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片腕の侍―異世界の極東島国にて突如出現した謎のダンジョンを閉じる―  作者: ポンコツロボ太


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エピローグ

 御上おかみへの報告は何も知らぬアカツナの奥方のため、リッカたちと相談し少し変えてあった。


 報告の内容はこうだ。


 森の奥深くにあった魔石が暴走し、ダンジョンへと変化したことが事の起因である。

 それを食い止めるため野牛一門と、冒険者リッカロッカ、ギルドマスタースクザが果敢にもダンジョンに挑む事となった。

 モンスターたちとの死闘の末、アカツナ達野牛一門の犠牲により、無事に元の森へと返すことに成功した。ということになったのだった。


「良かったんですかい、ソウさん?」


 事の顛末てんまつを聞いたタマが縁側に座るソウケンに茶を出しながら尋ねた。

 アカツナに受けた切り傷はすでに癒え、傷跡もほとんど残っていないソウケンは穏やかに笑う。


「かまわん、かまわん。犠牲が出たのは無念であるがリッカ殿たちが無事ならそれで良い」


 すでにソウケンの屋敷には、リッカの姿はない。

 ダンジョンが消えてしまえば冒険者は必要ないとスクザと共に衣笠藩を出立していたのだ。

 

「はぁ。まったくお人よしですよ、ソウさんは」


「フフフ。まこと、そうでありますなぁ……」


 タマの意見に同調するように、なまめかしい声が響いた。

 その瞬間、タマの顔が獣のごとく牙を向く。


「また性懲しょうこりもなく来やがったな、この女狐めぎつねが!!」


 庭先にいたのはいつぞや森の泉まで案内してくれた狐であった。

 その狐が流ちょうに人の言葉を話す。


 この狐、何を隠そうダッキの分身であったのだ。アカツナに脇差を刺される直前、ありったけの力を捻出して尾の一本を分離していたらしいのだ。

 しかし今ではその力のほとんどはすでに失われ、タマの喧嘩相手にまで格下げされている。


「あら? 臭い臭いと思おていたら、どこぞの田舎狸じゃありませんか。ソウ様の家にずけずけと恥ずかしげもなく上がり込んで。まぁ、なんと下品な事」


「なんだとぉお!!!」


 怒りが頂点に達したのか、タマは変化の術を解いて狸姿で庭に降り立つ。

 二匹が牙をむき出しに「グルルルル……」と喉を鳴らして威嚇し合う。


「これこれ。そんなコンコン、ポンポコと喧嘩するな」


「ちょっと待ってくださいよ、ソウさん。オイラ、ポンポコなんてかっこ悪い怒り方しませんぜぇ?」


「フン。私もこんな田舎狸なんぞと喧嘩なんてしませんよぉ。ねぇ、ソウ様」


 ダッキはソウケンの足にスリスリと顔を擦り付けた。


 どうもアカツナの刃から自分を守ってくれたとソウケンに懐いてしまっているのだった。

 リッカの出て行ったあとも、ソウケンの屋敷は騒がしい。


 そんな折、控えめに玄関の戸が叩かれる音が辛うじてソウケンの耳に届いた。


「おろ?」

「あらら? 珍しいですね、客人ですかい?」


 狸姿のタマが丸っこい耳をそばだてながらソウケンを見る。

 ソウケンは首を傾げながらも玄関に向かって声を掛けた。


「しばし、待たれよ」


 狭い廊下を歩き裸足のまま玄関に降りると、ガタつく戸を引いてやる。


「すまん、待たせ……た?」


 ソウケンは表に立っていた人物を見るなり、固まってしまった。


 ソウケンの目の前に立つのは、新緑の瑠璃るりの瞳に、陽光を反射して輝く白銀の髪。風に泳ぐその長髪からは長く先の尖った耳が覗く。

 いつも通りその顔に張り付く表情を読み取ることは難しい。


「リ……ッカ殿?」

「うん」


 数日前に、衣笠きぬがさ藩を離れたリッカが、何故かソウケンの目の前に立っていた。


 もはや今生の別れだと思っていたソウケンは、思いもよらぬ早い再開に目を白黒させた。


「どうしたのだ? もうこの場には要は無い……はずであろう?」


 おそるおそるリッカになぜこの場にいるのか尋ねると、リッカは手に持っていた一通の手紙をソウケンに差し出した。


「これを届けに来た」


「え? あ……ああ、これはご丁寧にどうもありがとう。えっと……これは、どちらから……」


 手紙を受け取りながらソウケンは送り主の事を聞いてみるが、リッカは「読めばわかる」と、言うのみで内容を一切教えてくれない。

 

 しかたなく、ソウケンはつづら折りにされた手紙を開き、目を通す。


「なっ!!! これは将軍トウジョウ・イエトキ様からの書状ではないか!!?」


 まっさきに差出人の名を確かめたソウケンは驚きの声を上げ、リッカの顔をうかがうが、ただ先を続きを読めと顎先で示すだけ。


 ソウケンは仕方なく、書状の続きを読むことにした。


 そこに書かれていたのは、今回のダンジョン騒動の真相と、それを秘密にしてやると言うこと。


 そして……


「なっ!!!」


 最後の一文を読むなりソウケンは再び驚きの声を上げ、あまりの事に手紙を手から落としてしまった。

 それはヒラヒラとソウケンの足元へと落ちた。


「もう……大きな声なんか出して。ソウさん、一体どうしたんで……あっ!! 姉御!?」


 町娘姿で現れたタマがリッカを見て喜びの声を上げた。

 タマの後を狐のダッキがとことこと現れ、地面に落ちた手紙に目を通す。


 タマはリッカとの再会を手を取り喜んでいるが、その後ろではソウケンが何やら渋い顔をして頭を抱え悩んでいた。


 それらを尻目にダッキはすべての文を読み終わると、口の端をつり上げニタリと微笑んでソウケンを見上げた。


「フフフフフ。ソウ様、これから忙しくなりそうでありますねぇ……」


「……はぁ」


 ソウケンはため息を零し再び手紙を取り、何かの間違いではないかともう一度中身に目を通す。

 そこには間違いなくこう書かれているのだった。


 此度の活躍、誠に見事成り。よって、汝が為、ここに新しく幕府内に役職を設ける事と相成(そうろ)う。

 此の役職、大和の国に起こる『だんじょん』なる脅威打ち払わんとする事、常とせん。


 此れ、煤瓦壮健を筆頭()()()()()()方役に任命す。

 

 東條家時


 手紙を再び折り畳むと同時に、リッカがソウケンの手を取る。

 その顔には珍しく微かな微笑みをたたええて言う。


「さあ、行こう」


 リッカに手を引かれソウケンは外へと飛び出した。


 第一幕終幕

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