389:スカーレットイール
年明けなので、お年玉として本日は三話更新となっております。
こちらは二話目です。
『トビィ。スカーレットイールです』
「イール種か。思えば坑道で会った覚えはなかったな」
緋色の体表を持ったウナギの名称はスカーレットイール。
俺が見たのは……『第一次防衛戦』の時だったな。
で、こいつが先ほどのビームのような射程フロア攻撃の使い手かと問われれば……まあまずないな。
「ウナッギィ!」
「ふんっ!」
と言うのも、イール種はデンキウナギをモチーフにした魔物であり、今俺に向かって放ってきたように電撃を飛ばして攻撃してくるからだ。
あんなビームを使えるような魔物ではない。
そして、イール種の能力はもう一つ。
俺は氷結属性も加わって冷気を纏った電撃を横に跳んで回避しつつ、複数本のサーディンダートをスカーレットイールに投げた。
「イルル」
「まっ、そうだよな」
『ブブ。厄介なぬめりですね』
が、スカーレットイールに当たったサーディンダートは僅かに火炎属性のエフェクトを出したが、刺さる事は無く逸らされる。
そのタネはスカーレットイールの表皮を覆うぬめりであり、正確に正面から攻撃を叩き込まなければ、滑ってしまってマトモなダメージにならないのだ。
「ポットォ!」
「ツゥボウ!」
「と、お前らも緋色だと油断ならないな」
ここで二体のスカーレットポットが水音を立てつつ突っ込んでくる。
その動きは意外と素早いし、当たれば重量と堅さから、馬鹿にならないダメージになりそうだ。
だが、軌道は単純だったので、俺は二体の攻撃を避けると普通に殴る。
「ぶっちゃけ無視したいな。こいつら……」
『ブン。気持ちは分かります。ブブ。ですが殲滅戦なので倒すしかありません』
で、先ほど聞こえた水音と、殴った時の感触からして、二体のスカーレットポットの中身はどちらも液体であるらしい。
油やアルコールぐらいならいいが、フロア10の環境を考えると、床を覆うパウダースノーと言う名の粒子状の水に反応して厄介な事態を引き起こすのが目に見えているようである。
それでも倒すしかないのだが。
「ウウゥゥナギイィ!」
「避けて……」
今度はスカーレットイールが突っ込んでくる。
気になるのは、スカーレットイールの移動経路に暫くの間、テカリのある液体が残されていると言う見覚えのない現象が発生している点か。
触れたら異様に滑って転倒させられるくらいはあるかもしれない。
が、それは足裏で触れればの話である。
俺はスカーレットイールの突撃をある程度の距離を保って避けると、拳を握り締める。
「殴る!」
「イルゥ!?」
そして二重推進からのパンチを、スカーレットイールの丸みとぬめりを帯びた表皮を正確に正面から捉え、貫くように叩き込む。
勿論、叩き込んだ直後に『昴』の射出も加えてだ。
結果、スカーレットイールのシールドゲージは一気に30%近く削れて吹き飛ぶ。
「よし、これなら行け……」
これならば、ランダム強化でシールド回復が強化されていなければ、シールドゲージの自然回復込みでも4発殴れば倒せる。
俺はそう判断すると、吹き飛んだスカーレットイールに追撃を仕掛けようとした。
「スラァ……」
「る?」
『!?』
そんな俺の眼前に広がったのは、明らかに意思を持って動いている緋色の液体だった。
俺が相手を認識した時、既に俺は二重推進で飛び込んでおり、ブレーキを利かせる事など出来なかった。
なので俺は真正面から相手に飛び込んでしまい……。
『トビィ! スカーレットスライムです!!』
「!?」
全身の表皮が焼かれるような感覚と共に、弾力性のある体の内側に捕らえられてしまった。
「何処に!?」
この状況でまず考えてしまったのはスカーレットスライムが何処に居たのかという単純な疑問だった。
スカーレットスライムの体はランクに合わせて緋色。
対するフロア10の基本カラーはパウダースノーの影響で白。
間違っても見逃すような組み合わせではない。
『トビィ! 急いで脱出を!』
「っ! 眠れ!」
「!? ZZZ……」
だが、その答えを落ち着いて出すには今の状況はあまりにも不味かった。
このスカーレットスライムだが、恐らくはランダム強化によって攻撃力強化を得ている。
俺のシールドは既に半分近く削られていた。
だから俺は特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを手放す事によって、スカーレットスライムに命中したと言う判定を与えて眠らせる。
「っは!」
その上で三重推進によって無理やりに脱出。
『昴』も直ぐに回収して手元に戻す。
「ウナッギィ!」
「ポットォ!」
「ツゥボゥ!」
「ぐっ……!?」
そうして脱出した俺に向かってスカーレットイールたちの攻撃が殺到。
無理やりな脱出によって体勢が崩れていた俺は攻撃を避け切れず、シールドを剥がされる。
「はぁはぁっ……。いや、油断し……少し違うか。想定外だったと言うのが正解か」
『トビィ、シールドを再展開します』
だがそこまでだ。
俺は体の何処かが傷つくよりも早く特殊弾『シールド発生』隕鉄の発動に成功。
シールドを取り戻す。
「イルル……」
「「ポットポト」」
だがその間にスカーレットイールはシールドを全回復させ、スカーレットポットたちは少しずつ距離を詰めてきている。
「なるほど。他の液体に触れていると透明化と言うか、同色になる感じだな。これは」
『ブン。そのようですね』
「ZZZ……」
そして問題のスカーレットスライムだが……居たはずの場所には、テカリのある液体による水たまりが出来ている状態になっていた。
どうやらスカーレットスライムが他の液体に触れている状態だと、認識が著しく難しくなるようだ。
そんな能力を持つ上で、全身を包まれていたとは言え、数秒でほぼシールドを全損させるだけの攻撃力を併せ持つとは……危険度が高いなんてものじゃないな。
「っ!?」
『トビィ!』
「「「!?」」」
「ZZZ……」
不意に転移エフェクトが生じる。
予告線が放たれる。
俺も、スカーレットイールにスカーレットポットたちも予告線の線上から離れる。
そして光の柱が予告線に沿って勢い良く伸びて、周囲に氷雪交じりの暴風をまき散らす。
「まだマシなタイミングだった」
『ブン。そうですね』
「「「……」」」
フロア射程のビームが終わり、舞ったパウダースノーが晴れて、視界が戻る。
スカーレットイールたちは健在。
だがスカーレットスライムの姿は……何処にもなかった。
今のビームに巻き込まれて死んだとは思えないので、ビームで叩き起こされてから、再び潜伏したと考えるべきだろう。
「倒す順番はイール、スライム、ポットと考えておこう」
『ブン』
俺は改めて戦闘の構えを取った。




