三人で鍛冶屋を訪ねて
家の中で午前中を過ごし。
用意された昼ごはんを食べて、アイさんとも普段のようなやりとりを出来るようになったころ。
玄関の呼び鈴がチリンチリンと鳴った。
「私が出るわね」
「お願いします」
アイさんは立ち上がって玄関へと向かう。
やがてアイさんにつれられて、リンネがやって来た。
「やっほ、ハルカ」
「やあ、リンネ」
「昨日はすごく楽しかったね! ……あれ?」
おそらく違うことを指しているはずのリンネの言葉が、僕とアイさんにあることを思い出させた。
顔を赤らめ、何ともいえない表情になる。
怪訝に思ったらしいリンネが首を傾げた。
「二人とも、どうかした?」
「う、ううん?」
「べ、別に何も……」
いぶかしげではあったものの、やがてここに来た本題を思い出したようでリンネは顔をひきしめ、アイさんを見据えた。
「あのワイバーンとの戦いが激しかったせいでさ。あたしの槍がそろそろ限界を迎えそうなんだ」
「え?」
「アイの剣も、たぶんそうなんじゃない?」
「……たしかに……最近はモンスターとの戦いも多かったし」
「それでイグニッドのところに行って修理してもらおうと思って。アイも一緒に行かない? もちろん良ければハルカも」
イグニッドとは、村の外れで鍛冶屋を営む女性のことだ。
昨日の宴会にも参加していたし面識はある。
「そうね。じゃあさっそく行きましょうか。ハル君は?」
「僕も行きます。ちょっと興味ありますし」
「じゃあ、決まりだね」
アイさんは剣を、リンネは槍を持ち、鍛冶屋イグニッドのところに向かったのだった。
◇◆◇◆◇
村の外れに来た僕たち。
そこでは、カンカンと鉄を打つ音がひっきりなしに聞こえる。
鍛冶屋の主は今も何かを作っているようだ。
近づく僕たち三人に気づいたのか、顔をあげて目を保護しているゴーグルを頭上にずらし、にっかりと微笑む。
「アイ、リンネ、昨日ぶりっす……ハルカも来てくれたんすね。うれしいっす! あーしの工房にようこそ!」
「こんにちはイグニッドさん」
鍛冶屋のイグニッド。
面識はあるとはいえ、そこまで接点があったわけではない僕は、初めてやってきたこの工房と彼女をまじまじと見た。
短めの赤い髪と褐色の肌、黄緑色の瞳の持ち主。アイさんとリンネの間くらいの年齢に見える。
とても快活で、昨日も宴会で大騒ぎする姿を見かけた。幸い、酒は残っていないようだ。
「イグニッド、私たちの武器を見てくれない? 刃こぼれや傷が目立ってきてるの」
「ああ、昨日のワイバーンとの戦いは激しかったと聞いたっす。そのせいっすかね……」
「うん。それに、最近はモンスターとも連戦してたし」
「いいっすよ。見せてください」
しばらくアイさんの剣とリンネの槍を見ていたイグニッドさんだったが……。
チェックが終わって二人の方へ向けられたその顔は、明るい彼女には珍しく曇っていた。
「これは……ちょっと修理は難しそうっすね……」
「え!?」
「うそっ!?」
驚く二人と武器との間で視線を動かしながら、困ったような声音で言い添える。
「ワイバーンとの激戦の跡がうかがえるっす。戦いの最中に折れなかったのが不思議なくらいっすね。修理というより、パーツを丸ごと取り換えることになりそうっす」
「そ、そう……仕方ないわね……」
「……これまでずいぶんと使い込んだしなあ……」
愛着があるのか、がっくりとしているアイさんとリンネ。
愛用の武器が使えなくなるショックは、魔法使いの僕でも察することはできる。
どう言葉をかけようか迷っていると、イグニッドさんがふたたび口を開いた。
「落ち込んでる二人の慰めになるか分からないっすけど……いっそ、完全に新しい武器に替えちゃわないっすか?」
「え?」
「どういうこと?」
アイさんとリンネはイグニッドさんを見た。
「お二人とハルカのおかげで、今あーしの工房には素晴らしい素材があるっす。それを使えばより優れた武器を作ることが出来るっす」
「……まさか」
その言葉にピンときた。もちろん、それはアイさんもリンネも同様だろう。
察した僕を見て、イグニッドさんが頷いた。
「そう、ワイバーンの素材っす」
アイさんとリンネは顔を見合わせる。その瞳には力強い輝きが戻ってきている。
「ワイバーンの素材で作られた武器……かなりの強度を誇ると聞いたことがあるわ」
「そっか……お肉をいっぱい食べたからもう全部なくなったと思ってたよ!」
「……ワイバーンは肉の塊ではないっす」
本気で言っていそうなリンネに、イグニッドさんがやや引いた顔でそう答えた。
「どれくらいかかりそう?」
「そうっすね……あーしもワイバーンの素材は初めて扱うっすが……お二人のぶんをあわせて二週間で完成させてみせるっす。ワイバーンの素材をメインに、今工房にある最上質の鉱石を組み合わせた武器になると思うっす」
「聞いてるだけでワクワクしてきたよ……!」
アイさんが尋ね、リンネが答えた。期待感にあふれているのはもちろん二人とも同様だ。
「それで、制作に取り掛かる前にお二人の意向を聞いておきたいっす。こんな武器にしてほしいという要望があれば、なるべく取り入れたいっす」
「それじゃあお願いしていいかしら。私、以前から興味があった武器があるの……」
「あたしは、こうしてほしいかな……」
しばらく顔を寄せ合って真剣なやりとりを交わしていた三人。やがて頷き合いながら離れた。
イグニッドさんも見通しが立ったのか満足そうだ。
「お二人のおかげで方向性が見えました。必ず完成させてみせるっす!」
「これまでに見たことのない素晴らしいものになりそうね! ありがとうイグニッド! それじゃお願いするわ」
「慣れない素材で大変だろうけど、楽しみに待ってるよ! 頑張ってね!」
二人の声も明るい。
はじめはどうなることかと思ったけど、最終的に良い結果になったようである。
「問題は、完成するまでの間どうするかよね。もしモンスターが襲ってきたら……」
持ってきた剣を眺めてそう思案するアイさん。
「今の武器に関しては、小さい害獣相手やゴブリンくらいなら問題ないと思うっすが、念のために予備の武器も携帯したほうがいいっす。うちに余ってるやつを使ってくれて構わないっすよ」
「分かったわ。お言葉に甘えるわね」
「まあ、さすがにもうワイバーンみたいなやばいのはしばらく来ないよ。きっと」
イグニッドさんが作る新しい二人の武器。
僕も完成する日を楽しみに待つとしよう。




