未知の領域へ
「今日は泊まり込みでダンジョンに入るつもりだけど、猪狩君は大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。
それくらいの準備は常にしていますし、装備もここへ預けてありますので」
と、猪狩君は探索者協会に預けていた装備等を受け取り、着替えに向かった。
さすがにあんなゴスロリっぽい服装では、ダンジョン探索は無茶だからね。
いや、私服の俺が言うのもなんだが……。
というか今の猪狩君って、入る更衣室は男子でいいのか……?
それとも多目的トイレで着替えるのかな?
そしてしばらくして戻ってきた猪狩君は、聖職者のシスターみたいな恰好になっていた。
そんな服装で、登山にも使えるであろう大きなリュックサックを背負っているのだから、なんだかシュールだ。
なお、現在の猪狩君は、髪型を変える為にカツラを被っているようだが、それはそのままだ。
戦闘には邪魔になるかもしれないが、それでもそこは譲れないラインらしい。
ともかくそんな訳で、俺のパーティーに猪狩君が仮加入したのだが、ダンジョンの浅い場所で、彼とのチームワークについて検証する……ということもなく、そのまま深い場所へと進むことにした。
まだ猪狩君の実力を把握しきれていないけど、浅いところにいる弱い魔物を相手にしていては、稼ぎにならないからな。
多少のリスクはあっても、素材価値が高くて強い魔物がいる場所へと進ませてもらおう。
「で、お兄ちゃん、今日はどこへ行くの?」
「今回はまだマップを埋めてない場所へ、進もうと思う」
俺の「オートマッピング」のスキルには、行った場所だけ脳内に表示されるのだが、分岐点については実際に目で見える範囲の所までは表示されている。
その先のマップが埋められないまま、空白を放置した状態では気持が悪い。
とはいえ、すでに他のパーティーが攻略済みの道もある訳で、その辺の情報をまとめた地図は探索者協会でも売られている。
なので既知の道については、スルーするけどね。
つまり俺達が進むのは、まだ誰も行ったことが無い道だ。
ただ、その岐路まで行くには、ちょっと距離がある。
前人未到の場所だからな……。
だから今回は、泊まり込みになるだろう。
そこに未成年の猪狩君を連れていくのは、本来なら保護者の許可を得るとか、結構面倒な手続きが必要になりそうだが、彼の叔母さんであり探索者協会支部の副支部長である茲富さんが許可してくれたので、スムーズにことは進んだ。
というか、猪狩君の女装について、親御さんはどう思っているんだ?
理解があるのか、それとも放任主義なのか……。
その辺を迂闊に聞くと、とんでもない爆弾が出てきそうで怖い……。
本当なら「息子さんをこんな風にしてしまってゴメンナサイ」と、謝罪に行かなければならないのかもしれないけど、さすがにそれはなぁ……。
なるべく他人の家庭事情には踏み込みたくないよ……。
ともかく未知の分岐点まで進めば、多少は強い魔物に遭遇するリスクもあるし、猪狩君にとっては厳しい戦いになる可能性もある。
でも俺と水杜と、そしてコボルト達がいれば戦力は十分。
おそらく猪狩君が戦闘で活躍することは、ほとんど無いだろう。
「わうん(スライムだ)!」
「わおん(倒すよ)!」
「わん(了解)」
実際、弱い魔物が相手なら、コボルト達だけでも事足りる。
そこに俺が加われば、そこそこ強い魔物にだって対応できる。
しかも戦闘は短時間で無傷のまま終わっているから、回復系の猪狩君には、まったくすることが無い。
でもだからと言って、猪狩君を邪魔者扱いするつもりは無いし、探索者としてアドバイスを求められれば、しっかりと答えるつもりだけどね……。
●:男の娘2人と、わんこ3匹と、妖精1人という変則的なパーティーやね
●:可愛いと可愛いが合わさって、最強に見える 30000P
●:その可愛さが探索には、さほど役に立たないのは残念だがな……
●ナオ:そうですね……可愛さはダンジョン攻略には、まったく役に立たないですよねぇ……。
●:目の保養にはなっとるやろがい!
ちなみに今は猪狩君がいるので、視聴者の神々には音声で話しかけることはできない。
だから水杜のように書き込むことができるスキルを貰い、必要があればチャットで神様達と会話することになった。
いや、別に話すことはそんなに無いけどね。
むしろ配信については、ある程度は水杜に任せているから、俺ができることは少ない。
それでも神様達が好き勝手会話しているのを見ているだけで、良い暇つぶしにはなるが……。
ダンジョンり道のりって、戦闘が無いとマジで暇だからな……。
……って、油断するとまた転移の罠とかに引っかかるかもしれないから、そこは気を付けなければ……。
で、半日ほど薄暗いダンジョンの中を進む。
そろそろ未踏破領域の入り口に辿り着くが、ここまで来るのに数十kmは歩いた。
俺やコボルト達には、動物特性でそれなりに体力があるし、水杜は幻術で歩いているように見えて、実際には空中に浮いて移動しているからさほど疲れてはいない。
だけど普通の人間でしかない猪狩君は、ちょっと辛そうだった。
探索者としてそれなりに活動しているからか、俺達のペースに全くついてこれないほど体力が無いという訳ではないようだが、それでも足には少なからずダメージが蓄積しているようだ。
う~ん……。
彼の足の裏に血豆とかが出来ていても、不思議出来ないな……。
「少し休みますか?」
「いえ、少し前にも休んだばかりなので、大丈夫です」
俺の呼びかけに対して、猪狩君は固辞した。
……ちょっと前とは言っても、1時間以上前なんだけどな……。
あ、猪狩君が、自分の足に回復魔法をかけている……。
戦闘でもないのに、余計な魔力の消耗をするな……と、思わないでも無いが、彼も頑張っているので言いにくい。
そこへ──、
「お兄ちゃん、私疲れた」
「じゃあ、休もう」
水杜が休憩を促す。
空気が読める妹である。
俺は「アイテムボックス」からレジャーシートを取り出して床に敷き、腰を下ろした。
他の者達もそれに倣う。
そして水属性魔法で掌に水を生み出し、コボルト達に飲ませた。
一生懸命にペロペロしていて可愛い。
しかし休憩時間は長く続かなかった。
何かが近づいてくる気配がある。
魔物か!
……でも、なんだか「カコッ、カコッ」と、変な音が聞こえた。
どこかで似たような音を聞いたことがあるような気がするけど、これって足音だよねぇ!?
庭のミニトマトとキュウリが、1日で食べきれないほど収穫できるモードに入りました。




