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アイさんの手当て

 ようやくみんなから解放された僕はアイさんの家に戻って来た。


 村の被害はワイバーンに巻き込まれて半壊した家屋だけと言っていい。

 幸いその家の主は外出していたし、エマちゃんも怪我はない。

 村がワイバーンに襲われた結果としては、これ以上ない結果におさまったと言ってよいだろう。


 強いて言うなら、全力で飛び込みスライディングした僕にり傷が出来たくらいか。

 ヒーリングという傷を治す魔法を込めたスクロールも持ってはいるのだが、この程度の傷に使うのはさすがにもったいない。


 というわけで、今はアイさんがそのり傷を手当てしてくれているところだ。

 ベッドに腰かける僕の前でひざまずき、傷をチェックしながら時折怒ったように僕を見上げる。


「本当、無茶をして……今日だけで寿命が十年くらい縮んじゃったわよ」

「す、すみません……いた……いたた……」


 言葉そのものは責めていたものの、その声音と浮かべる笑みはまさに上機嫌で、僕のり傷に薬を塗りはじめた。

 そのたびにちょっと悲鳴をあげる僕を、いたずらっぽく見つめている。

 心配をかけたことに対する、彼女なりのおしおきなのかもしれない。


 あの時エマちゃんに使ったエクスチェンジはお互いの場所を入れ替える魔法。射程距離はあまり長くなく、ライトなどに比べると高位の魔法でもあるし、実際に戦場で使われることはほとんどない。

 ただ、トリッキーな使い方で翻弄することが出来るので一本は持ち歩いていたのだ。今回みたいなシーンを想定していたとまでは言わないけど。

 アイさんもおそらく実戦で見たのは初めてだったのだろう。度肝を抜かれても仕方ない。


「あ、そういえば、倒したワイバーンのことなんですが……」


 気恥ずかしくて目を逸らしつつ、話題を僕がとどめをさしたワイバーンのことに転換した。

 ワイバーンはゴブリンなどのこの世にあらざるモンスターとは違い、この世界で生まれ育った竜だ。当然のように死体が残る。

 ワイバーンの素材は高く売れるらしいし、村にとっては臨時収入になるだろう。


「処分はお任せします。素材は高く売れるはずなので、村のために使ってもらえれば……」

「……ハル君、もう少しわがままを言ってくれてもいいのよ? というか、ハル君がすべての所有権を主張したって誰も文句は言わないと思うわ」

「う、うーん……お金とかあまり欲しいって思えなくて……皆さんのお役に立てたことが一番の報酬というか……」

「……」


 ようやく手当てを終えたアイさんが、何も言わずに僕の手を取った。

 ひざまずいた体勢のまま、僕を見上げてじっと見つめてくる。


「……もう少し、自分を大事にして欲しいかな。今日だって、あのやり方しかなかったのかもしれないけど、命の危険があったわ」

「……」


 無言の僕に、アイさんは困ったような顔になってしまう。


「ごめんね? お説教みたいになって……でも、ハル君のことが心配だから、ね?」

「はい……ありがとうございます……」

「ふふ。……だけど、また同じようなことがあったら同じような行動を取っちゃうんだろうな、ハル君は」

「……」

「でもそんなところが……」


 言葉の途中で、アイさんは慌てて口をつぐんだ。


 ……?


 きょとんとした僕にもはや何も言わず、アイさんは僕から手を放して勢いよく立ち上がる。その顔は、なんだか熱っぽい。

 一旦自分を落ち着かせるように息を吐いた彼女は、その時にはすでにいつもの表情に戻っていた。


 まだベッドに座ったままの僕を、今度はアイさんが見下ろす形になる。


「その、さっきハル君が言ってたワイバーンの処分の方法なんだけど……村の人たちで相談して決めたことがあるの」

「どうするんです?」

「私について来て、ハル君」


 アイさんが差し出した手を、僕は握ってベッドから立ち上がる。

 やがて彼女に導かれるように、僕はアイさんの家を出た。

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