シャルミナさんの屋外授業
ある日。
リビングでアイさんと一緒にくつろいでいると、呼び鈴がチリンチリンと鳴らされた。
それと同時に玄関のほうから元気な声が聞こえてくる。
「お兄ちゃーん、いるー?」
どうやらエマちゃんが来たみたいだ。
「僕が開けてきます」
「うん、お願い」
玄関に向かい、扉を開けるともちろんそこにはエマちゃんの姿が。今日も元気な笑顔で僕のことを見上げている。
「こんにちは! お兄ちゃん!」
「こんにちは。どうしたの? エマちゃん」
「今日はシャルミナさんのところでお勉強するから、良かったらお兄ちゃんもどうかなって」
「お勉強?」
「うん、シャルミナさんがいろいろ教えてくれるの。他の子たちも集まるんだよ」
「へえ」
その勉強会に一緒に行きたいから、僕のところに寄ってくれたというわけか。
誘ってくれたことが嬉しいし、僕もちょっと興味が出てきた。
アイさんにちょっと出てくると伝えたあと、エマちゃんと一緒にシャルミナさんのところに向かうのであった。
◇◆◇◆◇
屋外には木製の椅子が並べられ。
紙が貼られたボードを前に、シャルミナさんが教鞭をとっている。
「こんにちはー!」
「こんにちは」
「あら、エマさん。こんにちは。ハルカさんもようこそ」
シャルミナさんが笑顔を向けた。子供たちも一斉に僕たちの方へ注目する。
「ほら、皆さん、ごあいさつですよ」
「こんにちはー!!」
「あはは、こんにちは」
シャルミナさんに促され、村の子供たちが元気に挨拶してくれる。もちろん僕もにこやかに挨拶を返した。
エマちゃんは彼らのもとに小走りに近づき、雑談を始めた。
僕はその間にシャルミナさんのそばに歩み寄る。
「シャルミナさん、これを……」
「おお……ありがとうございます……」
ひそひそ声とともに僕がバッグからこっそり取り出したのは。
以前彼女との間で話題にのぼった、酩酊状態や二日酔いを治すためのスクロールである。
まるで賄賂を渡す商人になったような気分で、僕はそれをシャルミナさんに手渡した。彼女は巻物をすばやく自分のバッグにしまう。
秘密のやりとりを終えると、僕たちは何事もなかったかのようににこやかな顔になる。
「学校の講義のようなことをされていたんですね」
「ええ、そうです。この村には他に教育機関もありませんから。わたくしの空いてる時間だけでも、この子たちに勉強を教えたいなと思って……」
シャルミナさんがとても優しいまなざしで子供たちを見ている。
「テティスさんにも時々手伝ってもらってるんですよ。あの子は本をたくさん持ってますし、知識量も豊富ですから」
「へえ、あのテティスが……」
シャルミナさんと子供たちを見て、僕も手伝いたいという気持ちが浮かんできた。
「せっかくですし、僕に出来ることはありますか?」
「ふふ、ありがとうございます。ではわたくしといっしょに教師を務めていただけますか?」
「お安い御用です」
シャルミナさんと並んでボードの前に立った僕。
その僕を見ながらひとりが手を挙げた。
「ハルカせんせー、魔法のことを教えてください!」
「え、魔法のこと?」
挙手した子の発案を聞いて、全員が瞳をキラキラさせて僕を見ている。
ここまで期待されてるなら、やらないわけにもいかない。
念のためシャルミナさんをうかがうと、笑顔のまま小さくうなずいた。
お墨付きをもらえた僕は、子供たちへと向き直った。
「それじゃあ、魔法を生み出すスクロールのことを教えるよ」
「わーい!」
子供たちの喜びの声があたりに響く。
僕もそれにつられて笑顔になり、本当に先生になったような気持ちでスクロールについての勉強会を始めた。もちろん小さい子に分かるような簡単なことだけを。
臨時の教師としてどれほどの役に立てたのか。
シャルミナさんも子供たちも喜んでくれたから、まあ大丈夫、かな?
「せっかくだし、最後に魔法を見せてあげるね」
講義も終わりに近づいた頃、僕は持ってきたバッグから一本のスクロールを取り出した。これには攻撃用でも防御用でもない、ちょっと特殊な魔法が込められている。
「なになに?」
「どんな魔法?」
「今見せてあげる。空に注目してくれるかな?」
子供たちは素直に空を見上げた。
僕はやや芝居がかった手振りでスクロールを天にかざし、いつものように魔法を発現させる。
「顕現せよ。ファイアーワークス」
たちまちいくつもの光の筋が立ち昇ると……。
ぱぱん! ぱぱぱん! ぱぱぱぱぱぱぱ!
軽快な音と共に、様々な光の花が空を乱舞した。
ファイアーワークスはその名の通り、花火のような音と輝きを空に打ち上げる魔法。
僕が自作したこれは、市販のものより演出を派手にしたものである。
子供たちもシャルミナさんも、その光景を見上げ……。
「わあー、すごーい! ……でも……」
「……これってあれだよね……」
「ハルカさん……それは……」
……喜んでいるかと思いきや、なぜかみんな困惑した顔で僕に視線を向けた。
――え? 僕、何かまずいことをやらかした?
そこに近づいて来る、ダダダダダッという二つの足音。
「どうしたの!?」
「何かあった!?」
「それが……」
息せき切って駆け付けたアイさんとリンネに、シャルミナさんが困り顔で解説する。そのおかげで判明したことだが……。
どうやら、アイさんとリンネは市販のファイアーワークスのスクロールを、トラブルや危機を相方に知らせる狼煙のように使っているらしい。
それで、村の中で何か問題が発生したのかと慌てて飛んできたのだそうだ。
ようやく事態を理解した僕は二人に平謝りし、なんとか許してもらった。
今度から気を付けよう……。




