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片腕の侍―異世界の極東島国にて突如出現した謎のダンジョンを閉じる―  作者: ポンコツロボ太


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第14話 早雲寺

 ソウケン達が一晩を明かした宿の部屋で、ダッキの叱責が飛んでいた。


「もう……何度言ったら分かるんでしょう。……そうそう。そうであります。その帯はほどけないよう、ぎゅうっと……」


「こう?」


「うぐっ!!」


 リッカが甲冑の上帯をきつく締め上げ、ソウケンの口からは、あまりの勢いに呼吸とは違う空気の塊が飛び出した。


「大丈夫?」


「うむ、大事ない。……それよりも、リッカ殿、ダッキ……このように人に頼らねば生きていけぬ拙者をいつも助けてくれる事、本当に感謝する」


 ソウケンは最後に手甲をリッカに止めてもらいながら、礼を述べた。


「かまいませんよぉ。私とソウ様の仲ではありませんか。本来ならば私が人の身となって、それこそ妻のようにソウ様に甲冑を着せたかったのですが……」


 そこまで言うとダッキは恨めしそうな目で、ソウケンの手甲の紐を縛り終えたリッカを見た。

 しかし、リッカはその視線を気にすることもなく自分の細剣レイピアを腰に差し、皆に声をかける。


「行こう」


「おおなっ!」


 ソウケンも腰に愛刀『散椿国光ちりつばきくにみつ』を差し、部屋を後にした。

 これからグレイファングの案内で山籠のダンジョンへと入るのだ。


 ソウケン達が宿の玄関に着くと、そこにはグレイファングの面々がすでに準備万端に待っていた。


「おっ! 着物姿も良かったけど、やっぱりリッカロッカさんは、その恰好じゃなきゃねぇ」


 グレイファングのリーダーであるオリーが「ピュ〜」っと口笛を鳴らした。

 それに対して何も思う事のないリッカをよそにサラがバシッとオリーの肩を叩いて叱りつけた。


「もう!! なんでオリーはそんなに浅薄せんぱくでいられるの!? リッカ様に失礼でしょ?」


 サラの注意を受け、オリーが悪戯のばれた子供の様に小さく頭を下げる。


「へへへ、サーセン」


「ちょっとぉ!!」


 そのあまりの軽薄な謝罪にサラがもう一度叱りつけようとするが、リッカがそれを止めるように言葉を発した。


「気にしてない。それよりも早く行こう」


 リッカの言葉が号砲となり、グレイファング一同の顔つきが冒険者のそれに変わった。


「そいじゃ、ま。一仕事しますか?」


 リーダーのオリーの掛け声に他の皆が「おう!!」と応えた。


「頼もしいな」


 ゴンドワートの冒険者達のやり取りを少し遠巻きに見ていたソウケンがポツリと言葉を漏らした。


「フフフ。他人事みたいに……。いざ、戦いとなればソウ様より頼りになる者はいませんよぉ」


 足元にじゃれつくダッキがソウケンの独り言を拾い上げる。


「……そうであれば良いが。さ、拙者達も参ろうか」


 グレイファングの面々とリッカが宿を出ると、それに続くようにソウケンも宿の戸をくぐった。

 宿の主人であるカンスケは、玄関口から深々と頭を下げ、皆の無事を祈るのだった。


 ダンジョンが出現した早雲寺は、宿から北西へ一刻ほどの場所にあった。


 ソウケン達が早雲寺についたのは、太陽が頭上に上るうまの刻。

 境内に上がる参道を抜け、柱を朱色で染めた山門を潜ると、そこには中央に賽銭箱を備えた寺が鎮座していた。


「おーい! オショー!!」


 山門を潜るなりオリーが大声で叫ぶ。しばらくすると本堂から年老いた老人の声が掛かる。


「はいはい。聞こえておるぞ」


 本堂の障子戸を開けて出てきたのは、頭を丸め、眉が目に掛かるほど伸び、蓄えた髭が真っ白な袈裟けさ姿の痩せ細った僧侶であった。


 経を上げていたのか、数珠を袖にしまい、その身からは線香の残り香が漂っていた。


「オショー!! 先日の酒、役に立ったぞ!」


 オリーは持っていた経文の書かれた徳利を掲げて見せた。

 それを目にした和尚は柔和な笑みを浮かべる。


「それはそれは……。ワシの経も中々捨てたものではないのぉ」


「おう! それで、すまねぇんだが、これから俺たちダンジョンに入ろうと思ってな。オショーに酒の追加を頼めねぇかと思ってよ」


「そうか、そうか。それなら丁度良かったわい。今しがた経を上げ終わったとこなんじゃ。どれ、待っとれ」


 そう言うと先ほど出てきた本堂に戻り、中から徳利を一つ手に持ってやってきた。


「これを持って行くとえ。それより、其方の方たちは?」


 オリーたちの後ろで控えていたソウケン達に和尚が目を向けると、ソウケンは面を外し頭を下げた。


「拙者、ダンジョン侍なる役を得たスズガ・ソウケンと申す者。そして、彼女は……」


 ソウケンは目線でリッカロッカに自己紹介を促すと、いつも通り表情を変えることなくリッカが自分の名前を口にした。


「リッカロッカ。彼らと同じ冒険者」


 俗世を捨てたとは言え、和尚も男。リッカの美しい容姿に眉に隠れた目を丸くした。


「オショー。今回は期待して良いぜ。このリッカロッカさんは俺たちを遥かに凌ぐ実力の持ち主だからよ。それにオショーの酒も!」


 オリーが受け取った徳利を揺らすと、ちゃぷ……と液体の動く音がした。


「ワシのできることなど些細なもの。この世の救いを求めんと仏門に入ったがワシには祈ることしか出来ん。どうか皆様方、この後の事よろしくお願いします」


 和尚は皆に手を合わせ、お辞儀をした。


 それに満面の笑みで応えるオリー達一向。リッカは和尚に「安心して良い」と声を掛けた。


「拙者も全力を尽くします故、どうか心安らかにお待ちください」


 ソウケンは和尚と同じように深くお辞儀をして、歩き出す。

 彼らが向かうは、早雲寺裏にある墓地。


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