4-4 ちょっと展開が早すぎる(3/5)
「アリスさん。先ほどのフェリシア様のお話を聞いて、最近すごく似たような話を聞いたな、とは思いませんでしたか?」
「ええ、本当に……。状況が、リーノ様にお伺いした話とあまりにそっくりで驚いています」
リーノ様は、夜会で私にしてくれたお母様からプレッシャーをかけられているという内容の話をかいつまんでエド様にも説明なさっていた。状況が似ているフェリシア様の話を聞いて、どうしても他人事とは思えなかったと付け加えて。
「リーノ様はね、自分は一代貴族を目指すつもりだから古くから続く家のように堅苦しい付き合いも不要だし、自分も仕事に打ち込みたいから結婚してからも好きな仕事を続けてもいいと仰ってくださったの」
「……ああ~、そうか! なるほどねえ、……それは確かに、条件がいいな……。普通に嫁いだら、正直クラリス様の護衛をこのまま続けるなんてかなり難しいもんね」
そっか。フェリシア様ほどの身分の令嬢なら、それなりの家格の嫡子に嫁入りするのが一番の≪正規ルート≫なのか。三女といっても侯爵家の血筋だもんね……侯爵家との繋がりを持ちたい家はたくさんある。
ただまあそうなると、フェリシア様は嫁入り先の家で女主人として采配を振るったり社交をしたり……ってことになるから、今みたいに四六時中クラリス様に付いているってことはできなくなる。
そうだよね、フェリシア様のお母様イルムガルト様も、結婚してクラリス様のお母様エレオノール様の護衛を引退したという話だし。一度持ち上がったゼノン様との婚約がうまくいかなかったのも、そこが大きな問題としてひっかかってたわけだもんね。
リーノ様は私にも、結婚しても公爵邸で勤め続けるのもいいですねって言ってくださっていた。私にとって都合のいい話って当然同時にフェリシア様にとっても都合のいい話なわけか。そりゃあそうだわ。
「僕にとっても利がありますよ。フェリシア様のさっぱりした気質は好感を持てますし、それに何よりあまり干渉してこなさそうなのがいいですね」
「お互いにね。一番大切なもの、大切な人が既に別にいる者同士だから……。二人の間は契約としての夫婦の形をとるけど、あまりお互いベタベタせずそれぞれやりたいこと、やるべきことをやっていきましょう、という感じね」
「僕はもちろんこのまま技官として研究院に勤め続けるつもりですし、それに加えて余裕があればバート兄様の補佐もするつもりです。そうなると、やはりあまり夫婦生活には重きを置けないと思いますが……それが、逆に都合がいいんじゃないか、という話になりまして……」
大切な人、ね。フェリシア様は主人のクラリス様、リーノ様はバート兄様を優先したいってことか。いい意味でお互いにあんまり関心を持たず、お互いを適度に放置して自由にやっていこ、って感じなのかな。確かに二人とも性格さっぱりしてるしね。
……な~んて言いつつ、しばらくしたらなんだかんだイチャイチャし始めるのかもしれないな? ねえ、こういうこと言う人たちに限ってさ……? だってなんか既に結構距離近いもんな~? ま、もしそうなったらそれはそれで、全然いいんじゃないですかね? ……ふふふ、顔がニヤけてしまうぞやばいやばい口元隠さなきゃ。
「そこで、ひとつ大きな問題がありまして……それが、僕が直前にアリスさんにも婚約を打診していた件です」
「えっ、あ、はい」
おっと。急に自分の名前が出てきてびっくりしたよ。
「あの日別れ際に、お互いにもっと条件のいい相手が現れた場合はこの話はなかったことにしましょうね……ということは一応お伝えしましたし、あの時にはアリスさんもそれで納得していただいていた感じだとは思うんですが……」
「そうですね、大丈夫です。ちゃんと納得していましたよ」
「いやでもなぁ、いくらなんでもタイミングが悪すぎるよね? この状況で実はやっぱりフェリシアと婚約することになってたんだよって後から知らされたら、さすがにアリスちゃんからしたら感じ悪いでしょ。そういう話だよね?」
「エド様の仰るとおりです。フェリシア様とも相談する中で、やはりアリスさんには事前に一言お伺いしておいた方がいいですよね、という話になりまして……。そういう経緯でこちらの話を具体的に進める前に、まずはアリスさんにご相談をしたくて今日お話する時間をとっていただきました」
えっ、私のことなんて全然気にしていただかなくていいのにな? 真面目だなあ!
「とてもいいお話じゃないですか、是非進めてください! 私にとっても、お二人がそれぞれいいお相手を見つけられたことはとっても嬉しいことですよ!」
これは本当に心からの本心だよ。二人とも、いい場所におさまるべくしておさまったんじゃないかな。
フェリシア様は見るからにほっとした顔をしている。リーノ様は相変わらずあんまり表情変わらないけど、多分私の言葉に喜んでいらっしゃるのだと思う。
「あ、でも! こうして私に気を遣っていただいたことについては、とてもありがたいと思っていますよ。こうして先に直接事情を説明いただいて、お互い変な誤解が生まれないように心を配ってくださったその気遣いが嬉しいです。お二人の誠実な気持ち、確かに受け取りましたからね!」
うん、これも本心だからね! 皮肉とか強がりとか、そういうのじゃないからね!
「アリス様にそう言っていただけて本当に安心しました。ありがとうございます」
「えへへ、こちらこそ~!」
よかったよかった。変にねじ曲がったりせずにちゃんと伝わったみたいだね。貴族同士の付き合い、建前とかあれこれでややこしくなりがちだからなぁ。
とはいえ今回の話、事実だったとしても断片情報を変なつなぎ合わせ方したら『私とリーノ様が婚約する流れだったのにフェリシア様に割り込まれた』とか、『私とフェリシア様がリーノ様に二股かけられてた』とか、変な評判になりかねないんだよなあ。
ここでこうしてちゃんと当事者全員が納得できてるって確認できたからいいけど、そうじゃない状態でここの誰かが外でぽろっと断片的なことを口にしたらそういう変な噂が広がりかねないんだよ。それってこの場にいる誰にとっても不名誉な話だわ。
元々、前提としてリーノ様と私の間には好感はあったけど好意や恋愛感情はあまりないよねってお互いに納得してた上で話してたし、そもそもが条件が合うなら契約しますか? みたいなノリだったし。
実際今フェリシア様とお話がまとまったと聞いて、祝福する気持ちはあれど悔しいとか複雑とかいう気持ちはマジで一切ないな……? いや、それでもねぇ……一応提案してもらった時点では悪い話じゃないなとは思ったはずなんだけどな……?
あの時と今の私、何が違う? ティナお義姉様だったら『それってエドゥアルト様と会ったからじゃない?』とか言いそうだけどねえ。……え~……、う~ん……でも、でもなぁ。でも……やっぱり、そういうことなのかな……?
無意識に視線を送っていた私に気づいたのか、机の向こうに座っているエド様がふと不思議そうにこちらを見て目が合ってしまう。あ~つい咄嗟に目を逸らしてしまった……なんかなんとも言えず気恥ずかしくて……。
「アリス様が友人になろうとおっしゃってくださったばかりなのに……せっかくできた友人を、すぐに失うことになってしまったらどうしようかと……」
「あああ、そんなことにはならないので安心してください、フェリシア様!」
台詞に驚いて慌ててフェリシア様の方を見れば、あああ……ちょっとだけ目が潤んでるじゃないフェリシア様! ……と、何かなぐさめのアクションを起こそうかと思って腰を上げかけた私は、思いとどまった。
だって、隣のリーノ様がじっとフェリシア様に視線を送ってる。あれは……表情は相変わらずあんまり読めないけど、多分気遣ってるやつだよね? ふ~ん……? や~っぱなんか距離近いんよな……?
私は思わず緩みそうになる頬に力を入れて、なんとか真顔になるようがんばった。
「はい、それはよかった。で、次は俺だよ。なんで俺までここに呼ばれてるわけ?」
「それはまあ……せっかくならついでにお兄にも意見を聞きたくて……。これから各所に色々と打診するわけだけど、その前にね」
「ふぅん、なるほど……じゃあ……」
エド様はコホン、と一つ咳払いをしてからおもむろにすっと立ち上がると腕を組んでその場に仁王立ちした。
「……認めんぞ!! お前に可愛い妹をやるわけにはいかん! どうしてもというなら、この俺を倒してから行け~!!」
「………………あの。この茶番、付き合った方がいいんですかね?」
リーノ様は座ったままでエド様を指さしながら、額に手をあててうなだれているフェリシア様に尋ねていた。
「…………申し訳ありません、うちのお兄がくだらないことを……。……多分、こういう台詞を言ってみたいだけだと思いますから相手にしなくていいですよ……」
「えっ、二人とも反応が冷たくない? せっかくお約束のコレができるまたとない機会なのに〜。そこは、お義兄さん!! 妹さんを僕にください! だよね!?」
「はぁ~……冗談でも可愛い妹とか言われると鳥肌が立つからやめてほしいわ」
「えっなんで? そこは本心だけど!?」
「…………だからぁ、そういう言い方はむず痒いからやめろっていつも言ってるでしょ!」
あら、フェリシア様が耳まで赤くなってる。おやおや~、照れてる?
「え~、でも本心だからな~。俺はフェリシアに幸せになってほしいんだよ」
まあ、確かに本心なんだろうねえ。フェリシア様は真っ赤になりながらエド様に向かってぶんぶんと手を振り下ろしているけど、エド様は他意のなさそうなへらへら笑顔のまま余裕でフェリシア様の攻撃を右に左にと躱している。さすがエド様、ああ見えてちゃんと騎士様なんだね。イヴァン様なら普通にそのまま殴られてるやつだ。
「…………フェリシア様を照れさせる余裕があるならそういう言葉はアリスさんにかけてさしあげればいいのに……」
苦々しく呟いたリーノ様と目が合ってしまった……。まだじゃれ合ってる兄妹の二人には聞こえてないみたいだけど。思わず苦笑いすると、私の視線に気づいたリーノ様も小さく肩をすくめた。
……ねえ、そのコメントにさぁ、私はどう反応したらいいわけ? 反応にすごく困るんだけど……。




