第18話 魔力のない男
「お前さんも無限の魔力とは面白い。やりたい放題の天恵じゃな。」
盛り上がる会話にどこか入れずにいた私にバルドさんが話を振ってきた。
「いえ、そんなことないです。私なんて簡単な魔法しか使えませんし・・・宝の持ち腐れです。」
「そんなことないです!ライラさんはすごいんですよ!いろんな魔法を使えて、何度もピンチを助けてくれました。」
私がぼそぼそ答えていると、リサが上からかぶせてくる。
それを聞いたバルドさんがほくそ笑む。
「慕われておるの。」
「・・・」
私は何も言えなかった。
そんな私を見かねたのか、バルドさんが話し出す。
「わしは魔力が全くなくてな。小さい頃は辛酸を舐めることも多かった。魔法剣士なんて輩に、ただの剣士が勝てるわけない。」
その視線は私をとらえて離さない。
「悔しかったのぉ~剣など握っても意味ないと、自暴自棄になっておった。」
「じゃあ・・・どうして?」
「簡単なことじゃ。剣が好きじゃった、それだけじゃ。」
バルドさんの歯が眩しい。
「好きだから続けた。好きだから学んだ。ただそれだけじゃ。気づいたら、わしはだれにも負けんようになってた。」
「懐かしいの。わしが出会ったころもお前さんは毎日のように新しい技を作っただの、新しいトレーニングを考えただの、せわしなかったの。」
マスターが昔を懐かしむように笑う。
「さっきから見ておるが、ライラ、お前さんは大したもんじゃ。使えるようにならんかと試行錯誤しとったからわしにはわかる。魔法を一つ覚えるのも大変じゃ。それを水は出せるは、火も出せる。こうやって荷物も軽くできれば、探知もできる。お前さんは魔法が好きなんじゃろ。だから学んだんじゃろ?」
バルドさんの問いに私は答えられなかった。
私が魔法が使えるのは、ただただ勉強を頑張っただけ、みんなが褒めてくれるから、周りの期待にこたえたかったから、ただそれだけのためだった。
魔法が好き?そんなこと考えたこともなかった。
どれだけすごい魔法が使えるか、周りの人なんてそれしか見ていない。
私は中級も使えない。
バルドさんの言葉の意味を、私は理解できなかった。
ヴァルハイム、噂では耳にしたことがあったが、実物は想像以上だった。
道中遠目に見えていたその姿すら神々しい山々だったが、近づくほどにその雰囲気が増し、麓では押しつぶされそうであった。
壁のようにそびえたつ山肌に息をのむ。
圧倒されている私たちを他所に、マスターとバルドさんの顔には緊張感が漂っていた。
「見ているだけかの。」
「そうみたいじゃな。襲ってくる気はないようだ。」
それぞれ得物に手をかけながらつぶやく。
「なにか、いるんですか?」
おずおずとリサが尋ねる。
「ここはドラゴンの巣だからね。急な来客に少々警戒させてしまったようだ。」
そう言いながらボルタラさんだけ全く緊張感を感じさせず、へらへらしている。
「まあ居心地のいい視線でもない。さっさとダンジョンへ向かおう。私たちは山登りに来たわけではないからね。」
そういってお茶目に笑うボルタラさんを先頭に、私たちは山間に向けて進んでいった。
山間から少し上った先、ダンジョンが大きな口を開けていた。
街一つ飲み込みそうな広さの底の見えない穴、それこそ今回の目的のダンジョンだった。
「す、すごい・・・」
思わず声が漏れる。
「こりゃ難しいと聞くわけじゃ。まず中に入るのが大変ときた。」
「のんきなことを言ってる場合かゼフ。手はあるんじゃろうな?」
「う~む、雷でうまく降ろせんかの・・・」
悩むマスターを横目にボルタラさんが一歩踏み出す。
足元からジリジリと雷が広がり、体が穴に落ちず浮いている。
そして私たちに手を指し出した。
「ここは私が力になろう。このぐらいなら訳ないさ。」
ボルタラさんの手を取ると、同じように足元から雷が広がっていく。
そして地面と離れたのを感じた。
(う、浮いてる!?)
「じゃあ行こう。もし手を離したら・・・」
そうやって微笑むボルタラさんの言葉にきゅっと身がしまり、私たちは必死にお互いの手を握り合った。
空の光が遠ざかり、上も下もわからないほどの暗闇を進んでいく。
数える気がなくなるほどの時間を費やし、私たちは下に降りた。
中も外同様、とてつもない広さの洞窟だった。
「すごい広さですね!」
「はっはっは、それだけでかいのが待ってるんだろう。楽しみじゃないか。」
リサとバルドさんが揃って興奮している。
私はただただ怖かった。
未知なる洞窟で得体のしれないプレッシャーを感じてた。
気持ち悪さに吐き気すらしてくる。
とてもじゃないがわくわくなんかしていられない。
そんな心の温度差がダンジョンのせいなのか、自分のせいなのかはわからなかった。
道中、マスターがなぜバルドさんを誘ったのかがわかった。
ダンジョン内は無数のリザードマンやアリのモンスターが襲ってきた。
広い洞窟を縦横無尽にとびかかってくる。
バルドさんは剣を片手にその全てを切って捨てた。
討ち漏らしを倒すため、マスターが控えていたが、その出番はほとんどなかった。
「はっはっは、何をしておるゼフ!もっと戦わんか!」
「わしは魔力が多くないんじゃ。お前さんみたいに体力があればいいわけではないわ。」
2人は軽口を言いながら淡々と魔物を処理してく。
「私たち、ただの見学ですね。」
そういうリサの自嘲に小さく頷いた。
ボルタラさんは一応後方を警戒してくれている。
私とリサは当初からそう言われていたものの戦闘には参加せず、お荷物状態だった。
そんな中でもリサは明るく、楽しそうだった。
私はみんなの会話もどこか上の空で、ただただ無力感に苛まれ、小さくなってただけだった。
戦闘がひと段落して休憩になった。
火を起こし、焚火を中心に各々が休んでる。
何からくる疲れなのかもはっきりしないまま、私は近くの岩にへたり込んでいた。
小さくため息をついたとき、気づけば横にバルドさんが来ていた。
「座ってもよいかな?」
「・・・はい。」
断る気力もなかった。
しゃべることがなく静かな時間だったが、居心地が悪くて理解できなかったことを聞いた。
「・・・好きだったからだけですか?」
「ん?」
「剣を続けた・・・理由です。」
自分でも恥ずかしくなる切り出し方に、声が小さくなる。
そんな私にバルドさんはやさしく微笑んだ。
そして私よりも小さい声で囁いた。
「ゼフには内緒じゃぞ。」
私が頷くと、バルドさんは昔話をしてくれた。
「あやつは昔から強かった。それにいいやつでな、泥臭く訓練してるわしにかいがいしく付き合ってくれた。まだわしが今みたいに強くない時から。・・・変わったやつじゃ。あやつはわしを見てくれておった。気づけばいつからか、こやつと一緒に旅に出たいと思い始めてた。」
そう言ってこっちを見てきたバルドさんと目が合う。
出会ってから初めて見る、やさしい瞳だった。
「じゃから、頑張れたのかもの。」
お茶目なウインクだった。
一息ついたバルドさんの見つめる先にはマスターがいる。
「きっとあやつは、わしが剣聖でなくとも誘ってくれたじゃろう。友とはそういうもんじゃ。」
そう言ってバルドさんは戻っていった。
背中越しの焚火のせいか、温かに見えた。




