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片腕の侍―異世界の極東島国にて突如出現した謎のダンジョンを閉じる―  作者: ポンコツロボ太


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第11話 露天風呂でダンジョンを問う

 そして話題を逸らすかのように、ふと疑問に思ったことを口にした。


「……なあ、リッカ殿。リッカ殿の国にある()()()()()もここと同じようなモノなのか?」


 その問いにリッカは首を横に振る。


「ダンジョンは千差万別。似たような作りのダンジョンはあるけど同じものは無い。それでも、この国に現れたダンジョンは何か違う気がする」


 リッカの曖昧な答えに、ダッキが顔を持ち上げ溜息をついた。


「はぁ……違うのは当たり前でありましょう。こんなことが分からないとは……まったくゴンドワートの冒険者の程度が知れますねぇ。ねぇ、そうでありましょう。ソウ様?」


 嫌味が多分に含まれたダッキの言葉。しかし、リッカはそれを意に介さずその言葉の真意を尋ねる。


「どういう事? この国のダンジョンは何が違う?」


 ダッキは、やれやれと、気だるげな様子で話し始めた。


「もともとの成り立ちから違うでありましょう。ゴンドワートのダンジョンは自然発生したダンジョン魔核コアが、『もっと生きて成長したい』という単純明快でなんとも愛らしい目的で出来たモノでありましょう。でも、ここのモノは全く違う。まずダンジョン魔核の代わりとなる物が違う。……野干ヶ森では不本意ながら私の魔核を利用されました」


 二人はダッキの講釈に黙って聴き耳を立てる。


「そして、ダンジョンの出来る目的でありましょ。先のダンジョンの場合は、あの憎き侍の小僧の下らぬ野心から、我が憎悪を利用されてしまいました」


 さも己が可哀そうだと言わんばかりにシナを作り、ソウケンの同情を引こうと画策するダッキだが、誰もそれを相手にはしないと分かるやすぐに言葉を続けた。


「ソウ様、私が言わんとすることが分かりますか?」


 ダッキの問いにソウケンは素直に首を横に振るが、リッカは違った。


「この国のダンジョンは()()()()の目的でダンジョンを作った?」


 リッカの答えにダッキは満足そうに微笑んだ。


「フフ。十中八九、そうでありましょうなぁ……」


 我が身をもって知るダッキの言葉にリッカは固唾を飲んだ。


「流石は年の功であるなぁ……。リッカ殿も凄いが、いやはや……拝んでおこ」


 事態の深刻さを理解できぬソウケンは呑気にダッキに向かって合掌する。そのついでとばかりに先ほどのダッキの話で分からなかったことを尋ねてみることにした。


「なぁ、ダッキよ。ダッキの話が真であるなら、ここにもダッキと同じように苦しめられた何者かがおるのか?」


 ソウケンの問いにダッキは満面の笑みを浮かべた。


「さすが、ソウ様。そこに気づくとは、お目が高い。ダンジョンの形成にはそれはそれは莫大な魔力が必要になりますからね。だから、ダンジョン魔核コアなる純度も大きさも格別の魔石が必要となるのですが、魔素のないこの国でそれを形成するのは不可能でありましょう」


 その言葉は暗に自分の内に秘めた魔核こあの素晴らしさを称えているかのようである。


「しかし、この国に魔王クラスの魔核を持つ者がほいほいと流れ着くわけもありません」


 ダッキの答えにリッカならずとも、ではどうやってダンジョンが出来るのか? という疑問が頭に浮かぶ。


「では、魔核コアもなく、それに代替する物もない所でどうやってダンジョンが出来るのか不思議に思っておるのでしょう?」


 ダッキの少し意地の悪い質問に、二人は素直に頷いた。

 その様子を満足げに見ると、ダッキは言葉を続ける。


「ソウ様は龍脈と言う言葉をご存知で?」 


「んん? 幼少の時分、座学の時に聞いたことがあるな……。たしか、古いまじないの言葉で大地を気が血管の様に流れておるとか……なんとか?」


 自信なさげに答えたソウケンに「良く出来ました」とダッキは微笑み補足をつける。


「ソウ様の言う通り、ヤマト伍山(ござん)と呼ばれる全国五ヶ所の山の山頂からヤマト全土を隈無く走る大地のエネルギーの流れを龍脈と言います。この龍脈によりヤマトは、自然が豊かなのですよ」


 その言葉にリッカは野干ヶ森に入った際、故郷の世界樹の森にどこか似ていると感じた事を思い出した。


「そして、その大地のエネルギーがぶつかり合い溢れ出す場所を龍穴と言うのですが……。この町の温泉は気持ち良いでしょう?」


 ダッキは何やら意味ありげな、じっとりとした視線をリッカに投げ掛けた。

 リッカはその真意を探るべく、温泉を手に救いまじまじと凝視すると、わずかに目を丸くした。


「この温泉……魔素が溶け込んでる?」


 リッカの答えを聞くと、ダッキはその解答が面白くて堪らないのか大声で笑いだした。


「あーっはっは、あぁ可笑しい。溶け込んでいるのは大地のエネルギー、気でありましょう? まぁ、魔素も気も似ておるので間違えても仕方がありませんが……。私が言いたいのは、この土地も龍穴の上にあると言うこと。つまりは?」


 ダッキに促される形でリッカもやっと答えに辿り着く。


「ダンジョンは……その大地のエネルギーを利用して作られてる。そして、作られる場所は、龍穴の上!?」


「フフフ。やぁっと小娘でも理解できましたか? ……まったく、小娘にあれこれ教えるのは、骨が折れます。では、これにてわたくしの講義はおしまい。先に戻ります」


 ダッキはスタスタと温泉を後にして脱衣場の方へと去っていく。


「待って、私も」


 その後を追うようにリッカも温泉から上がっていく。

 二人が脱衣場に行くのを見計らい、ソウケンは大きく息を吐いた。


「ふぅ……。あれは、目に毒だ」


 なんの事もない。ソウケンも男児。

 リッカの裸体を前に少しばかり動揺していたのだった。


 脱衣場では、リッカが手拭てぬぐいで体を拭き、タマに教えられた通りに浴衣を着込んでいた。


「私に聞きたいことが、まだあるようですね?」


 着替えを行うその背に向かってダッキが声をかけた。


「うん。……ダッキは、どう思ってる、この国に同時に五つのダンジョンが出来たこと」


 着替えの手を止めることなくリッカが聞く。


「まぁ、一つなら偶然で済ますこともできますが、それが五つとなると……」


 ダッキが怪しくニヤリと嗤った。


「誰かが裏で糸を引いてる?」


「フフフ。そう考えるのが必然。アカツナ(頭の固い侍)がダンジョンの作り方など分かりようがありません。誰ぞあの小僧に甘言を耳打ちした者がおるのでしょう」


 つまりは、此度のヤマトでのダンジョン騒動、何者かの手引きによるものだとするのがダッキの見解であった。

 

 それを聞いたリッカの心の内に暗い影が射すのだった。


◇◇◇


 ヤマト本土より西に三里ほどにある絶海の孤島。暗雲立ち込めるこの島は古くより流刑るけいの地として、利用されてきた『鬼ヶ島』である。


 そこに今にも朽ち果てんとした小さな社が一つ。

 とうに打ち捨てられ、奉る神も居らぬ社の中に、男が二人。


 荒れた天候の中、蝋燭の灯りもなく、頼りになるのは時折落ちる稲光のみである。


 ピシャッ!!


 稲光りに照らされた男達。


 一人は、すでに死人であると言われても不思議ではないほどに痩せ細った老人。

 頭髪は全て抜け落ち、眼窩は窪み髑髏のようである。


 着ているかみしもは長い月日でボロとなっているが細部をみれば美しい金の刺繍が見て取れる。


 ピシャッ!!


 再び稲光りが部屋を照らす。


 死人のような男の前に片ひざをついて座る男。

 その出で立ちは、漆黒の狩衣かりぎぬを着込み、眼前に胡座をかいて座る老人とは正反対に小綺麗な身なりをしている。


 彼の者、正体を西の都に根を下ろす陰陽寮おんみょうりょうが筆頭。名を賀茂道明カモノ・ミチアキという。


 武士の世となりその存在は遥か彼方に忘れ去られたはずの陰陽師が、誰に聞かれるわけでもあるまいに潜めた声で老人に語りかける。


「……様の御命令通り、種は撒きました」


 それを聞き、老人は抜けた歯を見せびらかすかの様に嗤った。


「でかしたぞ、ミチアキ!! これで不老不死の力は我らが手中!! ついについに我がヤマトの国を治める時が来っ……うぐぅっ!」


「大丈夫ですか?」


 老人は興奮し過ぎたためか、胸の中央を押さえ苦しみだした。

 その肩をミチアキが支え、懐から折りたたまれた薬包紙を取り出すと、老人に中の薬を飲ませた。


 その際、ミチアキが老人の名を呼んだ。


――大丈夫ですか、玄鶴ゲンカク様と。

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