二人との再会。村人たちの前であいさつ
「ハルカ君が起きたこと、リンネとシャルミナに伝えてくるわね」
食後しばらくして、アイさんは外へと出て行った。
手持ち無沙汰になった僕は、椅子に座ったまま首を巡らせてアイさんと一緒に暮らすことになった家を眺める。
田舎の一軒家というには、ずいぶんと広くて綺麗だ。台所には水道だってある。
僕に割り当てられた部屋は一人で使っていいとのことだし、これ以上ないくらいの待遇だ。
同居人となるアイさんはとても美人だし、そりゃ嬉しいといえば嬉しいけど……。
そんなことを考えて悶々としていると、ふたたび玄関が開く音がした。
リンネさんとシャルミナさんを連れてアイさんが戻って来たようだ。
アイさんと二人は玄関で靴を脱いで、僕がいるリビングにやって来る。
「やっほー。昨日はありがとねハルカ」
「お元気そうですねハルカさん、なによりです」
「おはようございます。リンネさん、シャルミナさん」
リンネさんとシャルミナさんがそれぞれあいさつしてくれ、僕も笑顔で返す。
アイさんが来客用の椅子を出してきて、二人が新たに食卓に座った。
昨日、僕が意識を失ってからの話を軽く交わしたあとに。
「さっきハルカ君と話したんだけど、しばらくこの村に滞在してくれることになったわ」
さきほど決まった僕の今後について、笑顔でアイさんが切り出した。
「そうなの? 良かった……これでお別れかってがっかりしてたの。いてくれるならすごく嬉しいよ!」
「わたくしも嬉しいです。お礼もろくに出来てませんでしたし……歓迎しますよ」
二人も僕がこれからどうするのかを気にしてたんだろう。滞在すると聞いて、安堵の笑みを浮かべている。
「それで、ハルカ君は私の家に住むことになったから」
「ええ!?」
「は?」
しかし、続いた言葉に二人はたちまち驚きを顔に貼り付けた。
瞬く間に視線が僕に集まる。
そりゃそうだよね……と僕は二人と視線を合わすことも出来ず、顔を赤くして縮こまる。
「ど、どういうことよ!?」
リンネさんが食ってかかる。
そんな追及の言葉にも、アイさんは笑顔を崩さない。
「だってこの村には宿屋も空き家もないでしょう? 私の家はちょうど部屋もベッドも空いてるし、ハルカ君が住むのにぴったりじゃない?」
「た、たしかにそれはそうだけど……」
「うーん……しかたありませんね。ハルカさんにはご不便をかけるかもしれませんが……」
リンネさんはくやしそうに、シャルミナさんは困ったように、けれどどちらもアイさんの考えを認めるしかないようだった。
どうやら、僕がアイさんの家に住むのは決定事項となったようである。リンネさんは納得いかないのか、しばらくぶつぶつ言ってはいたが。
そんなこんなで僕の去就に関する話も終わり、四人でたわいのないおしゃべりをしていると。
シャルミナさんがふと真面目な顔になり、僕を見つめながら切り出した。
「ところで今日のこれからのことなのですが……村の皆にハルカさんを紹介したいと思います。もしお疲れでしたら、後日でも構いませんが……いかがですか?」
「もうすっかり元気なので、今日で大丈夫です。それに、僕も村の方たちにご挨拶したいと思っていましたし」
「そうですか。ありがとうございます。それでは、準備が整い次第お呼びしますね」
シャルミナさんが立ち上がる。遅れてリンネさんも彼女に続いた。
「それでは、またあとで」
「それじゃあねー」
◇◆◇◆◇
準備が整ったのか、しばらくして僕を呼びに来たシャルミナさん。
アイさんと共に、僕も靴を履いて家の外に出た。
こうして村の中を自分の足で歩くのは初めてだ。初めて村に入った時は、眠ったままアイさんたちに抱えられた状態だったわけだし。
いったいどんな村なんだろうとあたりを見回しながら歩く。
村にしては道なども整備されているし、ところどころに建っている家々も大半は造りのしっかりしたものだ。
アイさんの家には水道が通ってたし、他の家も大差ないのだろう。村とはいえ快適な生活は送れそうだ。
感心しながら歩いていた僕は、シャルミナさんに導かれて村の広場のような場所へとやってきた。
そこには、聞いていた通り村の住人が集まっていた。リンネさんが僕に向けて手を振る。
空いていたスペースで立ち止まるとシャルミナさんが群衆の方へと向き直る。その少し後ろに僕とアイさんが並んだ。
当然ながら、僕の顔にみんなの視線が集中した。
僕は気後れしながらも、誰に視線を合わせるということはなしにぐるりと見まわした。五十人は超えてるけど百人には満たないかなというところ。
そんななか、シャルミナさんが一歩前に出た。するとたちまちざわめきが収まっていく。どうやらシャルミナさんは、村の指導者的立場でもあるようだ。
シャルミナさんは村人たちを見まわしたあと、落ち着きのある声で語り始めた。
「みなさん、聞いてください。村の近くに出現したゲートの脅威は完全に消えてなくなりました」
村人たちから喜びの声があがる。ほとんどの顔に浮かんでいるのは安堵という感情に思えた。
ゲートのサイズが大きいという話も聞かされていたはずだ。村を捨てることになるかもしれないという不安が、たったいま完全に消えてなくなったのだろう。
「アイさんとリンネさんが奮闘してくれたのはもちろん言うまでもありません」
シャルミナさんの続く言葉に、アイさんとリンネさんが笑顔でみんなに手を振った。僕と違って堂々としたものだ。村人たちから喝采があがる。
喝采が落ち着くと、ふたたびシャルミナさんは口を開いた。
「そして二人に加え、私たちを守るために尽力してくれた者がいます。ここにいる一人の少年です」
シャルミナさんが僕の方へ振り向いた。
それを受けて、アイさんが僕の背を優しく押す。
一歩を踏み出してシャルミナさんの隣に並んだ僕は、集まる視線に緊張しながらも頭をさげた。
「ハ、ハルカといいます」
短く言い終えた僕を、シャルミナさんが引き継いだ。
「ハルカさんは魔法使いです。魔法使いが生み出すスクロールで多くのモンスターを倒してくれて、さらに驚くべき方法でゲートを排除してくれました。彼の助けがなければ、この村は危なかったかもしれません」
――おお……!
感激としか言いようのない歓声があちらこちらで上がる。
「ハルカさんはしばらくこの村に滞在してくれることになりました。みなさん、ハルカさんが慣れない生活に困っていたら、手を貸してあげてくださいね」
「皆さん、よろしくお願いします!」
大きな拍手と声援に迎えられ、僕は村人たちの前でのあいさつを終えたのであった。




