4-4 ちょっと展開が早すぎる(1/5)
足首の捻挫で丸々三日お休みをいただいてタウンハウスで過ごし、仕事に復帰してから数日。夜会の日から数えたらちょうど一週間くらいかな。
私は公爵邸の皆さんと一緒に、使用人食堂に用意された普段よりすごく豪華な夕食を囲んでいた。
というのも私は結局夜会でまともに食事をせずに帰ってしまったことが心残りだったんだけど、エド様がその話を他の使用人にしたことがそもそもの発端なのだそうだ。
なんとアインホルン邸の料理長が、あの夜会のために王城の調理場に臨時助っ人として入っていたんだって。そこで私の事情を聞いた料理長が、夜会当日の料理を一部だけでも再現しようかって言ってくれたらしいんだよね。
使用人のためのまかない、いつも美味しいな~って食べてたけど、なるほど……料理長って、王城で働けるくらいに腕がいい方だったんだ。まあ、そりゃそうよね、公爵家だもんね……。
エド様と料理長の話を聞いていた周りの使用人たちがどんどん便乗してきて、だんだん規模が大きくなっちゃったみたいで。最終的には皆で少しずつお金を出し合っていつもよりちょっと豪華な食事を作ってもらって、自分たちで慰労パーティーみたいなのをするのはどうかって話になったということらしいの。
イヴァン様がまだエンテ邸から戻られていないこともあってか、使用人たちの仕事量は今全体的に落ち着いているからいいタイミングだったということもある。あ、もちろん使用人たちの独断じゃなくて、領地の旦那様にも事前にちゃんと許可をもらっているよ。
ニコラス様やぺルラ様をはじめとして、使用人の皆さん……侍女、執事に従僕、料理人、護衛騎士に庭師に御者、厩番に下働き、見習いさんたち……顔を見たことある人もない人もいるけど、皆和気あいあいとテーブルの料理を囲んでいる。お酒を飲んでる人もいるね。やっぱりここの皆さん、仲がいいよなあ。護衛騎士さんたちは邸の警備があるからお酒を飲まず、交代で参加してくれているみたい。
鹿のローストに、凝った装飾のミートパイ、それから暖かいスープにデザートのぶどうタルト……。どれもすっごく美味しかった……!
それから食堂の中、使用人の中に見知った顔が二人。エド様の隣にフェリシア様と、少し離れたところ……庭師見習いの少年と話し込んでいるのはリーノ様だ。確かにお二人も、夜会の日は結局お料理を全然食べられなかったはずだもんねぇ……。
フェリシア様については夜会に付き合ってくれたことと私の迎えを手配してくれたこと、そういうことのお礼の気持ちを込めてエド様が声をかけたらしいんだけど、それなら当日ご一緒していたリーノ様も……という話になったんだよね。
さて。使用人慰労パーティーはまだまだ続いているようなんだけど、私はそろそろお腹の具合もいい感じかな……ってなった辺りで、フェリシア様に声をかけられて応接室の一つへと移動した。部屋に入ると、ソファに既にリーノ様とエド様が座っていらっしゃった。
「へえ~。それで毎日少しずつ動かしてるの?」
「そうなんです。一度に動かすと働きバチが迷って巣へ帰ってこれなくなってしまうらしくて」
「逆に少しずつならちゃんと帰ってこれるのがすごいなぁ。どんな分野にでも専門家っているんだねえ、そういう自分の知らない話って聞くのが楽しいよ」
「あ、アリスさん。フェリシア様」
「アリスちゃん、フェリシア~おつかれさん~」
ドアの開閉音に気付いたのか、リーノ様とエド様がこちらへ視線を向けた。私たちは挨拶しつつ、勧められてソファへと腰掛ける。
同僚の侍女が食後のお茶を四人分運んでくれて、退室していった。
「さっきのお話、あの日のハチのことですか?」
「そうそう。無事に巣を発見できてね。最終的には、研究院の温室辺りまで動かす予定なんだって」
「そうなんですね、よかったです」
「温室のある区画は基本的に技官さんたちしか立ち入らないから危険も少ないし、ハチの巣を置いておいてもいいかなってことで決まったみたいだよ」
「元々人間に対する攻撃性は低い種類のハチではあるんです。ただ、それを知識として知っていたとしてもやはりあの大きさで向かってきたら驚きますよね」
「人間が驚いて攻撃しちゃったら、そりゃあ反撃するよねえ、ハチも」
「そうですね。……ハチの件については、本当にエド様とアリスさんのおかげで一番いい形に落ち着きました。それと……アリスさん……先日のこと改めてここでお詫びさせてください。結局エスコートを最後まで完遂できず……最終的に、エド様がフィッシャー家のタウンハウスまで送って行ってくださったと聞きました。お二人とも、本当に申し訳ありませんでした」
一度立ち上がって深くお辞儀をするリーノ様を、私も慌てて立ち上がって制する。
「ああ、リーノ様、その件はもういいです! 顔を上げてください! ともかく、その貴重なハチの巣を無事に保護できてよかったです!」
私の足首の怪我だって完治したし、食べ損ねた料理だって今日食べられたしね。リーノ様が謝ることは何もないよ。
「むしろ私は、フェリシア様にお礼を言わないと……警備の騎士様に迎えをお願いしてくださって、ありがとうございました!」
「いえ。当然です。お礼を言われるようなことではないですよ」
「でも、助かりました! 気遣いが嬉しかったですよ」
「……では、夜会の話はこれくらいで。今日はちょうどいい機会ですので、それに加えてもう一件、アリスさんにご相談をさせていただきたいんです」
「はぁ……」
もう一件? まだ何かあるかな……全然思い当たらないんだけど。
と、目線を上げたところで私は気づいた。あれ……? なんでフェリシア様、リーノ様の隣に座ってるの?
ソファには、私が一人、対面にリーノ様とフェリシア様が横並びで、それから私たちのそれぞれと横向きになるようにエド様が一人で座っているんだけど……。……ん~? なんかフェリシア様とリーノ様の二人の距離、近くない……?
はは~ん、これは、なるほどね……? 私は気づいちゃいましたよ。自慢じゃないけどこういうの結構ね、わかっちゃう方なんですよね……。
「では、僕から申し上げますかね……。アリスさん、エド様。僕たち……僕とフェリシア様は、婚約をする方向で話をまとめようと考えています」
へ~? ふ~ん、そうなんだ……。へえ~?
「ええ……?」
私は内心すごく盛り上がってしまってニヤニヤをかみ殺すのに必死なんだけど、一方エド様はな~んか苦いお茶を飲んだときみたいな……すごく微妙〜な顔をしてる。
「…………フェリシアと、リーノ様が……? えっ、いや……いくらなんでも……ちょっと展開が速すぎない? いつから、どういう経緯でそんな話になったの……?」
「……まあ、そういう反応にもなりますよね。予想はしていましたし、当然かと思いますよ」
「あの、アリス様。できれば順を追って経緯を説明したいんですが……少し長い話になってしまって。それでもいいでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
私がうなずくと、フェリシア様はお茶を一口飲んでからゆっくりと話しはじめた。




