設備の維持にかかるコスト
シャルミナさんがいつも屋外授業をしている場所で。
今日はシャルミナさんを中心に、アイさんやリンネをはじめとした多くの人が集まっていた。
村の人たちはシャルミナさんに小さな袋を渡すと、用はそれだけなのか帰っていく。
一段落して人の数も減ったところで、僕はシャルミナさんたちのそばへ近づいた。
「何をされているんです?」
「ああ、ハルカさん」
尋ねた僕に、シャルミナさんが少し困った顔で答える。
「集金をしているのです。村の根幹に関わる設備を維持するために必要なことで……皆も苦しいところ悪いとは思っているのですが……」
「なんの設備なんですか?」
「水を浄化する装置です。このあたりは水が豊富ですが、水質はあまり良くないと言われているんです」
初めて聞く情報に、僕は口を挟まず耳を傾けた。
「その浄化装置は以前の村長がよそから導入したものなんですけどね、その装置から各家庭に水道が通っているわけです」
「なるほど」
そのおかげで僕はアイさんの家でお風呂に入ることも出来ているというわけか。
「そのこと自体はありがたいんですが……問題は維持費が多量にかかるということなのです……ドイゾアック商会と契約しているのですが」
……!? ドイゾアック商会!?
憂鬱そうに少しうつむいていたシャルミナさんは、僕の表情の変化には気づかなかったようだ。
「水質を良くする魔法の効果が時間が経つにつれて弱くなるということで、定期的に商会から人がやってきてスクロールで魔法をかけていくのです」
こう言ってはなんだけど、ドイゾアック商会が関わっているとなると途端にうさんくさく感じてしまう。
「そのスクロール代……まあはっきり言えば、ドイゾアック商会との契約料のようなものですね。その代金を村人から集めているわけです」
「そ、そうだったんですか……」
「その契約料が村全体に経費として重くのしかかっているのですが、水は生活に直結しますから。さすがに契約を打ち切るわけにもいかず……」
珍しく、シャルミナさんも頭を抱えているようだ。表情を見る限り、アイさんもリンネも不服はあるようだけど、シャルミナさんの言う通りやめるわけにはいかないのだろう。
でも、水質浄化の魔法が込められたスクロールとなると……おそらくあれのことだ。
「その……もしよければ、その魔法のスクロールを僕が自作しましょうか?」
「え?」
シャルミナさんだけじゃなく、アイさんもリンネも僕のほうを穴が開くくらいに見つめてきた。
「ドイゾアック商会が使っているのは、ウォーターピュリフィケーションの魔法が込められたスクロールです。僕が同じ魔法のスクロールを自作して、効果が十年くらい続くようにします」
「じゅ、十年ですか!? ライトの魔法みたいに!? たしかに設備の代金そのものはもう払い終えて村が買ったことになっていますから、問題はスクロールの代金だけですが」
「ライトの魔法よりは多少複雑ですが、効果を長く発揮するよう自作することは可能です。お時間をいただければ」
「そ、それはすごくありがたいです! この契約料にずっと悩まされていましたから! これを払わずに済むならかなりの余裕が出来ます! 浮いたお金でハルカさんのお家だって建てられますよ!」
「ええ!?」
シャルミナさんの喜びの声に反して、アイさんが悲痛な声をあげた。
「ちょ、ちょっと! その必要はないわよ!」
「あら、なぜですか? いつまでもハルカさんに居候のような扱いをするのは失礼でしょう?」
食って掛かるアイさんに、小首を傾げながらシャルミナさんが疑問を呈する。
「それに、空いた部屋の主もいつ帰って来るか分からないし」
「リンネまで!」
予想外のところから飛んできた攻撃に、アイさんはモンスターもかくやというような形相で睨みつける。
リンネはそっぽを向いて口笛を吹かんばかり。
アイさんはすがるように僕にも視線を向けてくるが、この場合僕はどういう立場を取ればいいんだろう?
ふたたびシャルミナさんの方に向き直ったアイさんは、もはや物の道理とは無関係のことを口にした。
「だ、駄目よ! ハル君はずっと私の家に住むんだから! それが一番良いんだから!」




