラゴン狩りと称して我らと正面からぶつかった。
もちろん我らが優勢だった。
人間を駆逐してもよいと思っていた。
それに待ったをかけたのが、そこにいるボルタラよ。
天界より見ていた奴は人間が絶滅してしまうことを哀れに思い、あろうことか人間側に肩入れしてきた。
いくら我らドラゴンとはいえ、雷神の前には無力よ。
一方的に蹂躙され、ドラゴン族は多くの同胞を失った。
王は死に、住処を追われ、それ以来我らはこの地でひっそりと暮らすようになったのだ。
のちに奴は神の身で肩入れしたことを天界でとがめられ罰を受けたようだがな。
力を制限され、下界に突き落とされた。
それ故、ってさっきからうるさい。
今説明しておるだろ。
何?
神とか天界とは何かだと?
そんなもの決まっておるだろう。
やつはエルフなどではない。
やつはーーー
「つまり、ボルタラ様、あなたは神そのものだということですか?」
マスターが目を丸くしながら尋ねる。
「正確には雷をつかさどる神だね。まあ今は力を制限されて、何もできないけどね。」そう言ってボルタラさんは笑っていた。
あまりの衝撃だったのか、マスターは小さい声でずっと「じゃからか・・・」とつぶやいていた。
そんな私たちの様子にしびれを切らしたのか、オルディンから話しかけてきた。
先ほどまでとは違って、威圧感のない声だった。
「それで、お前たちは何をしに来たのだ?よもや昔話を聞きに来たわけではあるまい。」
それを聞いてボルタラさんが進み出る。
「彼女がどうやら勇者らしいんだ。なので魔王を倒したくてね。確か聖剣を受け取るのに長の加護が必要だったと記憶していてね、彼女に加護を与えてやってくれないかい?」
「はぁ~~~」
オルディンは大きなため息をついた。
「長ではなく王だ!そして、加護などない!」
そういうとリサを見据えてぐっと姿勢を正して翼を広げる。
「よいか!勇者になったというのなら力で示すのだ!我が試練を越えて見せよ!それが聖剣を得る条件だ!」
「し、試練とはなんですか?」
リサがひるまず進み出る。
「簡単なことよ。わしの体にキズ一つでもつけてみよ。それが出来なければお前に聖剣は手に入れられん。」
そう言って大きな口がニヤリと笑った。
「そういうことなら。」
マスターがゆらりと杖を構える。
「早速やろうかの。」
そう言い終わると同時にバルドさんが駆けだす。
気づいたときにはオルディンの足元にいた。
「ぬん!」
気合と共に剣を振り飛び上がる。
体を蛇が巻き付くように素早く回り、切り上げていった。
しかし「なんじゃこれは!?切れんじゃと!?」
バルドさんが目を見開いて驚いてる。
「バルド、離れい!」
そういってマスターの杖から複数の雷が龍になって襲い掛かる。
しかしオルディンの体に当たるやいなや、バチッと音を立てて小さく弾けてしまった。
「なんと!?魔法が消えた?」
今度はマスターが驚いてる。
その隙に地面に降りたバルドさんが間髪入れず踏み込もうとしたとき、
「待てーーーい!!」
オルディンが大きく吠えた。
2人がピタッと静止する。
「お前たちが傷つけても意味ないに決まっておろう!勇者のための試練だぞ!その娘がやらねば意味がないのだ!」
「・・・なんじゃつまらん。」
そう言ってバルドさんが剣を納める。
「なるほどの。つまりリサが自分の力でその魔法を突破せねばならんのじゃな。」
リサへ目くばせしながらマスターが唸る。
「否、これは魔法の力ではない。王となったドラゴンがこのダンジョンにて試練を行うとき、神より授かる力だ。受け継がれし試練の力、これは全ての力を拒絶する。」
「全ての力って・・・いったいどうすれば?」
リサの表情に困惑の色が浮かぶ。
「越えてみせよ!神が定めた運命を打ち破ってこその勇者よ!」
そういうとオルディンがリサの前に立ちはだかる。
「はあー!やー!」
あれからリサは何度も何度もオルディンに切りかかっている。
しかし何も起きなかった。
剣をブギーバックから取り出したりもしたものの、すべて真正面から受け止められ、試練の力に阻まれていた。
「はっはっは、がむしゃらに振ったところで結果は変わらんぞ!」
「くっ」
余裕の顔で応対するオルディンにリサがイライラを募らせている。
もうずいぶん前から肩で息をしていた。
マスターとバルドさんは試練の力についてずっと話してる。
何かヒントがないのか、突破口を見つけるために必死だ。
ボルタラさんはやれることがないので、のらりくらりこの部屋を観察している。
私はただ、何もできないでただ立ってることしかできなかった。
応援する言葉すら口から出ない。
頑張っているリサを見ると、むしろ息が詰まってきた。
私だけが、お荷物として取り残されていた。
何もできない、役に立たない。
そんな気持ちが、心を染めていた。




