レベル2のゲートがあった場所
ある日の午後。
僕は以前クリエイトウォールでふさいだゲートがあった場所にやって来た。
もちろん、もうゲートも僕が生み出した魔法の壁もない。
ここで激しい戦いが行われたことが信じられないくらい、草花が点在するだけののどかな景色が広がっている。
「ハル君、ここにいたのね」
「アイさん」
振り向いた僕に、アイさんは小さく首を傾げた。
「どうかした?」
「いえ、なんだか懐かしくなって。不思議ですね。まだそんなに経ったわけでもないのに」
「そうね。私も、ずっと前からハル君と一緒にいる気がするわ」
アイさんが、かつてレベル2のゲートがあった場所に足を踏み入れた。そしてくるりと反転する。
「ここに、こーんなに大きな壁を作ったのよね」
アイさんの両手を広げる大げさなボディランゲージが、僕を笑いに誘う。僕の表情を見てアイさんも笑った。やがてポーズを解き、僕の方へふたたび戻って来る。
「まさか、あんな方法でゲートを破壊できるとは思ってなかったから、びっくりしちゃった」
「僕もあんまり自信はなかったんですけど……アイさんたちがいけるんじゃないかって言ってくれたおかげです!」
「そう言ってくれると嬉しいわね。でも、本当にハル君には感謝してるのよ。私はもちろん、村の誰もがね」
「はい」
ゲートが生まれる場所なんて、人間には予測もできない。突然襲ってくる災厄みたいなもの。
もちろん聖杭会の女性たちはいるけど、出現したゲートにその場しのぎで対処するしかないのが現状だ。
しかもここに出てきたのは、普段は見かけないレベル2のゲート。シャルミナさん一人ではどうにもならなかった。
レベル2のゲートだったからあの方法でなんとかなったが、もっと高レベルのゲートだったら果たして通用したかどうか。
ゲートのサイズが大きくなると、ふさぐための壁も大きく強くしないといけないが、さすがに魔力にもカスタマイズにも限界がある。
せいぜいレベル2までのゲートにしか使えない方法だろう。
「またあんなことがあったらと思うと、あと一人くらい戦力が欲しいわね。せめてフィーがいれば良かったんだけど」
「フィー?」
アイさんも僕と同じくゲートの対処方法について考えていたようだ。
彼女のつぶやきに出てきた聞きなれない名前に首を傾げると、まだ言ってなかったっけという風な顔で続けた。
「ああ、私の同居人だった子よ。フィーはあだ名で、名前はパスフィー。ふわふわとした雲みたいな子でね。ある日、ふらっと村を出ていってそれっきりよ」
「そういえば、リンネからちょっとだけ聞いたことがあります。強い人なんですか?」
「そうね。私やリンネより強いかも。いてくれるとかなり心強いのは間違いないわ」
かなりの手練れであるアイさんやリンネよりも強いのか……いったいどんな人なんだろう。
「あとはシャルミナみたいにゲートを破壊できる人が、あと一人常駐してくれたら嬉しいんだけど……まあ、この小さな村にそれは高望みね」
本気で望み薄なのか、アイさんの続く言葉はやや諦めを含んだものだった。聖杭会は色々な場所で必要とされている。確かに、小さな村に二人も配置されることはまずありえない。
アイさんは僕に顔を向ける。
「いずれにせよ、将来の話ね。今は、ハル君のおかげで村の平穏が守られた。それだけでじゅうぶんよ」
「ありがとうございます。アイさん」
僕も彼女のほうに向き直り、照れくさいと思いながらもそう答えた。
「さ、戻りましょ」
促すアイさんに僕もうなずき……。
村に戻る前、最後にもう一度だけゲートがあった場所を振り返った。
そこには、やはりふだん通りの自然あふれる風景があるだけだった。




