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片腕の侍―異世界の極東島国にて突如出現した謎のダンジョンを閉じる―  作者: ポンコツロボ太


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第7話 別れ道の先……。事の起こり

 ソウケン達は、早朝に旅籠はたごを出立し中立なかつ街道を更に西へ西へと歩みを進めていた。

 もう目的地までは目と鼻の先という所で、ソウケンが足を止める。


「すまん、リッカ殿。火急の用とは承知の上なのだが、一つ寄り道をさせてもらえないだろうか?」


 それは、目的地である山籠宿やまごめじゅくへと伸びる山道と、秋津平野あきつのへいやへと向かう別れ道のことだった。


「どこに行く?」


 リッカが問うた。


「ん……」


 その問いに対しソウケンが僅かに言い淀む様子を見て、ダッキが口添えをするように言葉を掛ける。


「ソウ様の行きたい場所は、それほど遠い場所ではありませんでしょ?」


「ああ、一刻ほどで戻ってこられると思う。もし拙者に着いてくるのが面倒ならば、ここで休んで待っていてもらっても構わない」


 態度とは裏腹にソウケンの意志は固いようだった。


 ダッキはソウケンの表情を見て、道の先に足を踏み出した。


「そんな寂しい事は言いっこなしですよう。私もソウ様について参りましょう」


「……わかった。私も行く」


 ダッキに続きリッカも秋津平野に向かって歩き出す。

 ソウケンは二人に向かって頭を下げた。


「かたじけない」


 前を行く二人は何も語らず歩く。その優しさにソウケンは少し微笑み、少し遅れて歩き出した。


 そうして半刻ほど林道を進めば、左手が切り立つ様な急勾配の斜面に、右手が急流の川が流れる場所へと出た。


「……」


 そこで、ソウケンは足を止めジッと道の先を見つめる。


「……ここが来たかった場所?」


 どこか話しかけづらい雰囲気を放つソウケンにリッカが問う。


「ああ……いつか、いつか此の地にリンさんと参ろうと思っておった……」


 そう言うとソウケンは刀に付いた銀の鈴を撫で、その場でしゃがみ込んだ。

 そして左手のみの片合掌をして、目を閉じる。


「……」


 リッカ達もソウケンから醸し出される空気に、しばしの沈黙を守る。


 ただただ激しく流れる川の音だけが、その場に響いた。


 その沈黙を破ったのは、拝み終わったソウケンだった。


 ソウケンは立ち上がると、袴の裾をパンパンと二度ほど叩き、リッカ達の方へと振り返る。


「時間を取らせて、すまなかったな……。この地には拙者の……いや、アサダの道場の兄弟子たちが眠っておるのだ」


「……そう」


 リッカがいつもの通りに短く返事を返すと、ソウケンは「そうなのだ」と薄く笑って来た道を引き返し始めた。


「もう良いのですか?」


 ソウケンの足元を歩くダッキがソウケンを見上げた。その表情は、いつもと変わらない。


「ああ。拙者の我儘わがままを聞いてもらって、すまなんだ」


「大丈夫」


 ソウケンに追いつくとリッカは、歩幅を同じくして並んで歩く。


「…………」


 皆、口を閉じて黙々と歩き続けるのだが、そこにソウケンが訥々《とつとつ》と語りだした。


彼処あそこでな、兄弟子たちは味方であるはずの赤城アカギの軍勢に裏切られ散っていったのだ。皆、強き者たちであったのに……世は無情であるな……」


 ソウケンが何を思うのか、菅笠すげがさがその顔を覆い隠し、表情を読むことは出来ない。


「……どうして? どうして、ヤマトはそんなに長い間、戦争をした?」


 リッカはこれまでダンジョンを閉じることだけを考えていたのだが、少しだけこの国がなぜ戦国時代と呼ばれるほどの長きにわたる時を戦に費やしてきたのか疑問に思った。


「そうで……あるなぁ。拙者も事の始まりに生きていた訳ではないから、間違いがあるやもしれんが……」


 そう前置きをして、ソウケンは自分の知る戦国の始まりを語りだした。


「事の起こりは、このヤマト全土を手中に収めんとした一人の男から始まったと聞いている。その男、名を織川信勝オガワ・ノブカツと言ってな。彼がヤマトの国の中央である中立なかつ地方を支配した事から始まるのだ。彼はこれを足がかりに全国制覇を成さんと、周辺諸侯へ戦を仕掛けていくに至った。そしてノブカツ公には、それを成すための忠実な腹心が二人いた。一人は富岳玄鶴フガク・ゲンカク、そしてもう一人は東條家光トウジョウ・イエミツ


 知った名前が出たことでリッカが反応する。


「トウジョウって、ここの王様の?」


「ああ、今の将軍であらせられる東條家時トウジョウ・イエトキ様のお父上に当たる方だ。ノブカツ公は西の攻めをフガクに、東の攻めをトウジョウ様に任せることとしたのだが、夢半ばでノブカツ公は病死してしまった。そして、仕える主を失った二人は、どちらがその後を継ぐのか争うこととなったのだ……」


「それが、戦の始まり?」


「ああ、そこから三十年近くヤマトは戦乱の世が訪れたのだ。多くの命が失われながらも、何とかトウジョウ様がフガクを倒したのが数年ほど前だ。……しかし、やっと泰平たいへいの世が訪れると思った矢先に、これだ。つくづくこの国は戦うことをやめられんのだな……」


 菅笠の下の顔に暗い影が差すのを見たダッキは、ソウケンに言葉をかけてやることにした。


「その考えは違いますよう。人が生きるということは常に戦いなのでありますよう。その規模がただ大きければ名がいくさと変わるだけの事。だから、ソウ様……どうか思い悩むのは、おやめくださいな」


 ダッキの励ましの言葉にソウケンの顔に笑顔が戻る。


「ハハハ。そういう考えもあるのだな……。ダッキの言葉、ありがたく心に留め置くとしよう。すまんな、ダッキ。少し肩の荷が降りた気がする」


「フフフ。かまいませんよう」


 ソウケン達が纏う空気が和らいだような気がした。


「では、別れ道まで戻ったら少し休もう。拙者いささか腹が減りもうした。宿で作ってもらった握り飯を頂こう」


「うん。それは良い」


 リッカの足の動きが早まると、その背に向かってダッキが声を掛けた。


「もう……。またそのように意気込んで。団子の二の舞になるのはごめんですよう。ソウ様からも言ってやってくださいましな」


 ソウケンが言葉を挟むよりも早くリッカが一言。


「大丈夫」


 あの惨事を招いたにも関わらず、その自信はどこから来るものなのか。

 リッカは急ぎ足で一人道をすたすたと歩いて行く。


 その様子を見たダッキは呆れた顔でソウケンを見上げると、ソウケンもまた肩をすくめて苦笑いを返すのだった。


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