新しい自分
僕の名前は猪狩走。
高校1年生の男子……だけど、初めて会う殆どの人からは、女子だと思われてしまうという容貌をしている。
それはもっと小さな子供のころからで、昔から「可愛い、可愛い」と、よく言われていたものだ。
ただ、そんな風に褒められても、男としては複雑な気分だった。
だから男らしく見えるように、身体を鍛えたり、服装や髪形に気を使ったりしたこともあるけれど、いくら身体を鍛えても筋肉がついたようには見えないし、背も伸びなければガタイも良くならない。
だから髪型や服装を男らしくしようとしても、まったく僕には似合ってなくて、何かのコスプレのようになってしまう。
なので無理に男らしい恰好をすることは、やめてしまった。
まあ、だからと言って、女の子のような恰好をするのも違うので、せめてもの抵抗として中性的な格好をしているけど……。
あ、身体を鍛えたことについては、親族が関わっている関係で始めた探索者をする上で、一応役には立っている。
けれど、前衛で戦えるほどではないので、後衛で甘んじることになり、個人的には情けなく感じている。
そんな僕の在り方が変わる切っ掛けは、ある人との出会いだった。
その人の名前は、神無月ナオさん。
ダンジョンで行方不明になったという人。
僕の「叔母さん」……と言うと怒られるので、「香菜花お姉ちゃん」と呼んでいる人が、僕よりも可愛いと評していた人物──。
……って、その人が行方不明になった所為で、お姉ちゃんが半狂乱になっているんだけど……。
そんなにお姉ちゃんが執着するなんて、どんな人なんだろう?……と、興味を持った。
実際、その人の安否が確認されたのが異世界だというのだから、ちょっと普通の人ではないな……という印象を持ってしまったのも無理からぬことだ。
だからお姉ちゃんが、その人を迎えに行くと言い出した時、僕も同行して顔を見てやろうと思った。
それが僕の人生を、大きく狂わせることになるとも知らずに……。
確かにその人──ナオさんを一目見て、僕は心を奪われた。
獣人は以前にも見たことはあるけど、ナオさんはそのどれとも違う印象なのだ。
まるで妖精のように可憐で……確かに僕よりも可愛い。
自慢じゃないけど、僕より可愛い女の人って、アイドルやモデルとか有名人がほとんどで、一般人にはまずいないってレベルだ。
ちょっとした敗北感と嫉妬心も感じて、案外自分の可愛さに誇りを持っていたのだと自覚し、物凄く複雑な心境にもなった。
でもそれ以上に、僕はあの人に魅了されてしまったんだ。
その結果、生まれて初めて告白という物をしてしまったんだけど、まさかナオさんが男の人だったなんて……!
えっ?……えっ!?
どんなアイドルとかよりも可愛いのに……!?
いや、お姉ちゃんが執着していた理由がわかって、納得もしたけど……。
昔から美少年とか好きだったからなぁ……。
それはともかく、ナオさんが男の人だということを知っても、僕の気持ちは驚くほど変わらなかった。
性別については、男とも女とも知れない中途半端な存在として生きてきた所為か、そんなに気にならなかった。
むしろ僕と似たような存在だということを知って、強い共感や親近感を覚えてしまったんだ。
ようやく仲間を見つけたという、そんな気持ちというか……。
だからどうしても、あの人のことを諦める気にはなれなかった。
しかし諦めることができないとして、どうすればいい……?
「ランちゃん、何かお悩み?
お姉さんが聞きましょうか?」
その時、悩んでいる僕に気づいた香菜花お姉ちゃんが、声をかけてきた。
でも、恋愛の悩みなんて、叔母さんには話したくないし、お姉ちゃんもナオさんのことを好きなんだよね……?
とても話せない……けど、こういう時のお姉ちゃんはしつこい。
半分面白がっているからだ。
あまりにもしつこく聞いてくるから、僕はつい話してしまった。
するとお姉ちゃんは──、
「そういうことなら、お姉ちゃんが手伝ってあげるわ!」
と、協力を申し出てくれた。
「え……?
お姉ちゃんって、ナオさんのことが好きなんじゃないの?
僕とライバルだよ?」
「いや、私は可愛いのを眺めて愛でるタイプだから。
それに私がナオちゃんに手を出すと事案に見えちゃうから、すっっっごく残念だけどあまり触れられないし……。
まあ、実際には私の方が年下なんだけどねぇ……」
「えっ!?」
ナオさんって、あの見た目で大人なんだ……。
でも言われてみれば、妹さんは僕と同い年くらいだったから、僕よりも年上で当然なのか。
……そうか、僕が相手にされないのは性別だけの問題ではなく、あの人から見たら僕が子供に見えているっていうこともあるのかな……?
だとしたら、今の僕のままではどうしようもないんじゃ……?
ここはお姉ちゃんに頼るしかない……?
「でも……手伝うって、どうするの……?」
「そうね……ナオちゃんの恋愛対象が女性なんだから、ランちゃんが女の子になってしまえばいいんじゃないかしら?
見た目だけでもそうなれば、ナオちゃんも少しは気が変わるかも……」
「僕が……女の子に……!?」
そりゃあ……昔から女の子みたいだと言われてきたから、見た目だけなら可能なのもしれないけど……。
だからと言って、今までコンプレックスに感じていたことに、あえて挑戦するって……!?
そのことに葛藤が無いと言えば噓になる。
だけど──、
「服の選び方とかメイクの仕方とか、色々と教えることができると思うけど?」
「それじゃあ……お願い……しようかな?」
お姉ちゃんに頼ることにした。
その結果、僕は……ううん、私は大きく在り方を変えることになった。
そして男らしさにこだわることをやめたからなのか、不思議と気持ちが楽になったんだよね……。
今の方が自然体というか……。
それだけでも、変わった意味はあるのかもしれないと思ったよ。
だけどナオさんに受け入れてもらえるかどうか……それが問題だ……。
このたびの震災に遭われた方々へ、心よりお見舞い申し上げます。




