雑貨屋のお姉さん
「そこの少年」
夕方。散歩中に雑貨屋の前を通りかかったところ、僕は突然女性の声に呼び止められた。
足を止めた僕の前に、どことなく気だるげなお姉さんが雑貨屋の入口から姿を見せた。雑貨屋の店主であるお姉さんは、長めの髪の毛の一部を左右うなじのところで結んでおさげにしている。髪の色はほぼ黒髪に近いような焦げ茶色だ。
そういえばまだお店に入ったことはなかったなと思いつつ、出てきたお姉さんに軽く一礼する。
「こんにちは」
「こんにちは。キミの活躍は色々と聞いているよ。大したものだね」
お姉さんは口元に小さな笑みを浮かべ、髪の毛と同じような色合いの瞳で僕を見つめている。
「あ、ありがとうございます」
褒められて照れる僕を気にしているのかいないのか、お姉さんはよっこらせと言わんばかりの動作で店の前の長椅子に座った。
「ちょっとここに座っていかないかい? 飲み物くらいなら出すよ」
お姉さんは自分の隣をぺちぺちと叩く。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
僕はその隣に腰かける。お姉さんは満足そうにうなずいた。
「どうだい? この村の住み心地は。都会のほうから来たんだろう?」
「とても素敵な場所だと思います。僕には都会より合ってるかもしれません」
「そうかい。そう言ってもらえると嬉しいよ」
約束通り飲み物を取ってくるよ、と一度店内に引っ込み。言葉通り両手に飲み物を持って現れた。
ふたたび僕の隣に座るお姉さん。
「見ての通り、村で唯一の雑貨屋なんだけど」
飲み物を手渡されてお礼を言い、口をつける僕を横目で見ながらお姉さんは語り始めた。
「村の連中がスクロールを欲しがる時にね、アタシが街で仕入れてくることが多かったんだけどさ」
「そ、それはひょっとして……」
不安げな僕の顔を見て早合点させたと思ったのか、小さく笑いながら手を振った。
「ああ勘違いしないでおくれ。別に少年のせいで儲けがなくなったとか、そんなことじゃないのさ。そもそもスクロールってやつはどれも高いからね。さすがにそれ以上値段を上乗せするわけにもいかなくてね。ずっと採算度外視でやってたわけだよ」
そこで言葉を切って、お姉さんは楽しそうに僕の目を覗き込んだ。
「だから、むしろ少年のおかげで余計な仕事がひとつ減って助かってるわけさ」
「そ、そうだったんですか……」
安堵する僕を見て、お姉さんはふと真面目な顔になる。
「しかしだ、少年。無償でスクロールを使ってるって聞いたけど、いいのかい? 話を聞いてる感じ、キミのスクロールは市販のものとは比べ物にならないほどの効果があるみたいだけど……」
「今は、家に住まわせてもらったり毎日の食事をただで食べさせてもらったりしてますから……」
「それで釣り合ってるとは思えないけどね。まあ、少年に不満がないならこれ以上このお姉さんが気にすることでもないな」
お姉さんはそう言うと、また不思議な雰囲気の笑みを浮かべる。
「とにかく、少年には感謝してるって伝えたかったのさ。暇があるときはいつでも覗いていっておくれよ。店にないもので欲しいものがあるなら言ってくれれば、街まで仕入れに行くよ?」
「あ、それならスクロール作りに必要な、特殊な紙とペンとインクとロウを取り扱ってもらえると嬉しいです。特に紙とインクとロウに関しては、もうすぐ手持ちのぶんがなくなっちゃいそうなので……」
「なるほど、了解した。この村には魔法使いはいなかったから今まで扱わなかったけど、喜んで準備するよ。しばらくはこの村にいてくれるんだろう?」
「はい、そのつもりです」
「助かるよ。しばらくどころかずっといて欲しいくらいさ。うちの常連になっておくれ」
「お姉さんも、何か困ったことがあったら言ってください。魔法で解決できることならきっと解決してみせます!」
「ははは、ありがとう。それじゃあまたね、少年」




