リンネと村の外で
次の日。
「ハルくーん」
アイさんが僕を呼ぶ声がする。
「リンネが来てるわよ。ハル君に用があるって」
「分かりました。すぐ行きます」
テティスから借りて読んでいた本を閉じて棚に戻すと、自室を出て玄関の方へと向かう。
玄関の土間には、いつもの動きやすそうな鎧を身に着けたリンネが立っていた。
「やっほー、ハルカ。この前のお守り、大事に持ってるよ。ありがとね」
「うん。どういたしまして」
お守りというのはもちろん、先日作ったエンチャントウェポンのスクロールのこと。
アイさんのものと一緒に作っていたので、アイさんに渡した後リンネにも渡しに行くつもりだったのだが……。
その、アイさんとあんなことになったので、その日は渡しに行くことが出来ず……。
結局、スクロールはアイさん経由でリンネに届いたのである。
「それで今日なんだけど。あたしと一緒に、村の外に出て周辺のパトロールに行かない?」
「村周辺の?」
「うん。言ってなかったっけ? アイとあたしは、定期的に村の周りを巡回してるの。この前のゲートに早めに対処できたのもそのおかげってわけ」
「それはお手柄だったね」
「ありがと。それで、どう?」
「いいよ。僕も一緒に行く」
「良かった。ついでに、村の周りの名所も案内してあげる。綺麗な景色がいっぱいあるんだ」
アイさんに出かけてくると一言断ったあと、僕はリンネと一緒に玄関の扉をくぐった。
「最近はあのゲートが出てきたほうを見に行くことが多かったから、今日は別のところに行くね」
「うん。わかった。村の外についてはほとんど知らないから、案内よろしくお願いします」
「ふふ、了解」
小さな橋を渡って、リンネの言葉の通り、村から離れてずんずん進む僕たち。
「そういえば、こっちは僕がアイさんに連れられてやってきたほうだね」
「アイと会った時、すごいファイアーボールを使ったって聞いたよ。一撃でゴブリンの大群を倒したって。それもハルカの自作スクロールなんだよね?」
「うん」
「それだけ凄い効果があるなら使う意味もあるよね。あたしもアイも攻撃用のスクロールを持ち歩いてるけど、どちらかというと牽制用だからなあ。武器で戦うほうが早いことが多くて」
「アイさんとリンネ用に、何か攻撃魔法のスクロールも作ろうか?」
「あ、それは助かる。でも手が空いたらでいいよ。あといつもの癖で気軽に撃っちゃうかもしれないから、あまり範囲が大きいのは勘弁してほしいかも」
「あはは。分かったよ。そのへんも考慮して作ってみるね」
軽く笑う僕を前に、リンネは少々考え込むような仕草をして。
「でも、なんでそんなに市販のものと威力が全然違うの?」
「市販のものは……なんというか中身がスカスカなんだ」
「ス、スカスカ?」
「うん。生産量を高めるために、可能な限り簡素にして必要なことが書かれてないと言えばいいのかな。質より量を大事にしてるんだよ」
「なるほど、だから街のお店とかにあんな大量に並んでるんだね」
そんな会話をしながらも僕たち二人は歩を進めていた。
村を出てあまり整備されているとはいえない場所を歩いていると、すぐに息があがってしまう。
リンネは平気みたいだ。ちょっと自分が情けなくなる。
「……そろそろ休憩しようか」
「うん……ありがとうリンネ」
気を使ってくれたのだろう彼女にお礼を述べる。
リンネはこのあたりのことを熟知しているだけあって、二人でゆっくりと休めそうなスペースに連れていってくれた。
彼女に促されて僕は腰を下ろす。もちろんリンネも続いた。
あたりは草木が生い茂り、どこからか鳥の鳴き声も聞こえてくる。
「なんだかのどかだ……」
「ふふ、そうでしょ。でも、いざ害獣やらモンスターが出たら大変なんだからね?」
「うん……」
魔法使いの宿命か、肉体労働はからきしである。
やっぱり、リンネやアイさんみたいにパトロール……とはいきそうにない。
そんなことを考えながらゆっくり体を休めていると。
膝を抱えて隣に座るリンネはこちらを覗き込んでいたが……しばらく僕の横顔を見つめたあと口を開いた。
「そういえば……アイと、したんだ?」
「……!?」
リンネの言葉に、僕は弾かれたように彼女を見る。
彼女はわざとらしいくらいに頬をふくらませた。
「やっぱりね……多分そうじゃないかなって思った」
「あ、え、そ、その、あの」
「ちえ……ちょっとのんびりしすぎちゃったかな」
情けなくもうろたえる僕の様子に口をとがらせたものの、彼女はすぐに表情を一変させ、僕の目をうるみ始めた瞳で覗き込んだ。
「あたしも、ハルカとしたいな……」
そう言いながらリンネは体勢を変え、片方の手で僕の体を抑えると、もう片方の手では器用に自分の鎧のパーツを外しはじめた。
やがて胸の装甲が外れると、もはや守るのは下着のみ。アイさんにひけをとらない大きな双丘が途端に自己主張した。
僕はもうそこから目をそらせなくなる。
「リ、リンネ……こ、こんな場所で……」
必死に抗弁する僕の耳に、顔を赤らめたリンネはそっと唇を近づけて。
「大丈夫……ここ、誰も来ないから……」
僕の精一杯の抵抗は、リンネのささやきによってあっさり崩壊した。
◇◆◇◆◇
しばらくして。
リンネと別れて家に戻って来た僕を、アイさんが出迎えた。
そこまでは何も問題なかったのだけど。
「ふーん……なんだか、リンネの匂いがするわね」
「……!?」
アイさんの言葉に、僕はもはや言い訳できようもないくらい表情を動かしてしまう。
それを見たアイさんはうつむき、両手で顔を覆った。
「うう、ひどい……私というものがありながら……」
「ああああああいやそのあの」
動揺しまくる僕を、あっさり顔をあげたアイさんのいたずらっぽい瞳が見つめている。
「ふふ、冗談よ。でも、やっぱりリンネとしたのね」
……僕、ひょっとしてカマかけに引っかかっちゃいました?
「そのへんのこと、じっくりたっぷりと聞かせて欲しいなあ?」
そう言いながら、アイさんは僕の手を握って寝室へと誘うのでした……。




