お守り
鍛冶屋のイグニッドさんを訪れた、この日の夕方。
自分の部屋で一仕事終えた僕は、アイさんを求めてリビングへと足を向ける。
ちょうど立ち上がったところだった彼女は、リビングにやってきた僕に気づくとこちらを振り向いた。
僕はアイさんに小走りで近づく。後ろ手にあるものを持って。
「アイさんアイさん」
「ハル君、どうしたの?」
小首を傾げるアイさんを前に、ちょっとだけ間を溜めてから……。
「これ、受け取ってください」
「え?」
隠していた背後から僕がアイさんに差し出したのは、さきほど完成したばかりの巻物。二本作ったうちのひとつだ。
「エンチャントウェポンのスクロールです」
エンチャントウェポンは武器に魔力を帯びさせる魔法だ。
魔力によって武器は切れ味が強化され、さらに強度もアップして破損しづらくなる。
「エンチャントウェポン……嬉しいけど、どうしたの? 急に」
「その……僕が武器を使う戦いをしないものですから、この魔法のことをすっかり忘れてたんですけど……」
そこでいったん言葉を切り、戸惑ったままのアイさんを見つめる。アイさんはまだスクロールに手を伸ばすことなく、黙って僕の話をじっと聞いている。
「……新しい武器が完成するまでは、今の武器を使うんでしょう?」
「そうね。イグニッドに予備の武器も借りたけど、やっぱり今の剣のほうが使い慣れてるから……」
「だから、このエンチャントウェポンをお守りがわりに持っていてください」
アイさんが驚きの瞳で僕を見た。驚きだけでなく、喜びなどの他の感情もないまぜとなっている、そんな瞳。
そう。危険を抱えた武器で戦ってほしくないのだ。またワイバーンのような恐ろしい敵が現れるかもしれないのだから。
「市販のものより効果時間を長くしているので三時間はもちます。もちろん強化する力も比べ物になりません。強力なモンスター相手でも剣が折れることはそうそうないはずです」
「ハル君……」
「アイさんは剣士ですから戦いに行くことは避けられません。だからせめてお守りになればと思って……んむっ!?」
僕が変な声を出したのは、アイさんがいきなり僕の唇をふさいだからだ。もちろんアイさんの唇で。
「ア、アイひゃっ……んっ……んう……」
アイさんの舌が僕の舌に絡みつき、しばらくの間、僕は立ったままアイさんに口の中を蹂躙される。
ようやく、アイさんが僕から離れていき、二人の唇の間を銀の橋が生まれてしずくが滴った。
アイさんは顔を赤らめているけど、僕はそれ以上に真っ赤になっているはずである。
「ふふ、ごめんね。スイッチが入っちゃった」
「ス、スイッチって……」
「でも、ハル君が悪いんだよ? いじらしいことを言うから……」
アイさんは僕からスクロールを受け取り、大事そうに抱きしめた。
「本当にありがとうハル君……すごく嬉しい……」
「よ、喜んでもらえて良かったです……」
さっきのキスによりまだ頭がふわふわしている。
そこに、アイさんがとびきりの笑顔でこう言った。
「ちょうど今、お風呂を沸かしてたところなの……一緒に入ろう?」
「……は、はい……」
数日前、お風呂に誘われた時に慌てて断った過去の僕が知ったらびっくりするだろうくらい、素直にうなずいてしまう。
で、でも断れるわけがない……!
アイさんはエンチャントウェポンのスクロールを机の上にそっと置き。
僕は笑顔のアイさんに手を引かれ、一緒にお風呂へと向かうのであった。




