4-6 こいつほんとにいい性格してやがる(2/4)
「じゃあ……エドと二人で出かけてるのは、エドと恋人関係になったから、ってわけじゃないんだな。告白されてはないってことか?」
「されてないですね?」
「ん~……?」
いや。こっちが、ん~? なのよ。というかねえ、二人で一緒に出掛けてるっていうだけで『お前ら恋人同士なんだろ』って決め打ちされても、それは困っちゃうよ。二人で話してるだけでお前ら付き合ってんだろ~って揶揄う子供かな?
いや、イヴァン様からはそういう揶揄いとか悪意は感じなくて、本当にそう勘違いしてるだけっぽいけど……。
でもねえ、別に出かけた先で隠れてイチャイチャしたりとかしてるわけじゃないしなぁ……。大抵……なんか食べてるだけだし……。
「まあもちろん、以前より親密になっているとは思いますよ。名前と顔しか知らない人にいきなり二人で遊びに行こうとか誘われたらさすがに怖いですけど、エド様とはもう結構打ち解けていると思ってますし……。夜会の頃からよくお話しするようになりましたからね」
「ああ……。あの、リーノに任せた夜会か」
「あれが、私がエド様とマトモにゆっくり話した最初の機会でしたかね」
あの夜会も、確かにそんなに前の話じゃないんだよね……。そう考えれば、なかなかこの短期間でだいぶ距離が近くなったもんだな、とは思うよ。
「いつもエド様に誘っていただいてるんで、この間はティナお義姉様が誘ってくださった観劇に私からエド様をお誘いしたりもしたんです。クロードお兄様と四人で行って来ました。楽しかったですよ」
まあ……最初の頃は皆緊張してた感じあったり、それから馬車が故障したりとひと悶着はあったんだけどね~。
最終的にはなんか打ち解けたし、その後の観劇も劇がすごくおもしろかったしね~。
「…………ん~?」
いや、だからね。こっちが、ん~? なのよ。
「なあニコラス。エドって完全にアリスに惚れてるよな?」
「……まあ、確かにエドさんがアリスさんに好意を持っていることはかなりわかりやすいですが……ただ、それをアリスさんご本人の前で言ってしまうのは、さすがにあまりに配慮に欠けるのではないかと……」
「あ~、すまん。俺ってつい身内相手にはそういう配慮捨てちゃうんだよな! ほら、エドは従兄だけど兄みたいなもんだしな~後で謝っとくから!」
「いや、あの……それはむしろ黙っておいた方がいいやつじゃないですか?」
エド様に向かって『アリスの前で、エドってアリスに惚れてるんだろって聞いちゃった! ごめんな!』って言うの? いやいや≪ノンデリ≫にもほどがあるでしょ……。もはや逆に煽ってるよねそれ。
この、男女がそれなりに仲良くしてるとそれだけで付き合ってるのでは? みたいな発想に行き付くのって、イヴァン様って……言い方悪いけどほんと、女慣れしてなさそう~。
……まあ、それはそうか。ずっとずっとクラリス様一筋なんだもんなあ。自分の経験としての恋愛ってのをしてきてなさそうだし、そういう微妙な男女の機微とかがわからないのも仕方ないのかも?
いや、私だって別にすごく経験豊富というわけではないんだよ……でも本を読むことで疑似体験としてはしてるから。そういうのも多分イヴァン様はさぁ、全然ないわけじゃん?
「そもそもほんとなんでそういう話になってるんですか……? あの、できれば順を追って説明していただけると助かります……」
「え~だって。俺がアリスを城に一緒に連れてくとかさ~、あとクラリスのとこに一緒に連れてくとかさ~。そういうのある度にわかりやすくムッとしてたじゃんあいつ」
「えっ」
なにそれ、知らない情報が出た。
「冗談で、俺とアリスが二人だけで馬車に乗ることになったらどうする? みたいに煽ったら普通に蹴られたもんな」
「…………何やってるんですか……」
「……まあ……若様とエドさんのそれは、男兄弟同士のじゃれ合い、というか……。昔から、お二人はそのような感じですよ」
ニコラス様が微笑ましいような呆れたような複雑な表情で教えてくださった。
ふーん、普段からそういう感じなんだねえ……イヴァン様とエド様って。ふーん、お前ら、仲いいんじゃん……。
「では城までの護衛を付けることにしてはどうでしょうか、その場合はエドさんが同行してはいかがですか? と家令として提案したんですけどねえ。そうしたら、なんだかものすごい勢いで拒否していましたから……あの時は結局、……そう、シモンさんにお願いしたんでしたかね?」
「そうだったそうだった。なんかアリスにどう接していいのかわからなくて気まずい! とか言い始めて、恥ずかしがってんのか顔真っ赤にしてな……。そんな感じで、アリスと接触する可能性のある仕事がある度に俺には無理無理!! って逃げてただろ? いくらなんでも意識しすぎ……いや、もう、我が従兄ながら、本当〜にわかりやすくてな……」
わあ、すっごいニヤニヤしてる……。……なんか、すっごい楽しそうだなこの人。
「おそらく、ですが。私の覚えている限りでは、エドさんの様子が変わられたのは若様がお部屋で倒れていらしたところを、アリスさんとエドさんがお助けしたあの一件の後からですね」
「あ~……そうな、あの時かぁ……」
イヴァン様がちょっと遠くを見る目で苦笑いした。まあ、あの一件は完全にイヴァン様ご自身のやらかしだからねぇ。できれば思い出したくないだろうし、何より私の前で話題にされること自体が気まずいだろうねえ。
「あの日のアリスさんは、目を赤く腫らして泣いていらっしゃいましたから……相当怖い思いをなさったように見受けられました。……それでもとても気丈に振舞われていて……そういう姿を見て、エドさんにとってアリスさんが気になる存在になったのではないか、……というあたりが、私の見立てでしょうか」
ん? ちょっと待ってほしい、私が目を赤くして泣いてた……って? ……あぁ~、まあ、イヴァン様が倒れてたことについてびっくりして焦ってそれで涙目にはなってたかもしれないよね……?
だけど、そうかぁ。あれ、客観的に見ると泣いてたってことになるのか。……いや、待ってよ、確かにあの日のニコラス様とペルラ様が私に対してどういう扱いをしてたかを思い出したら……確かに、なんかものすごく気を使われてたような気もする……。
えぇ~そういうことかぁ、今になって時間差で意味がわかったよ……。
自分としては全然平常心で、そのまま受け答えしてたつもりだったけど。自覚がなかっただけでやっぱりそれなりには≪テンパってた≫のかなぁ?
えっじゃあそれならその自覚がなく平常のままのつもりだった私の言動と行動って、逆に『すごく無理して気丈に振舞ってる健気な女の子』みたいな感じに見えてたってことなの!?
「えぇ……そんな健気な少女像を勝手に期待されても……私、中身、これですけど……」
「自分でこれって言うなよ。まあ言いたいことはなんとなくわかる」
「いえ、きっかけとしてはそのタイミングだったかもしれませんが……。その後も、なんならその前からアリスさんのことをずっと気にかけておられましたよ、エドさんは。アリスさんの性格や行動もある程度把握なさっていて、その上で好意を持っていると思いますがね……」
「え……それはそれで逆に怖……。……そうなるといよいよ、ほんとにずっと執着されてたってことじゃないですか?」
ねえ。それは本当に……≪ストーカー≫じみてるよねえ……?
「まあ、…………見方によっては、確かにそうとも言えますね」
ニコラス様も否定しきれなかったようで、若干渋い表情で頷く。
「あの……それはそれとして、ですね。ひとつお伝えしておきたいことがあるんですが……若様」
「ん? 俺? なんだ?」
「ええとですね、あの日私が泣いていたという件についてなんですが……。私は若様が倒れていたこととか、悪いご病気なんじゃないかって想像してしまってそれが怖かったんですよ。若様に触れられたことが泣くほど怖かったわけじゃありませんから、そこは誤解なさらないでくださいね」
イヴァン様は驚いたのか一度目を見張り、それからゆっくりと瞬きした。
「……そうか。ありがとうな……改めてあの時はすまなかった、アリス」
「いえ、いいんです。とはいえ、倒れていたのを見て驚いたのは本当ですからね? 今後は同じようなことがないように気を付けてくださいよ!」
「ああ、わかったわかった。悪かったよ。……とまあ、俺の話はいいんだよ。……お前、なんかさっきからわざと話題ずらしてないか?」
「ええ~? わざとじゃないですよ~」
勝手に話がそれていくだけじゃん!
「俺はなぁ、お前らの様子を見てエドはついにちゃんとアリスに気持ちを伝えられたんだなよかったな~と思ってたんだよ! ……そっか、違うのか……。……違うのか……? ほんとに?」
「違いますね」
しつこいな。違うんだよ。って口に出さなかったの偉いよ私。




