竜の牙
翌日。
必要なスクロールをいくつか完成させたあと、ちょっと気分転換がしたくなり、散歩に行こうと外に出て少し歩いたところで。
僕は読書家のテティスとばったり出くわした。
「おお、ハルカさん! ちょうど良いところに。今ハルカさんに会いに行こうと思っていたところです!」
「どうしたの? 何か新しい本でも手に入った?」
「そういうわけではないのですが……さっき本を読んでいた時に思い出したことがありまして……」
「なんだい?」
「竜の牙ですよ竜の牙! 竜牙兵を作るために必要な! ワイバーンからも取れるんですよね!?」
――あ、そうか。
竜の牙。それは素材としてだけではなく、竜牙兵を作るために必要なアイテムでもある。
竜牙兵――ドラゴントゥースウォリアーとも呼ばれるそれは、ゴーレムのように命令に従う戦士だ。
人間の骸骨のような姿をしているのだが、土くれのゴーレムよりはるかに強度があり、戦士としての腕も立つ。
ワイバーンは竜の中では下位に位置するため、その牙から生まれる竜牙兵も性能は劣るものとなるが、それでもゴーレムよりははるかに強いと言われている。
「それで、ハルカさんが竜の牙を預かったのなら、ぜひとも見せて欲しいなと思い……!」
「ごめん、持ってないんだ……」
そのことに気づいていたら、お願いして竜の牙だけはもらったかもしれないけど……。
「な、なんと……それは残念です……」
「あ、でもイグニッドさんが持ってるかもしれない。ワイバーンの素材は使う予定が入ったけど、小さい牙とかなら余ってるかも……」
「そうなのですか? では行って聞いてみましょう!」
「うん、そうだね。一緒に行こう」
僕はテティスと共に、昨日訪れたイグニッドさんの鍛冶屋をふたたび訪れることにした。
◇◆◇◆◇
「おや、どうしたっすか? ハルカ。それにテティスも」
二人で挨拶もそこそこに、僕はさっそくイグニッドさんに用件を切り出した。
「ちょっと聞きたいことがありまして。ワイバーンの牙って、余ってたりしますか? もし余ってるならいただけないかなと思って……」
「牙っすか? 悪いけど、うちにあるのはもう全部新しい武器の素材として使う予定に入ってるっす」
「そ、そうですか……」
僕とテティスはそっくりの動作でがっくりと肩を落とす。そんな僕たちの事情を知ってか知らずか、イグニッドさんが言い添える。
「ただ、雑貨屋に行けばあると思うっすよ」
「え?」
「ワイバーンの素材の大半はあーしと雑貨屋とで分配したんすよ。牙もいくつか雑貨屋が持って行ったんで、街に売りに行ったりしてないならまだあるんじゃないっすかね」
「あ、ありがとうございます! 武器作り、頑張ってください!」
今度は雑貨屋を目指して、僕とテティスは一緒に駆けだした。
そこまで広くない村内。
僕たち二人はまもなく雑貨屋に到着した。
「ごめんください」
「失礼します」
それぞれ挨拶しながら雑貨屋の開かれた入口をくぐると、たちまち奥から声がかかる。
「おや、少年。それに読書少女も。珍しい組み合わせだ」
雑貨屋の土間と私宅内とを分ける上り框に腰かけていたお姉さんが、よっこらせとばかりに立ち上がる。
「いえ、わたしたちはマブダチですから!」
「そうかい。覚えておこう」
珍しい組み合わせと言われてムキになったのか声を張り上げるテティスを、お姉さんは笑っていなした。
そのまま店舗内の棚に向かうと、そこから平べったい箱を取り出して持ってくる。
「お目当てはワイバーンの牙だろう? ほら。手入れもしておいた」
僕とテティスは顔を見合わせ、続いてお姉さんの顔を見て、最後に差し出されたその箱に視線を落とした。
透明な蓋がされた箱の中に、いくつかの小さい牙が並んでいる。手入れをしたという言葉の通り、綺麗なものだった。
「きっと少年が欲しがると思ったのでね。鍛冶屋に使われる前に確保しておいたというわけだ。さあ、受け取っておくれ」
「い、いいんですか? かなり高いものだと聞いたことがあるんですが……」
「これが千年ドラゴンの牙とかなら、アタシもここまで気前よくなれなかったかもしれないがね、少年」
お姉さんは、伝説上の存在を冗談めかして口にする。
「キミのこの村に対する貢献を考慮するなら、これくらいの報酬は受け取ってしかるべきだよ? まだ安いくらいさ」
「わ、分かりました……ありがとうございます!」
僕は差し出されたワイバーンの牙入りの箱を、丁寧に両手で受け取った。
「前にも言ったかもしれないが、お礼を言うのはこちらの方なんだよ。ワイバーンから村を守ってくれてありがとうね」
◇◆◇◆◇
受け取ったワイバーンの牙入りの箱を持って村の中を歩く僕。
隣ではテティスがうっとりとした目で並ぶ牙を見ている。
「ああ……この牙が噂に名高い竜牙兵に変わるとは……素晴らしいです!」
「テティスもひとつ持っておく?」
「そんな……!! お、お気持ちは嬉しいですが、それはハルカさんじゃないと活かせませんから!」
「じゃあ、見たい時はいつでも言ってよ。見せてあげる」
「あ、ありがとうございます! それでじゅうぶんです!」
喜ぶテティスをしばらく眺めた僕は、ふたたび箱の中の牙を見下ろした。
「竜牙兵か……どれくらいの強さなんだろう」
「ハルカさんも使ったことはないんですか?」
「うん」
竜牙兵を生み出す魔法、クリエイトドラゴントゥースウォリアーはちょっと特殊だから、ゴーレムほどカスタマイズは出来ないかもしれないけれど。
それでも土くれのゴーレムよりははるかに強いはずだ。
きっと、この村の力になってくれるだろう。
時間を見つけて、竜牙兵を生み出すための魔法のスクロールを作っておくことにしよう。




