完成した家
「ついに完成しちゃったわね、ハル君のお家」
アイさんは名残惜し気に新築の家を見つめている。
この新しい家が完成するということは、僕がアイさんの家を出て一人暮らしをするということだ。
僕もアイさんのように、多少は寂しい気持ちになったのは否めない。といっても、新しい家が建った場所はアイさんの家のすぐそばなんだけど……。
結局、あの日のアイさんの抗議は受け入れられることなく……僕は新しい家を作ってもらうことになったのだ。
「まさか、こんなハイスピードで完成するとは思ってもみませんでした」
ともかく悲しげなアイさんを慰めるきっかけになるかと、そんな軽口を言ってみる。
さすがにもう運命を受け入れているのか、アイさんは困ったように眉を下げながら笑った。
「みんなハル君に感謝してるのよ。少しでもハル君のためになるようなことをしたかったの。あの水質浄化装置の契約料が浮いたからそれをハル君の新しい家のために使いたいって、シャルミナが村のみんなの前で提案したら、全員が賛成したわ」
「そ、そうだったんですか……」
あの日のあと、僕のいないところでそんなことが行われていたのか。
「それから急ピッチで建設作業が進んだのは、ハル君も知っての通りよ」
アイさんの言葉を聞いて、僕は心の中があたたかくなるのを感じる。
人のためにしたことが、巡り巡ってこうして僕のところにも返ってきて。
やっぱり、僕がしたことは間違ってなかったんだなと思う。
もしドイゾアック商会でスクロールを大量生産するような生活を送っていたら、きっとこんな気持ちになることなんて永遠になかった。
しんみりしている僕のほうへアイさんが振り向いた。いつものように、長身のアイさんが僕を見下ろす形になる。
「ねえ、ハル君」
「はい?」
「きっと、この家には君に好意を持つ女が私を含めて頻繁に訪れると思うわ」
「……!?」
アイさんの発言に驚いていると、口元に笑みを浮かべながらそっと僕の頬に両手が添えられた。
「でも、私がハル君の初めての人だってこと、忘れちゃ駄目だからね?」
「は、はい……」
瞳を覗き込むアイさんに、僕は真っ赤になってそう答えるしかない。
「うん、よろしい」
アイさんは僕の頬から手を放した。
やがて僕の隣に立って正面を向くと、今度は僕の右手をそっと握った。
僕たち二人の視線の先には、ついさきほど完成したばかりの新しい家がある。
「それじゃあ入ろっか? ハル君の新しいお家に」
「はい!」
僕の元気いっぱいの声に、アイさんもたちまち笑顔になる。
「ふふ、せめて一番乗りの権利くらい私がもらわなきゃね!」
僕とアイさんは手をつないで、それぞれ新しい生活の一歩を踏み出したのだった。




