ドイゾアック商会定例会議
ドイゾアック商会本部の定例会議。
最低でも主任クラスの者たちが集まったなか、おずおずといった感じで主任の一人が挙手をした。
「とある小さな村で、水質浄化の契約が打ち切られることになりまして……」
「なにぃ?」
契約が打ち切られたと聞いて、たちまち彼らを束ねる幹部の男は不機嫌になる。埋め合わせるために新たな契約を取るのがどれだけ大変か、そのことを知っていれば不機嫌にもなろう。
にらまれた主任はあわてて弁明のような解説を言い添えた。
「その村のそばでレベル2のゲートが生まれたという噂を聞きました。しかもゲートの発生頻度も増えて、さらにはワイバーンまでが村を襲ったとか……。おそらく、住民たちは不安を覚えて村を捨てるのではないかと……」
地図上で村の場所を指し示しながら必死で男に訴えかける。
補足説明を聞いて、男の不愉快な表情がいくぶん和らいだ。そんな事情があるなら、契約が打ち切られる結果になったのも理解できる。
「なるほどな。それは不運だったな。その村も」
「ま、まったくです……」
ほっと胸を撫で下ろす主任。しかし男の言葉はまだ終わっていなかった。
「だが、一番不運だったのはお前だ。今日でドイゾアック商会をクビになるのだからな」
「な、なぜです!?」
「馬鹿が。そんな事情があると前もって知っておけば、村のやつらの不安を煽って攻撃魔法のスクロールを大量に売りさばくことも可能だったはずだ。お前はそんな儲けの機会をみすみす逃した」
「も、申し訳ございません!」
「俺は無能は嫌いだ。さっさと出ていけ!」
平伏し続ける主任を、室内にいた強面の者たちが無理矢理立たせて連れて行った。
無能な部下が追い出された後、男は思い出したかのようにぽつりとつぶやく。
「ああ、そういえば。あの村のあたりは水質に問題ない地域だったな。周囲に噂をばらまいて水質に対する不安を植え付けるのにずいぶん苦労したんだが……すべて無駄になっちまったか」
舌打ちしつつ、苛立たし気に髪をガジガジとかきむしる。
ややあって、多少は溜飲が下がったのかその表情にいくぶん落ち着きが戻った。
「まあ、小さな村ひとつぶんの利益が減ったくらいどうということもない。すぐに他の街や村に営業して取り返せ。それくらいのビジョンはあるんだろう?」
「もちろんです。あの村など比較にならない営業先候補を、いくつも見つけてあります」
先ほど首になった元主任の代わりにすぐ後釜となった新主任が、内心冷や汗をかきながら答えた。
「期待している。しっかりやれよ」
「はっ……」
本当に期待しているのか分からない冷徹な表情で、男は周囲を睥睨した。その瞳は冷たさとは裏腹に、燃えるような野心でぎらぎらとしている。
「俺たちはドイゾアック商会だ。そのことは決して忘れるんじゃないぞ。この国をやがて支配する存在なんだからな」
高笑いする幹部の男。ドイゾアック商会の面々もそれにならい、追従の笑みで男のあとに続いた。
男は知らなかった。その村を訪れた一人の少年が、商会が占める盤面をひっくり返す力を持っていることを。
ましてやそれが、自分が期待外れだと罵って追放した、あの少年だということなど……。




