リンネさんに村を案内してもらう
翌日。
アイさんとのんびりとした朝食を済ませてリビングでくつろいでいると。
家の表に設置されている呼び鈴がチリンチリンと鳴った。
アイさんがすぐに玄関へと向かい……。
リビングに戻って来た時は、隣にリンネさんを連れてきていた。
「おはよう!」
「リンネさん、おはようございます」
朝から元気なリンネさんに僕も笑顔で答える。
「どう? ぐっすり眠れた? 戦いの時の疲れが残ってたりしてない?」
「はい、もうすっかり元気です。それに、僕はアイさんやリンネさんのように身体をたくさん動かしたわけじゃありませんし」
「あたしたちは慣れてるから。でも良かった……あの時は、壁を作ったら倒れちゃうんだもの。無茶しちゃ駄目だよ?」
「き、気をつけます」
リンネさんは浮かべていた心配そうな顔を、また笑みに切り替えた。
「元気ならちょっと散歩にでも行く? 村を案内してあげる」
「はい、いいですよ。お願いします」
「お昼ご飯の時には戻ってきてねハル君。リンネも一緒に食べる?」
「あ、それ助かる。じゃああたしのぶんもお願いね、アイ」
僕たちの話がまとまったのを聞いたアイさんからの提案に、快活に答えるリンネさん。
僕は玄関に向かい始めた彼女の後に続き、家の外に出るのだった。
◇◆◇◆◇
約束通りに散歩がてら、リンネさんに村を案内してもらう僕。
時折すれ違う村の人に、リンネさんは笑顔で手を振っている。
「リンネさん、すごく頼りにされてるんですね」
「うん、まあね」
まんざらでもない笑みを浮かべるリンネさん。その顔がふと真面目なものになる。
「ところで、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんでしょう?」
「その、あたし相手に敬語はやめて欲しいなって思って……」
「え?」
「だって、ハルカとあたしってたぶん同じくらいの年だよね?」
僕がリンネさんに初めて会った時と、似たようなことを考えていたようだ。
「だから、ハルカもタメ口で……それとあたしのことはリンネって呼んで欲しいな……」
期待とわずかな不安をのぞかせて、リンネさんが見つめてくる。瞳をわずかに潤ませて。
な、なんだか少し前にアイさんと同じようなことがあったような……。ひょっとするとリンネさんは、アイさんの僕への呼び方がハル君に変わったことも意識しているのかもしれない。
もちろん、今回も断れるわけなかった。
「分かりまし……じゃなかった。それじゃあ……分かったよ、リンネ」
「ありがと、ハルカ」
僕の答えに、たちまちリンネが笑顔になる。
僕たちはふたたび村の中を歩き出した。リンネは鼻歌まじりだ。
「そういえば、アイさんとリンネってかなりの腕利きだよね」
ゲートからあふれてきたモンスターを次々と撃破していた彼女たち。
都市部で活動している戦士たちにもひけをとらないのではないかと思う。
「この小さな村には似合わない?」
「……うーん……ちょっとだけ」
そんな僕の本音に、彼女は小さく笑う。
「実は、あたしとアイはこの村出身じゃないの」
「あ、そうだったんだ?」
二人ともずいぶんと馴染んでいるように思えたから、意外な答えだった。
「昔、もっと大勢で組んで旅をしてたんだけど、仲間同士でちょっと意見が食い違うようになってきてね」
リンネは少し遠くを見るような目で語りだした。
「それであたしとアイはこの村にとどまって、食料になる動物を捕まえたり害獣を駆除したり、必要ならモンスターと戦う用心棒みたいなことをするようになったんだ」
「そうだったんだ」
「まあゲートなんて滅多に見かけない場所だったんだけど……最近はなんだかゲートの発生頻度が増えてる気がするんだよね。大きなゲートまで出来ちゃったし。でも、あたしとアイがこの村に残った意味もあったかな。素敵な村だしみんないい人だし、守れて良かった」
「うん。そうだね。僕も力になれて良かった」
「ああそうそう、実はもう一人この村に残った仲間がいたんだけどね。アイの空いてる部屋にはその子が住んでたんだ。ただ、ある時にふらっと出ていっちゃってそれっきり。今はどこで何をしてるのやら」
そんな話をしながら、散歩を終えた僕たちはアイさんのところに戻った。
約束通り、リンネを加えた三人で食卓を囲む。
昼食をとる間、タメ口で親密そうに会話する僕たちを見て、アイさんはなんだかくやしそうな顔をしていた。




