母娘との夕食
「お兄ちゃん、来てくれたんだね! うれしい!」
「ようこそハルカさん、お待ちしていました」
今日は以前約束していた通り、アマリアさんの夕ご飯を食べに彼女の家を訪れた。
「こ、こんばんは……おじゃまします」
玄関で靴を脱ぐと、さっそくエマちゃんが抱きついてくる。
「えへへ、お兄ちゃんと一緒にごはんだ……!」
「うふふ、エマは本当にハルカさんが来ることを楽しみにしてたんですよ」
「お母さんも、いつもお兄ちゃんのことを話してたじゃない」
「こ、こら。エマ」
「あはは……」
顔を赤らめるアマリアさんに笑ってごまかす僕。僕の顔も赤くなっているだろう。
「さ、こっちこっち、お兄ちゃん」
見上げるエマちゃんに手を引かれ、微笑むアマリアさんの先導のもと、僕は彼女たちのリビングに案内された。
「食事の時間までもう少しあります。どうぞ、こちらでおくつろぎください」
「そ、それでは失礼します」
目の前には大きなソファーがある。
僕は左端に腰を下ろすと、当然とばかりにエマちゃんがその隣に座る。アマリアさんは困ったような笑顔を浮かべながら、右端に座った。
三人並んでのおしゃべりに花を咲かせる僕たち。
ワイバーンとの出来事を皮切りに、やがて話題はここにお呼ばれされたきっかけとなることに移った。
「そういえば、頭痛はもう大丈夫ですか?」
「はい! あれ以来頭痛で苦しむことがなくなり、快適な毎日を過ごせています!」
「あの時魔法でお母さんを助けてくれて、本当にありがとう、お兄ちゃん!」
初めてここを訪れた時は陰があってつらそうな気配をまとっていたアマリアさんだったけど、頭痛がなくなった彼女の笑顔はまぶしく、まさに健康そのものと言った感じだ。
エマちゃんもそう。思い返せば、悲痛な顔をしたエマちゃんの訴えが僕をここに連れてきたのだった。
でも今は母娘二人でにこにこと笑っている。
あの時、メディスンのスクロールでアマリアさんを治せて本当に良かった。
「それでは準備しますね。下ごしらえは済ませていますので、少しだけお待ちください」
ソファーから立ち上がったアマリアさんが台所に向かった。
「お母さんのご飯、とてもおいしいんだよ! お兄ちゃんもきっとおいしいって言ってくれると思う!」
「それはすごく楽しみ!」
しばし笑いあっていた僕とエマちゃん。
やがて料理が完成し、アマリアさんの呼ぶ声に従って立ち上がる。
四角いテーブルに三つの椅子がある食卓についた。
僕が座った向かいにはアマリアさん。斜向かいにエマちゃん。
そして目の前にあるのはアマリアさんが作った夕ご飯。
鳥肉と野菜とハーブが入ったポタージュ。
塩漬けされた豚の肉がのせられた大きなお皿。そのそばには豚皮を煎ったスナックが積まれた小皿もある。
さらには塩や酢が和えられた野菜のサラダ。
硬く燻製されたものを、柔らかくして切り分けられたチーズ。
色々な形をしたパンに、様々なドライフルーツ。
さらに食用にもなる綺麗な花がいくつも添えられ、器を彩っている。
他にはもちろん飲み物用の杯と水差しも。この前のワイバーンを倒した時の宴会時に僕が酒を飲んでいなかったのを見ていたのか、用意されているのは水とジュースのようだ。
すごく美味しそうで豪華な料理の数々が、テーブルの上にところ狭しと並んでいた。普段から母娘二人で毎日これだけの量を食べているとは思えない。僕のために奮発してくれたのだろうか。
準備にすごくお金がかかったんじゃ……。
そんなことが頭をよぎり、アマリアさんへ目を向けると。
「アイさんとリンネさんが食料となる鳥や獣を捕まえてくれるんです。それにこの村では鶏や豚も飼われていますからお肉は手に入りやすいですし、野菜とハーブのほとんどは私が育てているものです」
だからお金のことは気にしないでくださいとばかりに、にっこりと微笑まれてしまった。
気を使わせるのも申し訳ないし、喜んで食べることにしよう。
「ありがとうございます……それでは、いただきます!」
「うふふ、どうぞ。召し上がれ」
「お兄ちゃんの好きなものってどれ? エマがとってあげる!」
「ありがとうエマちゃん! じゃあそのお肉をとってくれるかな?」
「うん……はい、どうぞ!」
こうして楽しい夕食が始まった。
僕はアマリアさんの料理に舌鼓をうち、時には母娘二人と笑いあい。
食事の間、エマちゃんの口についた汚れを拭いてあげたりと、かいがいしく動くアマリアさん。
頭痛がなくなって、お母さんも明るくなったとエマちゃんも言っていた。
二人を見つめていると、力になれて良かったとしみじみ思う。
「そういえば、ハルカさんはアイさんと一緒のお家に暮らしているんですよね?」
食事も一段落したころ、アマリアさんが僕の暮らしぶりについて切り出した。
「は、はい……そのう、なりゆきで……」
そのアイさんとは、つい先日一線を越えたばかり。
そんなことを思い浮かべてしまった僕を知ってか知らずか、アマリアさんは笑顔で僕を見つめながら言葉を続ける。
「一緒に暮らしているアイさんには悪いですけど、ハルカさんには毎日でも訪れて欲しいくらいです」
「ま、毎日ですか!?」
「お兄ちゃん、また来てくれるの?」
エマちゃんが期待を込めた瞳で僕を見る。
「でも、さすがにここまでの歓待をしてもらうのは……」
「うふふ、お気遣いありがとうございます。それでは、いつも二人で食べているものをハルカさんのぶんもご用意する、ということでいかがでしょう?」
「あ、そういうことでしたら……」
アマリアさんの料理はとても美味しかった。そしてアマリアさんだけでなくエマちゃんも素敵な笑みで僕を迎えてくれる。その誘いを断るなんて出来ない。
迷惑にならない頻度なら問題ないだろう。
「分かりました。毎日は無理かもしれませんが、これからも出来る限りご一緒させてください」
「ありがとうございます! また美味しいごはんを作ってお待ちしていますね」
「えへへ、嬉しい。ありがとうお兄ちゃん!」
ふたたびの来訪を二人に約束しつつ、楽しい食事会はやがて終わったのだった。




