危機を知らせる花火
遠くで花火が上がった。
「……!」
もちろん、お祭りが行われているわけじゃない。
あれは、何か危険なことが発生したと知らせるものだ。
今、村の外にパトロールに出ているのはリンネ。
ゲートを見つけたか、もしくはワイバーンのような強敵が現れたのか。
アイさんが僕を見つけて駆け寄って来た。
「ハル君、行きましょう!」
「はい!」
僕とアイさんは二人で花火が上がった場所へと駆けつける。
村から少し離れた場所で、リンネが手を振って僕たちを迎えた。
「こっちこっち。……ほら、あそこ。ゲートが出来かかってる。幸いレベル1だけど」
リンネの言葉の通り、地面に少しずつ輪郭を現わしているゲートがある。
円形の紋様からは、早くも赤黒い光が立ち昇ろうとしていた。
レベル1のゲートなら、問題なく対処可能のはずだ。
「シャルミナへの伝言もお願いしておいたわ。すぐに来てくれるでしょう」
アイさんとリンネはうなずきあい、やがて僕を見た。
「お守り、使うわね」
その言葉と共に、アイさんは懐から一本のスクロールを取り出した。リンネも同じものを用意する。
「顕現して。エンチャントウェポン!」
「顕現! エンチャントウェポン!」
彼女たちはスクロールから魔法を解き放つコマンドワードを口にし、同時に封蝋を親指でパキッと割った。
二人の得物がたちまち光を帯びる。
もはや限界を迎えつつある剣と槍を守ろうとするような光が。
一瞬僕に向けて笑顔を浮かべたアイさんとリンネは、すぐに表情をひきしめ、体の向きを変えるとゲートの前に並び立つ。
ややあって、ゲートからせりあがるように、モンスターたちが姿を見せ始めた。
「はっ!」
「やあっ!」
たちまち、気合の声と剣戟の音とが響き渡る。
僕のエンチャントウェポンを受けて強化された剣と槍が、あっさりとゴブリンやホブゴブリンを一閃していく。
「ハル君、お守りの効果が想像以上よ!」
「ほんと! これすごいよハルカ!」
役に立てたようでうれしい。
彼女たちは軽快な動きでモンスターたちをどんどん始末していく。モンスターの消滅を示す黒い瘴気がぞくぞくと生まれて消える。
とはいえ、さすがに数が多い。
「取り逃したモンスターはお願いね、ハル君!」
アイさんの言葉に僕はうなずいた。
手に持つ巻物を、彼女たちから距離をとった大柄のホブゴブリンへとかざす。
「顕現せよ! マジックアロー!」
たちまち放たれた白い光の矢がそのホブゴブリンを刺し貫く。胸に大穴の空いた魔物はそのまま倒れ、消滅した。
かつてエマちゃんがワイバーンに襲われそうになった時、手持ちの攻撃魔法が広範囲のものばかりで使うことが出来ず、危なかったことがある。
それを反省し、僕は小回りの利く魔法のスクロールをある程度ストックしておくことにしていた。
もちろん、威力そのものは市販の物よりかなり強化してある。
僕たち三人の活躍で、ゲートから出てくるモンスターは一体も討ち漏らすことはない。
やがてモンスターの出現が収まり、ゲートの光も弱まって来た。
僕たちが一息ついたちょうどその時、シャルミナさんがやってきた。もちろんいつもの格好にバッグを提げ、ハンマーを背負っている。
「みなさん、ありがとうございます」
「敵は殲滅したわ。ゲートも今は沈黙してるけど、いつまた動くか分からないから……」
円形の紋様から天に向かって立ち昇る赤黒い光の帯は弱くなっているものの、まだ消えてはいない。
「承知しました。これからはわたくしの領分です。お任せください」
シャルミナさんは僕たちにそう言うと、ゲートを正面に捉えて歩き出した。
ゲートの手前で立ち止まり、両手を組んで祈りをささげたあと、いよいよ円形の紋様の内側へと足を踏み入れる。
赤と黒の光の中に立つ、白と黒のローブ姿。
彼女はバッグから、一本の杭を取り出した。
ゲートの中央にその杭を突き立て。
そして背負っているハンマーを両手で構えると、ゆっくりと振りかぶる。
「忌まわしき門を、ここに滅せん……! はあっ!!」
いつもの穏やかな表情から予想できない気迫に満ちた声。
両手で振り下ろされたハンマーは、狙い過たず杭の頭を打つ。
杭に深く穿たれたゲートの中央から純白の光が放射状に走り……。
何かが割れるような音とともに、ゲートの紋様は砕け散った。あとに残るのはハンマーを打ち付けたシャルミナさんと、役目を終えた杭のみだ。
「ふう……これで終了です」
振り返ったシャルミナさんが僕たちに微笑む。
「か、かっこいいです、シャルミナさん!」
僕はいつの間にか拍手をしていた。シャルミナさんが恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「ありがとうございます。ゲートが直に破壊されるのを見たのは初めてですか?」
「はい! ゲートからあふれるモンスターと戦ったことはこれまでに何度かあるのですが、こうして実際に壊すのを見たのは初めてです!」
「あら、それは光栄です。最初に出会った時は見せ場をハルカさんにとられてしまいましたからね。今回はお役にたてて良かったです」
一仕事終えたシャルミナさんが杭を抜き取ると、僕たちのところに戻って来た。
完全勝利に皆で笑いあう。
しばらくしてふと、アイさんが手に持つ愛用のバスタードソードをさみしそうに見つめた。
「私たちの武器、今日が最後になりそうね」
「うん……今までお世話になったなあ……ありがとう」
リンネもアイさんの言葉を受けて、自分の槍をじっと見る。
「そして、ハル君もありがとうね。エンチャントウェポンのおかげで、最後まで役目を全うすることが出来たわ」
「どういたしまして」
僕を正面から見るアイさんを、僕も正面から見つめ返した。
「スクロールはまた作っておきます。新しい武器になってもモンスターとの戦いはつらいものなんですから、少しでも力になるために……」
「ハル君……」
「もう、ハルカってば格好つけすぎ!」
「そ、そうですか?」
巻き起こる笑い声。
僕たちはお互いに健闘をたたえ合いながら、村に凱旋したのだった。




