新しい武器
「アイ、行こっか?」
「ええ」
今日はついに、イグニッドさんがワイバーン素材を使った新しい武器を完成させる日。
もちろん僕もついて行く。
工房にやってきた僕たちを、イグニッドさんが満足そうな笑顔で出迎えた。
「ようこそ! ついにお披露目の時が来たっすね!」
さっそくお披露目の場へと案内される僕たち。
左右の台に一つずつ立てかけられた得物には、それぞれ白い布がかけられている。
「ああ、もう待ちきれない! 早く見せてイグニッド!」
「ふふ、落ち着きなさいリンネ」
「何よ、アイだってそわそわしてるくせに」
「そんなに期待してもらえて鍛冶屋冥利に尽きるっす! では、今こそお見せするっす!」
イグニッドさんは、もったいぶるようにわずかな間を溜めたあと。
二つの白い布を、勢いよく取り除けた。
左の台にあったのは、片手でも両手でも使える長さの刀身と柄とを併せ持つ刀。刀身はやや反りが入っている。
刀の背となる棟の部分から鎬の部分を、ワイバーンの鱗を加工した硬質な素材が覆っている。
最上質の鉱石で鍛えられた刃と地の境には美しい刃文が描かれており、研ぎ澄まされた刃先は触れるものすべてを斬り裂いてしまいそうだ。
鍔にはワイバーンの爪や牙があしらわれていて、スタイリッシュさの中にわずかな野性味を感じさせる。
柄はワイバーンの皮膜が巻かれており、握りやすそうで視覚的にも美しい。
刀を納める鞘も隣に並んでいる。ワイバーンの素材をふんだんに使った、見事としか言いようのない拵だった。
右の台にあったのは、大身槍と呼ばれる長大な穂を備えた槍。
その鋭利な穂先による一撃は、堅固な装甲に守られたモンスターをその装甲ごと貫けるだろう。
ワイバーンの皮膜と鱗で補強されている柄の部分はとても扱いやすそうで、いざとなればその堅牢さで敵の斬撃を受け止めることもできそうだ。爪や牙を加工したパーツが柄のところどころについており、流れてくる血を防ぐ飾りにもなっている。
石突の部分は丸みを帯びており、穂を振るうまでもない相手への牽制に役立ちそうだ。
披露された新しい武器の姿に、アイさんもリンネも瞳をキラキラさせている。
「凄い……凄いわ、イグニッド! 美しいだけじゃない、まさに向かうところ敵なしって感じの刀よ! 私の理想通りだわ!」
「ほんと! あたしのイメージをそのまんま形にしてくれてる! ありがとうイグニッド!」
「そう言ってもらえるとありがたいっす! 今回はあーしも苦戦の連続でした! 満足していただけたようで、ホッとしたっす!」
素人の僕から見ても凄味を感じる刀と槍だった。
しばらく感動して一言も発することができなかったけど、イグニッドさんをねぎらう言葉が自然と思い浮かび、口を開く。
「イグニッドさん、お疲れさまでした。素人の僕から見てもとても素晴らしい刀と槍だと思います。まさにワイバーンの恐ろしさと力強さを体現しているような、そんな武器です!」
「いやあ、みんな揃ってそこまで褒め殺しされると照れちゃうっすね」
言葉どおり、頭をかいて照れているイグニッドさん。
アイさんとリンネは台からそれぞれの得物を手に取り、満足そうに見つめた。
「ありがとうイグニッド! この刀に負けない活躍をして見せるわね!」
「あたしも! 槍に釣り合ってないなんて言われないようにしなくちゃ!」
「いやあ、お二人はもうすでにじゅうぶん強いし、村のために頑張ってるっすよ!」
ひとしきり三人笑顔で会話したあと、イグニッドさんは僕のほうを振り向いた。
「ああ、そうだ。ハルカ、これを受け取って欲しいっす」
「これは?」
差し出した僕の手のひらに、綺麗な小物がのせられる。新しい刀と槍にそっくりの色合いだ。
「余ったワイバーンの素材を使って作ったものっす。まあアクセサリーみたいなものっすが……村を守ってくれたお礼っす!」
「……!! ……す、すごく嬉しいです! ありがとうございます、イグニッドさん!」
まさか僕にも作ってくれてたなんて。
サプライズに喜ぶ僕の笑顔を見て、イグニッドさんも快活に笑ったのだった。
イグニッドさんに別れを告げて鍛冶屋を辞したあと、僕とアイさんとリンネの三人は村の外にやってきた。新しい武器に慣れておくためだ。
僕が少し離れて見守る中、アイさんは背負う鞘から刀を引き抜く。
両手で構えた刀を、アイさんは踏み込みつつ上段から斬り降ろす。続けて逆袈裟の斬り上げ。
しばらく空気を斬り裂く音が周囲を支配した。
リンネも長大な穂先を持つ槍を両手で構え、前へ出ると共に虚空を突く。
以前の槍よりも重たそうなのに、その姿勢には揺らぎがない。
やがて演武を終えた二人を、僕はしばらく無言のまま見つめた。
「ハルカ、じっと見つめられると照れくさいってば」
「ご、ごめん。すごく感動しちゃって」
「そ、そんなに見とれてくれたの?」
アイさんが照れくさそうに頬を赤らめる。
「はい! アイさんもリンネも、とても美しく凛々しいです!」
「あ、ありがとう」
二人は赤面しつつも、お礼の言葉を僕に述べたのだった。




