369:消灯のフロア6
「あ、あー……」
『これはもう確定しましたね』
フロア6である。
坑道予測では物理属性、露天、出現する魔物はライカンスロープは確定しているが、他は不明だったはずだ。
そんなフロア6だが……。
≪照明が落ちてしまった。復旧の見込みはなさそうだ≫
「暗闇だな」
『ブン。暗闇ですね』
ほぼ完全な暗闇に閉ざされている空間だった。
どうやらハプニングによって、普段は坑道に存在している光源が無くなってしまったようだ。
ただ、満月から数日離れた夜ぐらいには明るさがあるので、目の前が壁であるか空間であるかぐらいは分かるし、視界内で何か動いているものがあれば……まあ、集中力の状態次第では、ギリギリ分からなくもないな、たぶん。
『ブーン。トビィ、どうしましょうか?』
「対抗策は幾つかあるんだよな」
さて、この暗闇空間だが、俺以外にも多くのプレイヤーが遭遇しているハプニングらしく、他のハプニングに比べれば調査と言うか対抗策の模索は進んでいる。
一番分かり易いのは何かしらの照明を持ち込むことで、明かりに魔物が寄ってくるという問題はあるが、それ以上に状況が掴み易いという事で推奨されている。
次は暗視ゴーグルや暗視アドオン、それに暗視能力を与える特殊弾だが、照明と違って魔物に気づかれない事から、これも推奨されている方法だ。
「パンプキンアームを周囲にスカートと言うか蔓のように張り巡らせて、把握するとか」
変わり種の一つは今俺がやっているように、紐状のパーツを這わせて、周囲の状況を確認するという方法がある。
で、やってみたところ、どうやら俺が今居るのは通路部分で、通路から外れたら落下死する谷地形になっているようだ。
気を付ける必要があるな。
では移動開始。
『当たり前のように張り巡らせましたね』
「周りが分からないと戦うどころじゃないからな」
他の変わり種としては、蝙蝠のように超音波を出して地形把握するとか、犬系の頭部パーツで匂いを嗅いで把握するとかもあったか。
ああ、その気になれば地面を叩いて、その振動の伝わり方で何処まで床があるかとか、近寄ってきているのかが居ないかとかまで調べられるな。
後は……。
「ああ、こういう周囲の確認方法もあるな」
俺はサーディンダートを適当に投げる。
投げられたサーディンダートは暗闇を飛んでいき……何かに当たったところで火炎属性のエフェクトを発生させ、周囲を一瞬だけ照らし出す。
その光によれば、どうやら今回のフロア6はただの谷フロアではなく、部屋部分には細めの木が障害物のように立っているようだ。
普段なら何でもない障害物だが、この暗さと合わさると、気づかずにぶつかる事もあるかもしれないし、衝突した時の速度と体勢次第ではダメージにもなりかねないな。
気を付けられる範囲で気を付けてはおこう。
『ブブ。あの一瞬で見えるのですか?』
「何かがあったな、程度にはな」
ちなみに、この攻撃エフェクトで暗闇を照らす手段だが、可能なのは火炎属性、電撃属性、拒絶属性であり、他の属性では出来ない。
また、光の強さは威力に比例する事を考えると、相応の素材を使った武装やパーツが必要になるので、そういう意味でも一般的な手段ではないだろう。
「……。来たか」
『ブブ?』
と、俺が部屋の範囲に入ったところで、俺の肌が一瞬何かに触れたというか、震えたような感覚があった。
この暗さと肌が細かく震えるような感覚、周囲の地面に触れているものが居ない事、これらを合わせると……まあ、十中八九、蝙蝠の魔物だろうな。
問題は何処に居るかだが……攻撃されるまでは分からないな。
流石に暗闇への適性が別格過ぎる。
「と言うか露天マップで飛行系と言う事は、次から次へと寄ってきて、十分な数が集まったなら襲ってくるつもりか? これは」
『ブーン。トビィには何が居るか分かっているのですか?』
闇雲に攻撃して当てるのは……まだ無理だろうな。
肌感覚からしてまだ一体だけだし、こちらを探っているだけで攻撃もされていないから、正確な位置が分からない。
「たぶん蝙蝠。ヴァンパイア種が弱った時に変身する事も考えれば、バット種とか、そんな名前で居るはずだ」
『ブン。なるほど。しかしよく分かりますね……』
「超音波が肌を震わせる感覚は独特だからな」
『本当によく分かりますね……』
まあ、仕掛けてくるまで待つしかないな。
と言うわけで俺はさらに移動開始。
周囲の地面にパンプキンアームを這わせる事で道を確認しつつ、暗闇の中を進んでいく。
「……。本当にある程度数が揃うまで襲ってこない気だな。あるいは他の魔物と歩調を合わせてか?」
照射される超音波の向きが二方向になったな。
つまり、蝙蝠の数が増えた。
そして、数が増えたからか、少し羽音が聞こえるようになってきた。
『トビィ』
「それでもこっちから仕掛けられるような状態じゃないんだよなぁ」
だが流石にこの暗闇の空中を自由自在に飛び回る魔物を殴るとか、撃ち落とすとか、爆破するというのはなぁ……相手の行動を制限するか、もっと大量の情報を得るか、当たるを幸いにするしかない。
つまり攻められない。
「ーーー……」
「と、何か来たみたいだな」
さて、俺の前に何かが立っている。
相手の姿形はよく分からないが、体色はランクに合わせて黄緑のはずだろう。
「アオオオオオォォォォォン!!」
「ライカンスロープか」
そして、その何か……推定ライムライカンスロープは遠吠えを上げると俺に向かって飛び込む。
同時に、俺の周囲から聞こえる羽音もその音を少し変えた。
配信画面も真っ暗闇なので、ぶっちゃけ放送事故である。




