第17話 ヴァルハイムへ
私が魔王に狙われるかもしれないという事態に、解決策はないかと皆奔走してくれた。
魔王とはいったい何なのか、それを調べ直すところからだった。
結果として、何の偶然か相棒のリサが勇者であるということが功を奏した。
「君が勇者として覚醒して、魔王を討ってしまえばいいんじゃないか?」
ボルタラさんの何気ない一言がすべてを決めた。
人類の歴史書には伝説として残っていた勇者覚醒、ボルタラさんの記憶と組み合わせることでその全容が見えてきた。
さすがは悠久の時を生きるエルフ、というかこの人がいなかったら勇者なんて覚醒できないんじゃないか?とすら思ってしまう。
それほど、人類側の伝承はあいまいだった。
龍の住む山として知られるヴァルハイム、その最奥に眠っている龍の加護を得ること、それが勇者に課せられた試練だ。
「じゃあ早速ヴァルハイムに行こうぜ!」
「残念じゃが、お前さんはだめじゃ。」
今にも飛び出しそうだったダイヤさんをマスターが制す。
「な、なんでだよ!?」
「ヴァルハイムを甘く見過ぎじゃ。お前さんは確かに強い。じゃがあそこにはまだ足りん。」
ダイヤさんは不服そうだが、反論の声は挙げなかった。
「安心せい、お前さんたちには別の仕事を頼みたい。」
「別の仕事って?」
チャコさんが割って入る。
「魔王が立ち上がるとなると、魔族も大所帯で来る可能性が高い。その時に備え、隣国に救援を求めておいてほしいのじゃ。」
「なるほど。隣国っていうと、ここからだとミアレスが一番近いかな?」
さすがチャコさん、地図が頭に入っているのだろう。
「そうじゃな。あそこの女王は気難しいが、わしの名を出せば大丈夫じゃ。」
「よし!じゃあそうと決まればすぐ行こうぜチャコ!」
「そうだね。じゃあライラちゃん、リサちゃん、またね。」
そう言って2人は早々に旅立っていった。
「さて、問題はここからじゃ。ヴァルハイムにはわしが行く。わしとリサ、それからライラ。」
「え!?私ですか?」
「そうじゃ。守るのはわしの責務じゃ。側にいてもらわんとの。」
「で、でも私戦えません!そんな難しいダンジョンに行くなら、なおさら足手まといです!」
「私からもお願いします。」
私の反論にリサが真剣な顔で答える。
「いきなり勇者って言われて、正直私不安です。加護っていうのもわからないし・・・でも、ライラさんと一緒なら、立ち向かえる気がするんです。」
「そんな・・・(あなたと私は違うよ。)」
そう思ったが口からその言葉は出なかった。
戸惑い、言葉に困っているとリサに手を握られた。
切なる気持ちが否応なしで伝わってくる。
「わかった、一緒に行くよ。」
そういうのが精いっぱいだった。
「決まりじゃな。それからボルタラ様もご同行願います。今や勇者覚醒をご存じなのはあなた様だけです。道中の案内含めお願いいたします。」
「それは構わんが、お前も知っての通り、私は戦力として期待できないぞ?」
「承知しております。」
(マスターの師匠なのに戦力じゃないってどういうこと?)
だが私がその疑問を挟む隙はなかった。
「それよりゼフよ、いくらお前でも、1人で2人をお守りして潜れるようなダンジョンではないぞ?」
「それについては当てがあります。」
そういってマスターは地図を広げた。
「ここからヴァルハイムに行く道中、オルトレアという街を通ります。そこにおりますものに助っ人を頼もうかと。」
そう言ってマスターはにっこり笑った。
「助っ人ってそんな危ない場所に行ってくれる人がいるんですか?」
「ほっほっほ、大丈夫じゃ。今回の旅はあやつにはもってこいじゃ。」
そう言ってリサの心配をマスターは笑い飛ばしていた。
オルトレアの街までは気の重い旅だった。
いつもならボルタラさんの軽口は旅を楽しくするスパイスだっただろう。
彼の昔話は面白く、リサも楽しそうだ。
それでも私にはどこか遠くに聞こえた。
これは勇者覚醒の旅、私はただお守りのためについてきてるだけ。
最初こそ雑用はやろうと動き回ったが、リサやマスターがそれを許さなかった。
2人は善意で分担してくれたのだ。
それがまた、余計に私を辛くした。
オルトレアに着いたのはちょうど私が辛いと思い始めてきたその時だった。
マスターから街と聞いてイメージしていたものとオルトレアはかけ離れていた。
人こそ住んでいるが、皆農作業に明け暮れて、全身泥だらけだ。
そもそも家が少ない。
まばらに点在するその様は、街というより集落といった方が適切だった。
自然と風が心地いい。
「いいところですね!」
「そう、だね。」
リサの問いかけにすっと答えられない。
マスターは街の中でも特に小さい、隅の家の前で止まった。
「おういバルド!おるんじゃろ!わしじゃ!ゼフじゃ!遊びに来てやったぞ!」
どんどんと扉を鳴らした。
「うるさいのぉ。そんなでかい声じゃなくても小さい家なんじゃから聞こえ取るわ!」
そう言って扉を開けたのは、マスターと歳の変わらない老人だった。
「すまんすまん、耳が遠くなっておるかもと思ってな。」
「あほか!そんなんで田舎暮らしが務まるわけなかろう!」
そう言いながら老人が外に出てきた。
マスターより背丈はあるものの、すらっとしている。
姿勢こそいいものの、ダイヤさんたちより強いのか疑問だった。
しかし、横のリサは違った。
「あの人、すごいです。」
そう言いながら食い入るように見入っていた。
「一つ一つの動きが、美しいです。」
美しさとすごさがどうつながるのか、私にはピンと来てなかった。
2人は再会の挨拶がすんだのか、こちらに向かってきた。
「さて、紹介しよう!わしの旧友、剣聖のバルドじゃ。」
「元剣聖じゃ!それはもう弟子に譲ったわい。今はただの農夫よ。」
「「はっはっはっは」」
紹介したかと思えば、2人で大笑いしていた。
「剣聖って・・・あの剣聖?」
「そうじゃよ。バルドは剣の道を究めた、世界最強の剣士よ。昔はよく一緒にバカをやったもんじゃ。剣聖になってからは会えておらんかったがの。」
私の疑問にマスターが答えてくれる。
「それはお互い様じゃ!お前こそ、急にギルドを辞めるなどしよって。いつの間にかマスターをやってると聞いて、びっくりしたぞ。」
悪態をつきながらも、バルドさんはどこか嬉しそうだった。
「それで、今日は何しに来たんじゃ?こんなに引き連れて、昔話をしに来たわけではなかろう。」
「お前さんを旅に誘いにきた。」
「ほお。隠居したわしをか?いくらお前さんの頼みでも、難しい相談じゃの。」
そう言ってバルドさんは腕組みをし、挑むようにマスターをにらむ。
「ほっほっほ、いいや難しくはないはずじゃ。」
「なんじゃと?」
「お前さんの夢を叶えてやるからじゃ。」
そう言ってマスターは満面の笑みで言う。
「ドラゴンと対峙してみたくないかの?」
カッとバルドさんが目を見開いた。
「それを先に言わんか!ヴァルハイムに行くのか!」
そう言ってバルドさんは前のめりにメンバーに加わった。
「はっはっは!ドラゴンに会えるかと思ったら、魔王に勇者ときたもんだ。長生きはしてみるもんだの、ゼフ!」
「こんな状況で笑ってられるのはお前さんだけじゃぞ。」
そう言いながらもマスターの顔は笑顔だった。
ヴァルハイムに行けると聞くや否や、あっという間に出立の準備を整えたバルドさんは、道中でようやく旅の目的を聞いていた。
マスターによると、剣聖とはあくまでも人の世の話、強者はまだまだ世の中にいるとのこと。
「わしはもっと強くなりたかった。勝って己の強さを証明したかった。そんなわしにとって、剣聖という称号は邪魔でしかなかったのよ。ようやく譲れる弟子が出来たときには、休みたい気持ちしか残っておらんかったんじゃ。」
バルドさんが言うには剣聖になってしまうと、祭り上げられむしろ命を張る戦いからは遠ざかる日々らしい。
後進の育成や指導を国から命じられ、自由の利かない日々に辟易していたようだった。
「ドラゴンなんぞ誰もが憧れる生物の頂点!出会えるとわかれば行くしかなかろう。ヴァルハイムなんぞ、この歳になってから1人で行くようなところではないからの。」




