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片腕の侍―異世界の極東島国にて突如出現した謎のダンジョンを閉じる―  作者: ポンコツロボ太


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第12話 虎吉一家

  一夜明け、宿の主人カンスケの案内でソウケン達は街道から一本奥に入った場所にある大きな平屋建ての建物の前へやってきいた。


 平屋入口の障子戸の前には、活きの良さそうな若衆が身の丈よりも長い棒を持って見張りに立っている。


 見張りの男はカンスケの姿を見つけると、威勢よく声を掛けてきた。


「おっ、カンスケの旦那じゃねぇの? 今日はどんな用向きで?」


「今日は、あの化物達を成敗しに来て下さった方を親分さんに紹介しようと思ってね。どうだい、今日の親分さんの容体は?」


 カンスケが聞くと見張りの男は、ばつの悪そうな顔をして歯切れ悪く答える。


「い、いやね、親分まだ寝込んでんだよ。挨拶ならタケゾウの兄貴が受けっからよ。部屋はいつもの所だから勝手に入ってくんな」


 そう言って見張りの男は障子戸を引いて中に入るように促すので、カンスケに続くようにソウケンも屋敷の中に入った。


 平屋の玄関は、多くの客が履物を脱いでも大丈夫なように広く作られ、さらには賭博をしているところが見えないよう、奥に続く廊下に虎の絵が描かれた立派な金屏風が目隠しの代わりをしていた。


 カンスケは、誰もいない玄関で「ちょいと失礼するよ」と中に向かって小さくあいさつをすると、奥へと上がり込んでしまった。

 もちろんリッカもそれを追うように中へと入ってしまう。


 ソウケンだけは、家主に無断で上がり込むような真似に、少しだけ心を痛めながら草履を丁寧にそろえ中へと上がった。


 屏風を越えればすぐに襖という作りになっており、襖の中を覗けば、そこは座敷中央に賭博用の長方形の台と、その台の上に壺振りの使う壺が置かれているのが見えた。

 どうやらここは半丁賭博はんちょうとばくの会場のようである。

 

 おそらくこのような状況でなければ、ここには多くの客が入り「半だ!」「丁だ!」と威勢の良い声が上がっていたのだろうとソウケンは思った。


 そんなことを考え立ち止まるソウケンに廊下の奥からカンスケの声がかかる。


「お早く、こちらですよ」


 ソウケンはその声に促され賭博場を後にした。


 建物の中は人があまり居ないのか、しんと静まり返えりソウケンの足音が響く。

 しばらく歩けば薄暗い廊下の先にカンスケとリッカが待ってくれていた。


「待たせてすまない」


「いいえ、かまいませんよ。ただね……」


 カンスケが声の音量を落とすので、自然とソウケンはカンスケの方へ顔を寄せる。


「親分さん、このところ表に出てこないので、問題ないと思うんですがね。トラキチの親分は、以前の藩主である赤城アカギ様とずいぶん懇意にしておりまして……。なので、少しばかり今の将軍様に思うところがあるというか……何というか」


 アカギと言えば、アサダ家長男シゲアキが出陣した秋津あきつの戦いにて、トウジョウ軍を裏切り、窮地をもたらした男である。


 そのアカギのせいで、アサダは跡継ぎと門弟のほとんどを失い、結果として御家断絶おいえだんぜつにまで至ったのだ。


 そんな事情を露とも知らぬカンスケが言葉を続けた。


「なので、もし、親分さんが居た時は、どうか……どうか、ソウケンさんが将軍様から遣わされたという事だけは、ご内密にしてもらえると……」

 

 この話をまこととするならトラキチはソウケンにとって兄弟子の敵であるアカギの肩を持つ者であり、普通の人間の思考ならば、トラキチ憎しと思う所かもしれない。


 旅の道中、アカギとの因縁を聞いていたリッカが心配そうにソウケンに目をやる。

 しかし、ソウケンの考えは違う所にあるようで、カンスケの提案をあっさりと了承したのだった。


「ええ、構わんでござるよ。この見た目故、向こう方も拙者をだんじょんを閉ざす者と思わんでござろう。静かに構えておるよ」


 ソウケンの答えにカンスケは「すみませんねぇ」とソウケンに頭を下げた後、目の前の襖を開け中へと足を踏み入れた。

 

 そこは十畳ほどの部屋。

 奥には荒ぶる虎が描かれた襖があり、その襖を守護するように一人の男が片膝を立て煙管キセルを吹かして座っていた。


 男は四十を過ぎたあたりか。

 ヤクザ者らしく、ざっくりと小袖の胸元を開け、肩口まである刺青が僅かに覗いている。


 カンスケはヤクザ者を見るなり愛想笑いを浮かべご機嫌伺いをした。


「これはこれはタケゾウさん。今日も早くからご苦労様ですねぇ」


「苦労ってほどのもんじゃねえやな。それより、どういった用だい? もしかして、その別嬪べっぴんさんを売りにでも来たのかい」


 それはヤクザ者なりの冗談なのだろう。

 タケゾウは小さく「ククク……」と笑って見せるが、カンスケの額からは冷や汗が流れ出た。


「め、滅相もない。こちらの御方は、冒険者のリッカロッカ様で……早雲寺の迷宮を閉じられに来られた方でして……」


 ちらちらとリッカの様子を窺いながら、カンスケは事の説明を続ける。


「一応、トラキチの親分さんにも顔を見せておかねばと、思いまして。ええ、はい」


 カンスケの話を聞き終わると、タケゾウは煙管の中の煙を深く深く肺の中へ押し込み、吐き出す。


「……ふぅぅぅ。あんたら、わざわざご足労願ったのに悪いね。ウチの親分は気分が悪くて眠っているとこなんだ。まぁ、おたくらの事は俺がしっかりと伝えておくから、あとは好きにすると良いさ」


 そう言って、話は終わったと言わんばかりに部屋から出るように促してきた。

 それにならいカンスケが部屋を出ようとした時、リッカが部屋の奥へと足を踏み出す。


「あっ!!」


 リッカの歩みを止めんとするカンスケの手をするりとすり抜け、リッカはタケゾウに向かって進む。


「おい、嬢ちゃん何する気だ!!?」


 タケゾウの怒声もリッカは気にしない。

 そのままタケゾウの横を通り過ぎ奥の襖に手を伸ばす。が、それをタケゾウの手がつかんだ。


「この奥は、親分の……っ!!!」


 リッカが掴まれていた腕を軽く腕を振るった。

 ……ただそれだけ。


 しかし、その膂力は凄まじくタケゾウを軽く吹き飛ばした。

 タケゾウはかなりの勢いで後頭部を壁に打ち付け激昂した。


「このアマぁ!! ぶっ殺してやる!!」


 タケゾウはふらつきながらも立ち上がり、リッカに向かって進み出るが、リッカはタケゾウを歯牙にもかけず襖を勢いよく開け放った。


「?」


 そこは床の間の置かれた六畳ほどの和室であった。

 中央には分厚い布団が綺麗に敷かれているが、タケゾウの言う親分の姿はどこにも見えない。


「何勝手しやがんだ!! この異国の腐れ売女ばいたがっ!!」


 タケゾウは罵詈雑言を口から泡を飛ばしながら叫ぶと懐から匕首ドスを取り出し、まっすぐにリッカに向かっていった。


 それを冷ややかな視線でリッカがとらえる。


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