第11話 白い街
「しばらくはこの国でゆっくりしたらいいさ!」
皆にお礼を伝えると、ダイヤさんが軽く提案してきた。
「確かに、まだ全快じゃないだろうしね。」
チャコさんも同調する。
「じゃあしばらくは観光ですね!」
リサのテンションが一段上がる。
やれやれと思いながらも、初めての国に自分も楽しみな気持ちが強かった。
「そういえばマスターは?マスターにもお礼を伝えないと。」
「せっかく来たなら師匠に会うつもりらしく、いろいろ準備しに行ったよ。」
「師匠?準備?」
ダイヤさんの説明に私はピンとこなかった。
「この教国の教皇なんだよ、マスターの師匠。ただなんていうか・・・マスターは師匠に会いづらいのさ。昔、あまりいい辞め方をしなかったんだと。」
「マスターが?」
自分の中のマスターは、きっちりしていながらも程よく力の抜けたいいお爺さんだった。
(気まずくなる辞め方・・・想像できないな)
「まあ帰りは俺たちと帰ればいいさ。」
ダイヤさんの言葉にチャコさんもうなづく。
2人が同行してくれる姿に、なんだか安心できた。
外に出て、イゴンコウの町並みに圧倒された。
「す、すごいきれいです。」
「町全体が白色で統一されてるのよ。配置も碁盤目状になっていて、町並みそのものがきれいよね。」
初めて見る私にチャコさんが解説してくれる。
「あと皆さんとても元気で活気がありますよね!」
「そうね。やっぱり宗教という柱がしっかりあるからなのか、みんな生き生きしてる。」
リサの一言からもきっちり話を広げてくれて驚いた。
「おれは落ち着かないけどな。この国はきれいすぎる。」
「ダイヤみたいにいい加減だと神様側も願い下げでしょ。」
ダイヤさんには辛らつだけど、本気で言ってないのはわかる。
料理にも舌鼓を打ちながら大満足で過ごしていると、道の隅に老人がうずくまってるのが見えた。
でも、誰も足を止める様子がない。
(私にしか見えてない?)
「あの人心配ですね。ちょっと声かけてきます!」
私の様子からリサが気付いたらしくかけていく。
おばけじゃなかったことに安堵し、リサを追いかけた。
「大丈夫ですか?」
リサの言葉にお爺さんが顔を上げる。
うつろな瞳でどこか焦点が合っていない。
よく見ると体も不健康そうに痩せている。
この街で出会ってきた人の中では異質だった。
「わざわざありがとう。なに、ちょっと教会まで行こうと思ったんじゃが途中でふらついてね。休んでおったんじゃよ。」
「う~ん・・・体調が悪いようなら家で休んだ方がいいんじゃない?」
「ならん!」
リサの問いかけにかぶせるように大声を出された。
「今日はまだ教会に行けてないんじゃ!祈りを捧げねばならん!・・・とすまんな。怖がらせるつもりはなかったんじゃ。」
びっくりした私たちに気を悪くしたのか、申し訳なさそうにしぼんでいった。
「・・・そこまで大事な用事なら、肩、貸しますよ。」
小さくなった背中が可哀そうに感じたのか、私は一歩前に出てた。
「そんな・・・お嬢ちゃんにはいくらわしとて重かろう。」
「大丈夫だじいさん。おれが貸すよ。」
いつの間にか横に立っていたダイヤさんが胸を張る。
「なんと親切な・・・ではお言葉に甘えさせてもらおうかの。君たちにもきっと神の祝福があろう。」
お爺さんは観念したように小さく笑みをこぼした。
この街の美しさには圧倒されていたが、教会はそのさらに上をいった。
あまりにも大きな建物は荘厳さを感じさせる。
入口付近の助祭らしき人に声をかけられた。
「教会へようこそ。どうかされましたか?」
「道で疲れ果ててたんじゃが、わしを送り届けてくれたんじゃ。ありがとう、ここまでで大丈夫じゃ。」
そう言ってお爺さんは中へ入っていった。
「ありがとうございました。この国では1日1回教会で祈りをささげることが義務になってます。無事に来られてよかったです。」
「ま、毎日ってことですか!?」
助祭さんの言葉にリサが驚く。
「ええ」
そう言って助祭さんは口元を隠して顔を近づけた。
「正直出来なくても罰はありません。ただ、信仰心とは積み上げを大事にする場合も多いので。」
小さい声で教えてくれた顔には笑みが浮かんでる。
「良かったら教会内を見ていかれませんか?旅の良い土産話になりますよ。」
「さっきからずっと気になってた。どうして私たちがこの国の人間じゃないとわかってたの?」
チャコさんの指摘に納得する。
この人は教会の説明をいきなりし出した。
私たちがよそ者だと確信している証拠だった。
「はっはっは。簡単なことですよ。住民の方は毎日来るんです。顔ぐらい、嫌でも覚えますよ。」
そう言って助祭さんはにこやかに迎え入れてくれた。
教会というものに初めて入ったが、外に負けず劣らずの荘厳さだった。
吹き抜けになっており、広々とした天井。
奥には端正な顔立ちの耳の長い男性らしき像があり、足元に人だかりが出来ている。
「あの像こそ神の化身です。」
言葉を失っていると、横に立った助祭さんが説明してくれる。
「あの像、教皇ボルタラの姿そのものだって聞くけど本当なの?」
「おや、よくご存じですね。」
チャコさんの質問に助祭さんは目を見開いて感心してる。
「その通りです。ボルタラ様はエルフ族という種であられます。悠久の時を生きておられるあの方の御業に感激し、人々が崇め祭ったのがこの国の始まりとされています。なので、神の像もボルタラ様を模しているのです。」
するとまた顔を近づけてきてささやく。
「そうはいってもほとんどの信徒はボルタラ様の姿を見たことがありません。かくいう私も。本当かどうか・・・あくまでもそういう教えということで。」
人差し指を立ててシーっとジェスチャーをして見せる様は、荘厳な空間で唯一親近感の沸いた瞬間だった。
像に近づいていくと足元の人だかりから声が上がる。
「「神に祈りを!神に力を!神に命を!」」
集まってる人々が祈ってるというよりも叫んでいるに近い。
あまりの迫力に思わず後ずさる。
よく見ると先ほど連れてきたお爺さんも混じっている。
出会ったころからは想像もできない気迫のこもった顔つきで目を血走らせながら叫んでる。
「神に祈りを!神に力を!神に命を!」
「あの・・・これは?」
思わず助祭さんの方をみた。
「・・・1日1回の祈り、ですよ。」
助祭さんは目を細めながら答えた。
「祈りって言っても・・・こんなの」
そこまで言ったとき、口に人差し指を当てられた。
私の目をじっと見つめながら、助祭さんは首を横に振る。
有無を言わせぬ雰囲気に、それ以降は何もしゃべれなかった。
最初の楽しかった空気とは打って変わって、どこかぎこちない温度感で宿まで帰ってきた。
夕飯を食べているとき、思わず昼間の話題になった。
「今日の教会でみた祈り・・・すごい迫力でしたね。」
「ちょっと異様だったよな。」
リサに同調するようにダイヤさんが答える。
「ちょっと!言葉を選びなさい。」
チャコさんが突っ込む。
「そうはいってもよ・・・」
ダイヤさんがまごついていると、料理を運んできた女将さんが話に入ってきた。
「なんだい?あんたたち教会に行ったのかい?いいところだったろ?」
「そ、そうですね。」
満面の笑みで尋ねられ、思わず言いよどんだ。
「教会はいつも私たちのことを考えてくださってるのさ。毎日礼拝に行ける、こんな幸せなことないね。祈る度に心が洗われて、すっきりするんだよ。体が軽くなって、心地いいのさ。ああ!神様に届いたって感じるのさ。そうだ!あんたたちも入信したらどうだい!きっと救われるよ。それがいい!どうだい!」
女将さんのあまりの勢いに全員言葉を失っていた。
目が座っていて、恐怖すら感じる。
「お、俺たち旅人だからさ。この街もそのうちでなきゃだから。」
「それもそうだね。まあ住みたくなったら、いつでも大歓迎だよ!」先ほどまでの剣幕が夢だったかのようににこやかな笑顔に戻っていた。




