第18話 活路を開かんが為……
「「うおおお!!!」」
気合いを乗せた発声で、侍たちは次々にモンスターに向かってゆく。
ゴブリンをうまく打ち倒す者、オークと切り結び、その怪力に散る者。集団でトロルに襲い掛かる者。全員が必死にモンスターと打ち合っていた。
「……お前ら」
その姿を見て、自分の教え導いた武士道が間違いではなかったと、アカツナの胸に熱き感情がほとばしる。
そして、自分も負けてはいられないと、モンスターの群れに打って出た。
「我、ヤギュウ・ジュウベイ・アカツナ成り!! お前らのそっ首、もらい受ける!! いざ、勝負、勝負ぅうっ!!」
身のこなしは流る川の如く流麗でありながら、アカツナの刃のすさまじさ。
若侍の太刀では歯が立たなかった、鎧のようなオークの筋肉をいとも容易く両断し、トロルの巨体も一刀のもとに切り伏せる。
アカツナの通った後にはモンスターの死骸の山が積み重なった。
「す、すさまじいの……」
その様相を見てスクザは感嘆の声を上げた。一度御前試合で打ち合ってはいるものの、戦場でのアカツナの躍進は凄まじいものがあった。
しかし、現状その戦いぶりに見とれている暇はない。
「よそ見しない」
リッカが走り抜け様に注意を促すと、スクザはすぐに視線を敵へと戻す。
「すまん、先生。ワシも後に続こうぞ!! ガハハハ!」
巨大な戦斧を頭上で振り回しながら、モンスターの群れへと突撃した。回転の遠心力をそのまま利用しスクザが戦斧を振り下ろせば、トロルの巨体もゴブリンの群れと共に粉々にすりつぶした。
皆の様子を目端にとらえながら、リッカもモンスターの群れの中を縫うように走り抜け、すれ違いざまにモンスター急所を的確に突いて行く。
昨日からの連戦に次ぐ連戦。そして何度かの魔法の発動がリッカの体を蝕みつつあった。
疲労困憊を悟らせない顔色にも、わずかな影が差す。
それでも、彼女は戦場を駆け巡る。それは、若き侍たちを守るべく彼らに向かうモンスターを少しでも多く間引くための疾走であった。
三人の活躍と若侍たちの奮闘により、多くの犠牲を出しながらもモンスターの群れを蹂躙し、森の奥へと向かうことに成功していた。
「ガハハハ!! これなら、どうにかなりそうじゃのぉ。のお、アカツナ!?」
少しばかり離れた位置で戦うアカツナに向けてスクザが余裕のエールを送る。
「そうです……っな!!」
向ってくるゴブリンを一網打尽に打ち取りながらアカツナも答える。
彼らの顔に疲労の色はありつつも、上手く敵を倒せているという自信から体運びには十分の余裕が見て取れた。
しかし、リッカは違った。
「油断はダメ。……来る」
あまり大きな声ではないが戦いの場でも彼女の声はしっかりと聞き取ることが不思議と出来ていた。
その声に少しばかりの警告の音が混じっている。
彼女の警告から、すぐに事態は一変した。
「うああああああっ!!」
「あついいいいい!!」
三人の少し後ろで戦っていた若侍の集団が突如、火に包まれたのだ。
「なっ!?」
「バカな!! 魔法じゃとっ!!」
その光景を見て、アカツナは見慣れぬ魔法により、そしてスクザはヤマトでは使えるはずのない魔法が行使されたという現実に驚きの声を上げた。
かろうじて炎を避けたヤマギ・シケンゴが這這の体でリッカたちの元へと這うようにやってきた。
魔法の存在により彼らは再び前進を止めざるおえなくなった。
森のわずかに開けた場所で彼らは背中を預け合い自分たちを取り囲む森を、木々の間を警戒する。
先ほどまでゴブリンたちの喚き声が響いていた森が、今ではしんと静まり返っていた。
「……師匠、これはどういう事なのでしょうか?」
静寂に耐えきれず、ヤマギシが隣にいるアカツナに声を掛けた。
「わからん……しかし、あれは……」
警戒を緩めることなくアカツナはスクザを見る。
「ああ、確かにあれは魔法じゃった。この国では使えんと思っておったのだが……。先生はどう思いますか?」
「不確かだけど、モンスター達はこのダンジョンから魔力が供給されているんだと思う。だから、魔法が使える」
「なっ、なんですと!!?」
この絶望的な事実をこの場でスクザだけが正しく理解をし頭を抱えた。
「かぁ!! これじゃジリ貧……どうすれば良いんじゃぁ」
「弱音なんて吐いてる場合じゃない」
スクザの弱音をバッサリと切り捨て、リッカは真剣な目で森のある一点を見つめていた。
彼女の見つめる先、暗き森の中から音もなく姿を表す者が在った。
その姿は、星無き夜のような漆黒の外套を深々と頭まで被り、わずかに覗くその顔には肉がなく頭蓋がぼやりと浮かぶ。
「ひぃぃいい……」
その姿にヤマギシは悲鳴をあげた。
「な、なんなのだ、あれは……」
アカツナの疑問に答えるように、リッカがぽつりと呟く。
「賢者の死骸」
賢者の死骸――
それは古の賢者が不老不死を手に入れんとした成れの果て。
彼らはアンデッドでありながら、高等な魔法を行使し、ゴンドワート大陸の冒険者でも手を焼くモンスターであった。
それが八体。
カチカチとむき出しの歯を打ち鳴らし、賢者の死骸はこちらをあざ笑っているようでさえあった。
そして、それに付き従うかのように魔狼までもが次々に森の奥からゆるりと姿を表す。
「これは、厄介なことになりましたな。先生」
なかば諦めの境地に達しつつあるスクザがリッカに声を掛けた。
「……仕方ない。私が足止めをするから皆は逃げて」
それが今一番の最良の策であると言わんばかりのリッカの言葉に、スクザは反対しようと声を上げかけるが、それを遮るのもまたリッカの声だった。
「私も……魔法が使える。でも、皆がいたら上手く制御できない。だから、ここから離れてほしい」
「そ、それは本当ですか?」
ここで無駄な嘘などリッカが付くはずないことはスクザが一番理解していたが、思わず聞き返してしまった。
それに対して、リッカは静かに頷いて答えてやる。
そう、リッカは嘘はついていない。しかし、肝心な事も話していないのだ。
彼女の魔法は、己が魂を削り魔力へと無理に変換している。
おそらく、ここにいるモンスターを打ち払うほどの魔法を使えば自分の命は尽きてしまうであろうことは伏せていた。
しかし、リッカの言葉に再び仲間たちの顔に希望の火がともる。
この後、彼らが無事に森の外へと出ることが出来るという保証はない。
それでも、リッカが此処で命を燃やさねば、その希望さえも絶たれてしまうのだ。
リッカは、活路を開くために魔力を己が内から捻出する。
自分でも魂が削られていくのが苦痛として理解できた。それでも細く息を吐き、周りに悟られることないよう顔色を変えることなく更に魔力を練り続けた。
(撃てても、あと数発が限界か……)
自分の限界を知ってなお、彼女は魔力を自分の掌に集中させる。
霧散していく魔力を補うため、いつも以上の出力を必要とする非効率な魔法は轟轟と燃え盛る炎へと転じた。
その業火を魔力により凝縮し超高温の小さな球体に変える。
賢者の死骸もリッカの魔法に反応して、魔力を練るがわずかにリッカの魔法の完成が早い。
リッカが放つは獄熱線。
超超高温の熱線で万物すべてを焼き切る魔法である。
それを放たんとした瞬間、遠方から声が聞こえた。
「おおい、リッカ殿ぉ……。」
それは、間違いなくソウケンの声であった。
リッカを探し求め遂に、この場にたどり着くに至ったのだ。




