4-4 ちょっと展開が早すぎる(2/5)
事の始まりは、やっぱり先週の夜会の日。
私やエド様と別れたあとリーノ様はフェリシア様を伴って、エド様のアドバイス通り騎士団の会場警備隊長に取り次いでもらってハチの巣について報告と相談をしたのだそうだ。
「とりあえず参加者には中庭に出ないよう周知しようってことになりまして。それからすぐに巣の場所の特定だけはしておこう、その後どう扱うかは次の日以降にちゃんと薬学研究院と相談しよう、ってことを約束してくださったんです。僕としては文句の付けようのない正に満点回答ですね」
「さすがホルスト先輩だ……あの人はほんとに話がわかる人だからねえ、あの人が警備隊長の日でリーノ様も運がよかったよ」
「そういう話をしていたところでね、そこにニケ姉がひょっこりやってきたのよ」
「え、ニケ姉が? なんでわざわざ?」
「たまたま勤務明けだったみたいで、私とお兄の二人が参加してるって聞きつけて遊び半分で会場警備に混ざっていたみたいね」
「……ま~た、あの人はそういう中途半端な迷惑なことするんだから……」
「まあ手が足りてなかったのは本当みたいで、私を見つけるまでは普通に仕事に手を貸していて歓迎されていたみたいだけれどね……。で、そこで、アデルバート様……アリス様はご存じかしら? リーノ様のお兄様なんだけれど……その方のお話になったの」
「バート様ですか? 存じ上げていますよ」
「フェリシア様。バート兄様の婚約者であるナタリア義姉さんは、少し前までここのアインホルン邸へ侍女としてお勤めだったんですよ。つまり、アリスさんの元同僚ですね」
「そうなんです。ナタリア先輩は、私にとって一番親しく接してくださった直属の先輩でした。彼女を訪ねていらしたりして、バート様も何度かこの邸でお姿を拝見しています。私も面識がありますよ」
「そうなんですね……なんていうか、やっぱり世間って狭いですよねえ」
そうだよね~。特に貴族社会はほんと狭いよ。だからその中で揉めたりすると、本当に面倒なんだけどね~。
「そのアデルバート様なんですが……この春に、ダクス領で大規模な害獣駆除作戦があったそうで、そこで大層活躍なさったそうです」
「ああー……狩猟大会かあ。じゃあそこにニケ姉も参加したんだ。ダクス領だから、ヴェレダ姉とその旦那の義兄さんも出張ってきたってこと? 姉妹で共闘したんだね」
「そうみたいね。父様も参加したがったみたいだけどさすがに王都で留守番だったらしいわ」
「そりゃそうだ。騎士団長自ら行くとか大袈裟すぎるよ、姉さんたちの活躍を見たいとか言ってる様子は眼に浮かぶけどさ。……あ、アリスちゃんとリーノ様に説明しておくとね。俺とフェリシアの父親……リュード侯爵は騎士団長ってのは話したことあったよね?」
「ああ、はい。存じていますよ」
「俺達四人兄弟でねー。上二人が姉なの。上から、長女、次女、俺、フェリシアね。長女のニケ姉は騎士団で大隊長やってて、次女のヴェレダ姉はダクス辺境伯の嫡男に嫁いでるんだ。二人ともすっごく強いよ〜」
上のお姉様ニケ様は、同僚の騎士を婿に迎えていてもうお子さんもいるらしい。リュード侯爵家の家督は、長男のエド様ではなく彼女が継ぐ予定なのだとか。
下のお姉様ヴェレダ様は、害獣のよく出没する『黒の森』を領地に含むダクス辺境伯領へ嫁入りしている。普段は貴族夫人としてふるまっているが、害獣発生時などの有事には辺境伯嫡男の夫と共に勇ましく剣を振るうのだそうだ。
「ナタリア義姉さんとの婚約の話の中で、バート兄様が騎士団で戦果を上げることで婚約を認めてもらった……という話があったかと思いますが、その時の話のようですね」
ああ、その話、あったあった。ナタリア先輩は伯爵令嬢な上に実父の伯爵がアレだったから、子爵子息のバート様では身分的に力不足なのでは……って言われてたんだよね。
でも騎士団で活躍して騎士団長に認められて、そこから旦那様に直談判する時に口添えしてもらって……って話だったっけ。
「随分活躍なさったそうで、ニケ姉とヴェレダ姉がアデルバート様のことをすごく気に入ったみたいで……自分たちが既婚者なのが惜しい、婿にほしい! みたいなことを言って騒いでいたそうです」
「ああ……その光景、目に浮かぶなぁ……」
「それで、うちの末の妹……つまり、私ですが。未婚なんだけど嫁にどう? ってかなり迫ったらしいんです。……私本人がいないところで、そういうの、ほんと……やめてほしいんですよね……」
「……悲しい現実だけど、あの二人なら言うね、わかるよ。でもあの二人に囲まれるとか圧がすごそうだなあ……バートも気の毒に……」
兄妹の二人がすごく遠い目になってる……大変だねえ。それにしても、高位貴族でもおばちゃん仕草って変わらないんだな……。
ガハハあんた、いい男だね! 残念だねぇ、私がもう少し若けりゃね!! そうだ、末の妹がまだ未婚なんだけどどうかい、もらっちゃくれないかい!! ……みたいなやつ、領地の下町ではよく見かけたやりとりだけどね。
それの高位貴族版というか、騎士団の騎士様たちのバージョンだとどんな感じになるのかな? まあ、しらんけど。
「ただアデルバート様には『心に決めた人がいるので!』って一刀両断されたんだそうです。その潔い態度に、姉様たちはますますアデルバート様を気に入っちゃったらしくて……。そこで彼がその恋人との結婚を反対されてるって話を知って、姉様たちが父様に取り次いで口添えを頼んだらしいです」
「うわ。知ってはいたけど、それにしたってあいつ怖い物知らずすぎるな……」
ほんとにね……メンタル強すぎるね、バート様。
「私も彼の恋人の職場の主人に反対されてる、って話までは聞いていたわ。その方がアリス様と元同僚ということ、私は今初めて知ったんだけど……じゃあ、その職場の主人ってつまりはヤーコブ叔父様ってことよね? ……まさか父様へ叔父様への直談判を頼んでいたとはさすがに予想できなかったわ……」
そうなんだよねー。バート様、上官に妹との縁談をもちかけられても一刀両断で断るっていう超強靭メンタルがなきゃできない行動の結果、騎士団長の口添えっていう最強のカードを手に入れてるわけじゃん。
ナタリア先輩との婚約を渋ってた……というか心配してたのが、彼女の雇用主である旦那様……アインホルン公爵ヤーコブ様なわけで、ヤーコブ様と騎士団長のリュード侯爵ヴィルヘルム様って実の兄弟だから……。結果として説得相手の実兄っていうとんでもない≪チート級≫ともいえるカードを得てるんだけど、計算づくなわけじゃなくて正面突破な行動の成果でかつ偶然なんだからやっぱバート様すごいよなぁ。
その手に強運、持ってるわ。
「そこでニケ姉に言われたんです……。アデルバート様にはそういう経緯で向こうからお断りされちゃったけど、ところでフェリシア、あなたにはいい相手はいないの? って……」
「…………なるほど、そういう流れか……」
あれ~? ……なんか、これ、すごく最近にすご~く似たような話聞いた気がするんだけど……。
確かリーノ様もそんな感じで、バート様の幸せそうなお姿を見たお母様に『いい相手はいないのか』って再三プレッシャーをかけられている、って仰ってなかったっけ。
これまでクラリス様に付き従って、王都から離れてエンテ領の別荘にいたフェリシア様。これまで見合いの話もそれなりにはあったんだけど、王都から離れているっていうことを理由にして全部先送りにしてきたらしい。でもそろそろクラリス様も王都に帰還なさるご予定だからねぇ。
そうなったらいよいよフェリシア様もこちらの王都にいるってことが知れ渡るだろうから、そういう縁談や釣書を先送りって形でうやむやにするのも難しくなるのかも。
「私がもたもたしていると、お姉や父様が勝手に相手を決めてきそうなんですよね……なにせ、あの人たち本当にせっかちなので……」
「ああ~……それはあり得る全っ然あり得る」
「そこでよくわからない下手な相手に嫁がされるくらいなら、先に自分でちゃんと相手を選びたいなと思ったんです」
「ふぅん、なるほどわかった。で、その相手がリーノ様……っていうこと?」
「そういうこと。ニケ姉との話が終わって疲れ果てているところにリーノ様が声をかけてくださって……私に婚約を提案してくださったの」




